♭146:間髪かーい(あるいは、センターオブジ/キムンカムイット)
「えんぼすかこうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!!」
諸々あったかはともかく、対局自体は後手が着手無しのまま終局した。
「……」
したのだが、何となく解せない感じが私の顔面を色濃く覆っているんだろう、覆いかぶさる態勢のまま、主任が、大丈夫? とこちらを労わってくれるので。
はいです!! と、とてもいい笑顔でとてもいい返事をするほかは無いのであった……
「いいぞ水窪……人間の顔貌からヒトとしヒトるナニかを真空化したかのような『不気味谷』!! 相対し人間を必ずフェイバリットホールドで殺すマン、人呼んでシンプルに『野獣』!! そして鏡面反射して無限の人間万華鏡を錬金する『漠獣』……!! ククク、最強じゃあないか。最強のダメ人間ここにありだ……ふあっはっはっは!! いいだろう、いいだろう……これからの暴れっぷり、とくと見せてもらうぞあ~はっはっはっはぁっ!!」
この世界を司る者に、脳髄を直結されてんじゃないの的、痒い所に手が届きまくるような説明長台詞を遺言にして、再生怪人ユジシは相当強めの折檻電流に貫かれると、冒頭の何とも形容しがたい叫びを発して、果てたのであった……
うーん、結局わけ判んないままだ。私の中の誰がそんな能力を会得したというのだろう……ま、でも、発現したらほぼほぼ最強の「能力」だ。利用できるものは利用する。これが私の培ってきた人生哲学。いい感じの手駒ができたってくらいに納得しておくのが吉と見た。そして、
「若草クン、ここからはもうフルスロットルだ」
主任の声に我に返ると、私は右手に握り込んでいた「アクセルボタン」を親指でうおらあ、と最奥まで押し込んでいく。
<残りエネルギー:28,098ナジー>
結構貯め込んでたのね、ユジシ……私は視界の片隅で、その、ゴールまで充分量と思われるエネルギーが加算されたことを確認する。よーしよし。こうなったら、もうあとはゴールに飛び込むしかねええッ!!
―結果。
私らの順位は、58位/70位。
うん、何とも平凡に過ぎて何とも言えん順位だわーと、諸々の装備を外し脱ぎつつ、私はほんまもんの現実に還ってきながらそう思うしかないのだけれど。
身体はガチガチだ。妙な緊張感から全身にくまなく無駄な力がかかっていたみたいで、仰臥姿勢から立ち上がろうとした瞬間、たたらを踏んで倒れそうになってしまう。
それを支えようと主任が両腕を伸ばしてくれたのを確認したので、ありがたく、そこによよよ、と、食い気味に飛び込んでいくのだけれど。意外とごつい腕が、私の両肩を支えてくれた。うん、今は鋭気を養うべき局面だ。
私は、ああーっとお、体全体がすべったぁっ、と心で叫びながら、主任の薄い胸板に顔を擦りつけていくのであった。




