♭177:玄妙かーい(あるいは、世界にセットだ/カマテンダー)
<ああーっとおっ!! 来てしまった……来てしまったぁぁぁぁっ!! 公式から消された記録……『女流謳将戦』での実質最終勝者……類まれなる格闘センスと、それを凌駕する『ダメ』の極致的災害級エレぇメンタル……生まれも育ちも鉄火場一丁目、修羅場の釜底で産湯を使い、姓は水窪、名は若草。人呼んで不気味谷のWAKAKUSA……ッ!! アンド、ディーリングは一流、怪獣懐柔力も当代随一ッ!! 一級野獣てなづけ士、賽野 鳴介ッ!! いま、光!! 臨!! だぁぁぁッ!!>
テンションぶち高めの実況女の高らかな煽り声と共に、私と主任は、初戦の「戦場」であったところの何とかフィールドへとゆっくりと歩み出してきたわけで。いやそれにしても何つう紹介の仕方だよ。しかして、「戻ってきた」感は多分にあるわけで、やっぱりVRVRで済ませようとする昨今のやり方には疑問を感じずにはいられない……
「……」
そんな根底への疑義を抱きつつある私だけれど、まあそれはそれ。ここいちばんに集中していこうという割とまっとうなメンタルにてこの「場」に立っている。先ほどの控室での姫様の言葉。それよりも前に彼女の境遇とか聞いていたから、正直意外な気がしていた。「ファイナル予選」の時に「共闘」を謀った私らだったけど、その時から心のどこかで「姫様を勝たせてやりたい」、そんな気持ちが出ていたのかも知れない。
勝ちも負けも、自分の内に呑み込む。
姫様には、そんな覚悟がある。この「ダメ」の滅裂さの中で、何かをつかもうとしてるんだ。他方でカネと男を掴もうとせしこの私が、あまりにも卑小に映る気もしないのだ↑が→。
いや、それは全部ひっくるめて「欲望」。求めるところはきっと、「魂の浄化」。そのためには多分「過程」が重要なんだろう。姫様はそこに気付いたのかも。まあ何か、達観しすぎ感もあるけど。
スポットライトと緑のレーザーと、様々な色のカクテル光線が乱舞しておるサッカーグラウンドくらいの広さの「フィールド」は、ぐるりを囲まれた観客席からの怒号のような歓声によって、空気がびりびりと振動しているかのように感じられた。
室内は室内なんだけど、天井はドーム状の弧を描いて遥か高みにあるし、空調はがんがんに掛けられているんだかで客席の熱気と相まって熱風みたいなのが巻き起こってたり、スタンド上からは眩いライトが浴びせかけられてきていたりするので、何と言うか「外感」がある。
「若草クン、全力の平常心でぶつかろう。多分それが最善の策」
喧騒の中でもはっきり聴こえたその低い声は、隣でニュートラルな笑みを浮かべる主任からだったわけで。私はもちろんミクロン単位で最適調整された微笑でそれに応えるわけだけど。
すべてを吐き出せたのなら、またすべてを受け入れられるのかも知れない。
私は「フィールド」に鎮座している4つの巨大なリング状の物を見やりつつ、気合いを入れ直していく。




