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♭017:諦観かーい(あるいは、切っても/張っても/恒久バロネス)


「ええと、そのダメなんとかにですね、私と主任が参加すると。ざっくりまとめるとそういう塩梅になるわけでしょうか……」


 能面を通り越した無表情になりつつある私の全く熱を帯びてない言葉にも、賽野主任は、そうそう、とあまり普段見たこともないような熱意を込めて頷いてくる。


 ダメだ。もぉぉう、ダメだ。繋がっちゃったよぉ、よりにもよって、いちばん繋がってほしくないところがぁぁぁぁっ。


 というよりも、今まで完全に忘れていた諸々が、がぶり寄りが如く、私の記憶を蹂躙しようとしてきてるよ何だよもう……


「ええと、でも……その『ダメで頂点を目指す』っていうのが、ちょっと言ってる意味がわからないっていうか……」


 本当は分かり過ぎるほど分かっているのだけれどね。まあちょっとずつ日常と非日常を擦り合わせていくという作業がね、こういった場合には必要なのよ。これ自体が壮大な夢であるという一縷の儚い望みを賭け、それを確認できそうなものを目で探すものの、手近に暴力を加えられそうな人物が皆無ということに何故か戦慄を覚える。


 いや、それがごく普通、日常ってやつなんじゃあ……一瞬、ちらりと脳内を掠め去った、脂ぎった長髪の、ひどくしゃくれた顎のビジョンを振り払うようにして、私は今日何度目になるかはわからないけど肚をくくることとする。


「……己のダメなエピソード、『DEP』を様々な力に換えて敵を撃つ。それこそが、『ダメ人間コンテスト』」


 主任が遂に決定的なワードを持ち出してきたところで、強力な磁場のようなものが私の頭の中の芯的なものに宿り、周りに粉々に飛び散らせていた記憶の破片粒とでも言うべき忌むべき、消しておきたい記憶の諸々を一瞬にして引き寄せた。


 すべてが、戻ってきていた。あの記憶が。蘇らせてはいけない類の記憶たちが。


「……『ダメなエピソード』を……どういうことでしょうか?」


 しかし表面上は全く存じ上げませんの体で押すしかない、ここは。


「ダメなエピソードをつまびらかにし、評価者がそれに評点を付ける。ダメであればあるほど、その点は高くなる。そしてその評点を物理的エネルギーに換えて戦うんだ」


 ……その四年に一度の世界大会が、まさにの私の現職場、この「台場フロント=シーゼアー=カジノ」の、さらに地下深奥で行われるというわけか。もってるねえ、もってちゃダメなもんばかり私はもってるよ。


 磁場だこれは。宿命という名の……これは磁場なんだろう。オーケー、覚悟はなあ、もう出来てんだ、実際。そんな内に気合を滾らせ始めた私に、主任がゆっくりと、しかし予想外の言葉を続ける。


「……もちろん水窪ミズクボさんが『ダメ人間』と言ってるわけじゃあない。『日本語の多義性』『勝負の駆け引き』……今回開催される『摩訶まか大溜将だいりゅうしょう戦』は、言ってみれば、ギャンブル、さらにはカジノゲームの側面がかなり強いものであると、俺は考えている」


 ……何と。思わぬ方向に話が蛇行し始めたのを感知し、私は一体どの体で向き合えばよいのか、少し自分を見失ってしまうけれど。


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