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153/312

♭153:喝采かーい(あるいは、待ち望み/望み薄/エスポワーリエン)

 うん、今回はまともだ。まともな全身タイツだわ……


「……」


 前回が所々がぱくりと全開する代物であったゆえ、警戒はしてみたものの、今回身に着けさせられるのは、黒い全タイのようなウェットスーツのような、極めて普通感を醸し出す、そのようなものであったわけで。


 ただそれだけに、これからの勝負……「対局」が極めてガチい感をも漂わせてくるわけであり。


「……つーか、何であんたがこっちに?」


 特徴の極めて薄い「少年」くんが、ロッカーの扉の陰に隠れるようにして、いそいそと着替えている。ここ女子更衣室だけど。


「……あまり騒がないでください。僕は何も見ませんから」


 これでもかと目を食いしばってるけど、うん、まあそうゆうことか。いろいろあるのよねーこの界隈は。でも見ないと着替えにくいんじゃ……今も全タイを探しながら手探りであらぬところを探っているけれど。まあいいや、それよりも。


「そんで、あんたは、何者?」


 今度は逆隣りでメイド服を丁寧に脱ぎながら、その褐色の水を弾かんばかりの肌を惜しげもなく晒していく「少女」に声を掛けてみる。日本語通じるとは思わなかったけれど、私らの耳には今も小型のイヤホンが挟まっているわけで、諸々の通訳は勝手にしてくれるのだと踏んだ。果たして。


<ワタシハ、アフリカハ某国ヨリ、日本ノ文化ヲ学ビニ来タ、留学生デス>


 嘘くさい合成音声が、これまた嘘くさい言葉を運んできやがった。なわけねーだろ。初戦のあのSATSURIKUを私は見てんのよ。こちらを表情の無い大きな黒い瞳で見据えてくる、その美麗としか言いようの無い彫り深い小顔からは何も読み取ることはできなかったけど、空恐ろしいまでのこちらを引き込んでくるような何らかの「気」……ヤバさで言うと、あの初摩ハツマの奴を彷彿とさせてくる。と、


<アナタコソ、ダレ>


 ほとんどその形の良い唇を動かさずに、そんな生意気なことをのたまってきやがった。瞬間、顔面の筋肉の一部がほどけるように力を失うと、もう習い性になった(なってどうする)不気味谷ブキミダニカオと化して、少女と相対するのだけれど。


<アナタハ、何ヲ求メルノ>


 微動だにせず、そんな風に畳みかけられてしまった。何なの、この迫力は。


「私は……おカネ。カネさえあれば、何でも出来るから」


 結果、そんな何もこもってなさそうな言葉を吐き紡ぎ出してしまった私だけれど。ふーん、みたいな、鼻から息をつくと、その少女はまるでもう興味は失ったかのように着替えにまた取り掛かり始める。やろう……何だこの敗北感……歯噛みする私の眼前に、


「……!!」


 メイド服のブラウスの下には何も着けていなかったらしい少女の、送球ハンドボール並みの双球がまろび突きつけられてくるのであった……


 形よし、張りよし。思わずそんな指さし点呼をさせられてしまうような、ツンと生意気に上を向きながらも、弾むかのようなたわむかのような柔らかさを見た目にも感じさせてくる……流麗なる曲線は、これが美の正解である、と高らかに主張するかの如く、厳然とただそこにあるわけであって……


これらが、メイド服の薄地の下で自由自在に踊り狂ってたというわけか……なるほど健全男子であれば、コンマ2秒で平常心400%乖離待ったなしであろう……恐ろしい武器を持ってやがる……


 私はさらにの敗北感を植え付けられながらも、左隣の少年と共にいそいそと着替えるのであった。


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