♭154:肝心かーい(あるいは、拳銃マン/お風呂どう?)
心の奥底を図らずもぞんぞこ冷やされながらも、私らは黒の全身タイツっぽいスーツの上に、嗚呼これ何か既視感あるわ……というような、樹脂製の軽くて薄くて硬くかったり柔らかかったりする「プロテクター」状の物を手足肘膝腰胸肩首顔頭……と、ほぼ全身に隈なく装着させられたわけで。見た目は物々しいけど、そんなに動きを制限するものでもなくて、まあそこは流石としか言えん。カネかかってんだろうなあ……
タッパは私より頭いっこ小さいけれど、妙な存在感を醸している「少女」……あ、いやもう諸々説明受けたから「姫」と呼ぶけど、その姫様は更衣室から出ると、係の黒服の誘導に従ってすたすたと歩いていってしまう。さすが姫。その後をお付きの何とかって言ってた長身の執事くんが慌てて追いかけているけど。
モノホンの姫だとはね……多少のことは真顔で流せるようになっていた私だけれど、いや世界戦は凄いねえ……真顔越して禍Pやんけ……と口ずさみたくなるほどに、驚愕感は満載であるが。
気圧されとる場合でもない。姫はどうやら次戦の「武器選び」に向かっているようだ。ちゃんと考えてんだね。私らの方がぼんやり生きてんね、ごめんね……
「姐さん、『武器』の選定が、この後の対局において大きな鍵になる……と俺は踏んでいる」
と、いきなり私に並びかけ、そのようなワケ知り顔でアオナギがのたまう。のが生理的に受け付けなかったため、私はその貧相な首元の、プロテクターの継ぎ目辺りを必殺の人差し指一本拳にて貫き通して黙らせる。
こふれどぉる、のような呻き声を上げて崩れ落ちるアオナギの様態を見て、薄い存在感の「少年」がガタガタ震え出すけど。大丈夫。不埒なことさえせんかったらワイは無害な人材やで。
しかし「武器」。いろいろ選べる余地があるっつうのか。前戦の「搭乗機」に関していうと、96もの種類があったわりには、その性能差と言えば皆無に近かったという前例がある分、私はまともに選ぼうという気もさらさらないわけなのだけれど。順位も下だから、いいやつから取られているだろうし。
ホールの一角に設えられた出店のような佇まいの「武器屋」と大書されたコーナー。これが目に刺さるうさん臭さという奴か……真顔にも疲れてきた私は思い切りにっこりと笑ってみたりもするのだけれど、「武器屋」のカウンター奥の黒服ら二人がのけぞったに過ぎなかった。
「ここちらから、おお選びください……」
震える声でカウンター上を示される。赤いラシャの張られたそこには、大小様々な拳銃やら、ストラップのついた小銃、はたまた長尺の狙撃銃と思われしものまで鎮座していたのであって。
どれがいいんだ……? まさかダメの場でチャカを撃ち合うなんて思ってもみなかったけど(いや、それは嘘か。面白そうならなんでもやるのがダメの本質とも言えなくない)。
私はこれでもかの非日常感に、自分の立ち位置を失いつつ、ふわふわ浮いている感じを覚えている。いやあかん。気をしっかり保たねば。




