♮157:譫妄ですけど(あるいは、僕たち/挑むなら/ピクニック)
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カウントゼロになると同時に、思てたんよりかなり素っ気なく、「ファイナル予選」の開始が文字表示のみにて告げられたのだけれど。毎度毎度の運営の温度差が僕にはいまいちよく分からない。
「岬……お、俺らはいったい、どんな異世界に転移しちまったってんだい……?」
隣からは、翼の息を呑む声が聴こえてくるけど、数分前までの出来事くらいはきちんと記憶しておこう? と、驚愕でその無駄に鍛え上げられた体を震わせている相方を冷めた目で見やる。でも、確かに現実と見まごう臨場感だ。
森。木々がまさにの林立感をもって、僕らの周りを覆うかのように立ち並んでいる。どこから「異世界」という発想に繋がるかは謎だが、確かにいまさっきまでいた「ホール」の気配は微塵もない。この技術力……ほかのことに費やせばいいのに……
右手側は急な斜面になっていて、その下には小川が流れている。そのせせらぎ音も自然なサラウンド感で体に直に響いてくるものだから、本当に屋外のそこにいるような感覚にとらわれてしまう。周囲は無音に近い静寂だが、時折かなり遠くからの鳥の鳴き声が聴こえてきたりして、何と言うか、奥行きのある静寂を感じさせるわけだけど。
しかし、全般的にのどかな山の雰囲気だ。翼を促して、とりあえずは今いるけもの道を前方へと進もうと決める。と言うか「歩こう」と意識するでもなく歩けているのもまあ凄い技術だよね……
右手にぶらさげたままの物騒な拳銃を除けば、極めて平穏なハイキング的側面を晒している現状だけど、もう始まってんだよね? そう考えると不気味とも取れる静けさだ。木々の間に目を凝らしたりするものの、やっぱり、そこに動くものの気配はなかった。
半径1kmのフィールドと言ってた。こんな山間のとことは予想できてなかったけど、その範囲に計140名が分散しているんだよね……切り立ってる斜面とか、草木が密生しているとことが多いから、行動/進入できる範囲は結構狭い……イコール出くわす可能性も高まるってことだ。警戒しないと。
弾の込められてない小銃を両手にひとつづつ構えつつ無駄にあちこちに銃口を向けつつ進むといった、大して意味のなさそうな行動をしてる翼の後ろ姿を眺めながらも、僕も背後とかに視線をやって異状がないかを確認しつつそろそろと歩いていく。
それにしても「共闘」を誓ったものの、バラけるとは想定外だった。お互いの居場所が分かってない今、協力し合うも何もないよね……僕はしばしの真顔に顔面を硬直させながらも、どうにかなんねえか的思考を巡らせるばかりなのだけれど。




