♭210:勾配かーい(あるいは、霊長類最強メンタル伝説★KYO)
私だけが思っているだけかも知れないけど、ボルテージばっかりが青天井で上がり切ったこの場はぐんぐんと、嫌なベクトルも長大に成長し始めておるかのよう……そんな中、スターティングポジションに入ったM極くんが、いい感じのタメを作ってから着手に入った……!! 来る……ッ!! 滅裂ハンパないDEPが……ッ!! とか思って身構えていたら。
「……私は私利私欲のため、妻と息子を失った……」
いきなりのそんな落ち着いた口調につんのめるように、ええっとなってしまうけど。いや、口調じゃない、その放たれた言葉に私はいま、面食らわされているんだ。
ふぁさ、とその覆面の頭頂部から生やしたカラフルなモヒカンが揺れる。けど、それ以上に揺らされたのは、私の平常心だった。
4か月前の記憶が、いや、それ込みでここ4年間の記憶が、脊髄から大脳まで駆け上がるかのようにして、底から湧き出るあぶくのように浮き上がっては弾けていく。
まさか……まさ、かだ、ろ……?
私も頭の中の口調が定まらなくなってきているけど。いやだって、ええ? そんな。
「……私はとある筋から、愛すべき我が『元妻』が、この大会に出場するということを聞きつけ、そしてここまで辿り着いたのだ……そうだ……カネも名誉も私には関係ない……ただ、その愛すべき存在を、私は今日、攫いに来たのだからなァッ!!」
「元妻」。その単語が私の頭蓋内をガンガン跳ねまわる。M極くん。その衆目に晒されたパン一の身体は、私が見慣れていたものよりもかなり引き締まっていたから分からなかったけど。いや、ほんとにそうかな。分からないフリをしていただけなのかも知れないけど。と、
「ゲヒャヒャヒャヒャヒャ!! 度肝を抜かれたようだな姐さん……あっしがまさかかつての仇敵、マトモの野郎と手を組むとは、あ、お天道様も察しがつかんめぇいッ!!」
私の視界の左の方で、S極がそんなタメを作ってそんな胴間声を放ってくるけど、そこはもうどうでもいい。
とにかく、何で私の元夫、眞供沢 恭介がこの混沌の場にいるのよ。
何かの間違いか人違い。そんな果敢ない思いは、M極くんがおもむろに自分の後頭部に両手をあてがい、被っていた猥褻覆面をその頭部から取り去った瞬間に、かき消えた。
「デヒャヒャヒャヒャぁッ!! とくと見さらせァッ!! これぞ究極のダメ人間ッ!! マ!ト!モ!ザ!ワ!ッでぃぃぃやぁぁぁぁぁッ!!」
うん……覆面の下にも同じように猥褻マークをペイントしていたけど、その下の素顔を想像してみるに、やっぱこれあの人だわ……でも完全に間違ったイタいテンションであることの方が、何だろう、身内のあかんところを世間に開陳してしまった時に特有の、胸の奥の痛熱さをいやが応にも沸き立たせてくるのだ↑け→れ↓ど←も。




