#181:神妙で候(あるいは、シャット/ワイルダー/インサイト)
決勝の組み合わせとやらが決まったようだ。我々の立つ長方形のフィールドの長側面に設えられし巨大な「画面」に、線で描かれた「山」が姿を現していた。
姫様と私は、大きく二つに分かれた「山」の右側に割り振られた。どうやらシードとはならなかったようだ。むしろそのシードに覆いかぶさられるような山の一合目に位置する。すなわち、5チームでなる「ブロック」を勝ち上がるのには、「三連勝」が必要となる、最もきつい場所に配置されてしまったようだ。まあそのくらいの覚悟はすでに出来ていた。運営と称する者たちにとって、我々はイレギュラーなる異分子なのであろう。全力で排除に動くは、これ至極当然。私がやるべきことといったら……受けて立つ、それだけのことである。
「ジローネット」
不意に、姫様が私を呼ばわった。「ファイナル予選」からこちら、何か思いつめたかのように寡黙と化してしまった御仁であるが、いったい何を思われているのかは、私のような下賤なるものには皆目わからぬ。はっ、と返事をし、立ったままの略礼にて、その御言葉を待つが。
「あの『少年』……何か得体の知れぬ気を感じる。外見からは、そうと見えないところ……そこにこの『ダメ』とやらの本質はあるのであろうか」
難解な御質問である。私などにはまだその「ダメ」の本質はおろか、その表面にすら触れられていないような気がすると言うのに。
「そしてギナオアとガンフ……あやつらは自らを『添え物』のような言い方をしていたが、あにはからんや、これまで勝ち抜いてきたこと、それは相応の実力がありし事とも思われる。わらわに与えてくれた『DEP』然り。あの者らの『本気』も……見てみたい気もする」
姫様はどうやら、この決勝トーナメントの初戦に、並々ならぬ興味を抱いておいでのようだ。うがった見方をするのならば、「異分子」同士を体よくぶつけられたと見れなくもないのだが。いや、それはもう言っても詮無いこと。どの道、最終的に勝って得るのは一組だけなわけで、過程はどうとでもいいとの見方も出来なくはない。それよりも。
「……」
私は先ほど姫様がおっしゃられていたことを思い出している。「勝ちも負けも自らの中に呑み込む」……要するに、謀りごと無しで全力で戦い抜くことが大事であると、そういうことなのであろうか……負けてしまっては全てがわやではあるが、勝ち方にも相応の何かがある、そういったことなのであろうか……己風情には何とも理解がおぼつかぬが。
そんな、深い思考の最中にあった私の耳に、
「えやぁ~はっはっは!! えやぁ~はっはっはぁ!!」
「お前らが初っ端の相手かい!! なるほどなるほど? 野郎共は惨殺せしめる『DEP』を撃ち放つことぁ出来るようだが、だったら女のあたしら相手ではどう出るかねぇ? ククク、どーおでるのかねぇぇぇぇぇ?」
何と言うか、この地に来て、幾度となく聞いたような物言いの言葉が我々に向けられてきたわけであって。
無言で振り向いた先には、鮮やかな赤と橙色のぴったりとしたスーツに身を包まれた小さな人影がふたつ。どうやら、我々の決勝初戦の相手らしいが。




