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166/312

♭166:深緑かーい(あるいは、姿なき/しじま/スティルネッサ)


 ひとまず、身を隠せる場所を探そうそして物陰に潜もうとのことになった。乾坤一擲の案は、浮かばないまま。そもそも「共闘」なんて、運営がおいそれと見逃すわけが無かったとも思うけど。


「……」


 人ひとり通るのがやっとでありながら、急な斜度と曲がり角をもってぐねぐねと上方へと続いていく……十人いたら八人くらいが「けもの道」を想像するくらいのけもの道を、主任がその細長い体を屈めながら先導してくれるわけだけど。


 毎度毎度のこの七面倒くささは一体何なんだろう……だいたいダメの本質から離れたところで奇天烈な諸々を繰り広げようとして……結局その要素生かされないってことが多々あるっていうのに。


 にしても、ここまで視界が利かないところとは。いや、まあ確かに四方八方見渡せるところでやったら、それはもうただの銃の撃ち合い合戦になってしまうっていうのは分かるのだけれど。これがサバゲーの醍醐味とでもいうのだろうか……それにしては「弾なし」の状態からやるっていうのが改めて解せない。そして弾を入れたらもう後戻りのできないドンパチが始まってしまうだろうということも。やっぱり、運営が殺しに来てるってことなんだろうか……何か今回の大会は「愛」を感じないのよねぇ……まあ間違った方向への愛ならば、それはそれで厄介ではあるんだけどねえ……


 脳の周囲に詮無い思考を巻き付けるようにしながらも、私と主任は結構急な坂道を登り続けるのだけれど。ふいにその長い左腕が後ろの私へと差し出されて来た。


「……!!」


 前言撤回。無粋なグローブにお互い手は包まれているものの、主任の手のぬくもりは、それを通過して感じられている。だいぶ足元ぬかるんで来たから、って主任は後ろを振り返らずに素っ気なく言っただけだけど、なんか、それもいい……というか、「ぬかるみ」すら表現するこのVRハンパねい……でもそれナイス……


 ぽんやりと私も本質とやらを履き違えながら、作られたとは到底思えない自然な感じの自然の中を歩いていく。ああもうこの時間が続くだけでいいや……


 そんな滅裂ながらも、幸せを感じていた、瞬間、だった。


<No.11689:DEP充填完了>


 視界のただなかにそのような文字がぽんと表示されると共に、ビィビィといった機械音が耳奥に流れ込んでくる。ええ?


「……動き出したってこと? 運営が?」


 自分に確かめるように、主任に確認するように呟いた私だったが、「装填」したということはそういうことだろう。私は手探り操作ながらも、その「充填者」がこの「フィールド」上のどこら辺にいるのかを調べ始める。


「……この道を登りきって、右手方向にくだったところだ。近い。距離100mも無いってくらいだ」


 主任も同じくその出どころを見極めようとしているようだ。私らが見つかったのだろうか。いや、今の「充填者」の方角距離から推測すると、丘ひとつ挟んだ格好になる……視認はお互いできないはずだ。じゃあ他の「仲間」が狙われている……? であれば、加勢にいかないと。ひと組でも欠けられたら、あとはもうジリ貧まっしぐらだと、そう思うから。


「……いや」


 主任も同じ考えだろうと思って、坂を駆け上がろうとした私だったが、手をやんわりと引っ張られた。


「この番号は、あのメイド&執事のだ……まさか、迂闊に『DEP充填』をすることの危険さが……わかってないのか?」


 ええー、それやばいんじゃないの。運営側の集団に囲まれるんじゃないの……? どうしよう、加勢に行きたいけど、それはそれで敵さんの懐に自ら飛び込むようなものであって。


 私はしばし真顔のまま固まってしまうけど。決断はもう下さないといけない。



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