表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
195/312

♮195:憧憬ですけど(あるいは、満場/バリアフリャ/光陰)



<両者:着手時間オーバー>


 「現実」に、ようやく立ち返ってきた感があった。閉じていた五感が一気に作動し始めたというか。そんな僕に突きつけられたのは、今の今まで放っていた「もの」たちが、もう「対局」とは無関係のところで錯綜していたということだった。


 そうだよ、今は「対局」の途中だった。しかも大事な一戦の。でもそれすら凌駕するほどのトランス感が僕を身体の内外から嬲っていたかのようで。


 射す照明の眩さ、肌に感じるそれらの熱、腹底に響くような観客の声の波、相変わらずのポカン顔の、両隣りの翼とガンフさんの顔、それらが今度こそクリアになっていた。


 出し切れた、のだろうか。今の僕は、途方も無い開放感というか、空洞感、みたいなものに支配されているような気がする。大袈裟に過ぎる言い方かも知れないけど。


<アオナギ:89,333pt VS ムロト:29,301pt>


 !! 「3倍」、僕の方が有利と思っていた。だがしかし、3倍しても、アオナギの評点にはわずかに届かなかった。やはり……滅裂な世迷言をただ振り回していた僕に、評価が為されるわけはなかったんだ。


<倍率『20倍』と『60倍』を掛けますと……『1,786,660pt VS 1,758,060pt』……『28,600pt』、アオナギ選手のアドバンテージとなります!!>


 う……互いに何十倍に乗算されるから、微差だったとしてもそんだけ差がつくのか……2万8千って……結構なもんだよね……僕は急に現実感を増してきた場の重力に、図らずも押しつぶされそうになってしまうのだ↑が→。


<こちらを換算いたしますと……ムロト選手の、アオナギ選手への『ハネ満直撃』っ、と換算相成ります>


 実況少女は極めて自然にそうのたまってくるけど、どういう計算軸? 逆らっても無駄そうなので何も言わない(言えない)けど、とにかく、「12000点」が僕からアオナギに支払われることと相成ってしまったわけで。


 プラス、降りた翼の分(3000点)、ガンフさんの分(6000点)のやり取りも入り、「東一局」を終えての全員の点棒の多寡は以下の通りとなる……っ!!


<東:ガンフ :19000

 南:アオナギ:46000

 西:ツバサ :22000

 北:ムロト :13000>


 圧倒的……ッ!! 圧倒的な大差が、この序盤も序盤でつけられてしまったことになる。


「……」


 僕の方を睥睨してくる、真正面のゆがみ面は、相変わらず、僕の瞳の奥の方を覗き込むかのようにして、平然としているけど。やはり……この御仁は、やる時はやる。ということなのか……窮地。


 だが。


「……ありがとうございます」


 僕の声帯を震わせたのは、そんな、心の底からの、感謝の言葉であったわけで。その音声が響くか響かないかの内に、アオナギの顔が急激に歪んではいけない方向に歪んだのを視認した。


「……全てを吹っ切れたました……過去も自分、今も自分、未来も自分……」


 もはや自分でも言っていることはよく分からなくなってきていたが、両脇の二人の身体も小刻みに震え始めたことを視認する。


「……解き放ちますっ、自分の中の『淫獣』をっ。おとーさんとの大切な思い出のすべてをっ!!」


 極めて爽やかにそう言い切ったはずの僕だったが、ひぎぃ、なんか外れちゃいけない部品まで吐き尽くしちゃったみたいでヒトの根源的なナニかを履き違えた上にそれがやけにしっくりきた超絶な表情を醸しているよこわいよぉっ、との叫びが、アオナギのz軸に沿って歪んだ口から放たれたわけで。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ