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170/312

♮170:信念ですけど(あるいは、無理目の夏/ハンガーノックオーガスタ)


「ぬあ~はっはっはっは!! ぬあ~はっはっはっはァッ!!」


 多分に文頭にタメを作りながら、林の中より余裕の歩様で姿を現した人物は、笑い声を上げ続けているのだけれど。普通そんなに笑いは続かないよね……


「ここまで御膳立てが出揃うとは、流石の私にも予想できなんだわぁ~はっはっはァッ!!」


 芝居っ気がたっぷり過ぎ感のあるその物言いは、物言いだけでは最早誰なのか分からないくらいテンプレの俎上に乗っかっていたのだけれど。サバイバルスーツに身を固めてるから、さらに判別つきにくいんだよね……


 しかして、VRの粋な計らい(粋か?)により、その首から上は常に露出されているかの如く映っているわけで、従って首実検であれば可能。ただいま突拍子もない台詞をのたまったのは、赤茶けた色のこれでもかのソバージュを展開した女だったわけで。うううん、何か見た事ある……職場で。


 僕の脳裏で、そのいまどきあまり見ない髪質感の只中に、何故かは分からなかったけれど、真っ白いカチューシャを嵌めてみる。すると。


「……!!」


 わかった。思い出して……しまった。こいつ……こいつ率いる謎の黒服軍団が、僕をさらいに職場まで押し込んできたんだった。確か名前は「シギ」なんとか。拳銃(チャカ)呑んでるヤバい奴だ。


「フハハハ!! 『ムロトミサキ』もどうやらいるようだね……残念だね……大人しく我らの軍門に下っておけばよかったものの……」


 「悪の組織テンプレ台詞集」というものがあったのなら、二巻の冒頭くらいに記載されていそうな頻度高めのアオり方だ……いや、今回も既にその手には拳銃が握られているよ……「バイザー」からの情報によると、そのシギの銃には既に「DEP充填」が為されていることが確認されるけど。便利な機能だが、だからといって事態の打開にはならん……


「……!!」


 見ると、次々に木陰から姿を見せた輩たちは、一様にその手の得物を構えてこちらにその銃口を向けているよ……やはり。包囲しつつ「充填」をカマされたと、そういうわけか。


「命乞いは聞かないよぉ……こないだはまんまと逃げおおせてくれやがって、こちとら堪忍袋の緒が切れかけなんだよねえ……」


 ソバージュ女、シギの言葉が不気味に凪ぎながらこちらに放たれてくるのだけれど、多分、もう余裕と見ているのだろう。正面7組、背面2組が包囲しているというのなら、こちらの4組にはもう数の多寡も、位置取りの優位さもへったくれも無いわけであり。


「アオナギ……さん、何か策があったりとか……」


 身をこごめるしか出来てない僕が、足元の岩場の石に腰かけながらやけにリラックスしている、その痩男に問うのだけれど。


「『策』ってほどのもんはねえ。ここまで来たら真っ向勝負。それだけよ」


 そんな言葉を放ってくるアオナギだけど、真っ向勝負も何も、完全包囲なんだ→が↓。ダメだ。今回、あてにならなさそうだ……前の大会でもあてになったのって限りなく限定的であったことだしね……僕は真顔に移り変わる自分の顔筋の収縮を感じ取ることしか出来ない。



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