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♭016:鉄板かーい(あるいは、予定調和という名の、慟哭)


 あかんデジャヴ感が、真顔の毛穴ひとつひとつを蹂躙せんばかりに脂汗が如くに沸き上がってきている。


 「世界一」。この世で何本目かの指に入るほどのパワーワードだ。


 何故、そのような言葉が、このような局面で放たれる? これはあれか悪夢か?


 しかし、目の前で軽く微笑んでいる主任の顔を見るに、これを夢で片付けるのはいささかに勿体ないという、日本ジャポネスちっくな感情にも支配されつつある私を自認している。ダメだ、思考がバター化するほどにぐるぐると廻りに廻って、脊髄がフットーしそうだわ。


「……ディーリングカップで世界を狙うってお話でしょうか。でも私まだほんとに駆け出しですし……『世界一』なんてとても……」


 これは質問でも謙遜でもない。嫌な予感を何とかして振り払おうとする、切実で、しかしその実、無意味な抵抗だ。


「……今から俺が言うことは、荒唐無稽に過ぎる事だと思う。でも例えそう思っても、最後まで聞いて欲しい。いいかな?」


 否定もされなかった。ああーやっぱりぃー。やばい向きのベクトルにぐいぐい引っ張られる感触を全身で感じながらも、主任のこんなにも真摯な顔と声、はじめて……という、惹かれまくりのベクトルにも吸い寄せられているわけで、身体裂けるっつうの。


 一縷の望みを賭け、私はそれでも続きを聞くために、頷く。背筋がぴんと伸びた、いい姿勢のまま。しかし、


「……このカジノに、『地下』があることを知ってるかい?」


 「地下」。何となくの嫌なワードだ。私の脳裏に、国技館の床に開いた真四角の黒い穴のビジョンが結ばれてしまう。いやだー、そっちにいかないでー。


「人工島の地下に穿たれた大空間、その名も『アナグネハミルア=ドチュルマ=国技ホール』」


 異次元の言葉が主任の口から飛び出すと共に、私の嫌な予感は最高潮に昇りつめつつある。何か聞いたことあるぞ。ヤバみが押し寄せてくる……っ!!


「そこで四年に一度行われる、『祭典』に、一緒に参加してほしい。それが俺からの頼みだ」


 「祭典」も、やばいキーワードだぞぉー。でも「主任と一緒に」、という、見せかけだけだけど甘美な響きによろよろとよろめきつつある自分も確かにいる。いやあかんって。


「……そんな……私なんか、ダメですって……」


 多分に誘引されるかのように、そのワードをツイートしてしまった。もはや絡め取られとる。そしてもう抗う術はないのだろうとの諦観が、私の脳髄を埋め尽くしていく。


「ダメ、ダメ、ダメ。いいじゃあないか」


 始まる。奈落のはじまりが。


「俺らが目指すのはダメの頂点」


 そうだよね。そんなこったろうとは思っていたよ、途中からは。


「ダメ人間の、ダメ人間による、ダメ人間のための祭典、それに、俺と一緒に参加してほしい。感じるんだ、水窪さんに、その才気を」


 はいはい、わかったわかったわかりましたよ!! ダメの野郎……忘れた頃に、もたれかかるようにして関わってくんの、ほんとやめて欲しい。でも主任に見出されている……それって、それ以上に進展、の可能性、示唆してない?


 滅裂思考に後押しされながら、もうこれは運命だねあははーという強烈な達観が全・中枢器官を貫いていき、私は悟り、そして決意するのであった……


 やりゃいんだろやりゃあああああぁぁぁっ!!



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