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207/312

♭207:祭殿かーい(あるいは、真実を追いし/儚き流星)


 状況は未だ霧の中なれど、DEPを撃って評点を稼がなければ何も始まらないことは分かっていて。ま、やることはすごろくみたいな、陣取りゲームみたいな、何とも言えない様相を呈し始めてきているものの。


「……」


 盤上の向かって「右下」で佇む、かっちりとした細身の黒スーツにオフホワイトの「プロテクター」を身体の要所要所に装着した賽野(サイノ)主任は、自分の手番ということを熟知した上で、間合いを測るかのように慎重にタイミングをうかがっているようだ。落ち着いてるぅ……


<サイノ選手:着手>


 「競技場」のぐるりを巡る観客席の後ろに設えられた巨大電光掲示板にも、そのような表示が為されるけど、主任はまだ黙ったままだ。溜めるところまで溜める気なんだろう。期待度は否応増す。て言うか主任のDEP聞くのってこれが初めてかも……この試合のための「特訓」においても、ほとんど私の方の「手弾(てだま)」を研ぎ澄ます修正に終始した感があるし、どうなんだろ……


 自らは「観るダメ」と言っていた。自分ではやったことは無いとも。でもこういった場で繰り広げられる鉄火修羅場を数多く観てきているヒトって稀有だよね……えてしてそういうヒトの方が「場」を見ての最適なやつを放てるのかも。


 そんな、楽観的なことを考えていた。その瞬間だった。


「……若草クン……この場で告白させてくれ……今の今までキミに黙っていたことを」


 私のインカムに拾われてきたのは、そんな、賽野主任の感情を押し殺したかのような声であったわけで。「告白」という言葉からは何かその、沸き立つものがあるけれど、コトはそうポジティブな感じを孕んではいなかった。え? ええ?


「私はかつて……『タイトル』を保持していたこともある、『有段者』だ」


 私がその言葉の意味を咀嚼して理解する前に、観客たちの怒号のような雑多な音の奔流が、この広い「競技場」を埋め尽くしていた。


「『賽野(サイノ)』というのも偽名だ……私はかつて『ダメ』のために犠牲となった、最愛の者の仇を討つためにこの場に来た、ただの復讐者に過ぎない」


 その言葉のテンションは、いつも通りの、ふんわりとしてそれでいて落ち着きを持った主任のものだったのだけれど。それだけに、その内容の逸脱さに、うまく飲み込むことの出来ない私がいる。


「キミを利用したことは詫びる。その上で問う。この私と共に、この先も戦い抜いてくれるだろうか。優勝賞金『十億』を得て、私はそのカネの力で『奴』を討つ。それが私の……生きる目的のすべてだ」


 浮世離れ感がハンパない。同時に主任の言葉には何事にも揺るがないような芯が、しなやかに強く通っているかのようであり。当の私は、習い性にもなった真顔を晒して立ちすくむだけなのだけれど、そこには本当に何の感情も宿っていない、ただのからっぽの表情があるだけに感じている。



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