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145/312

♭145:羨道かーい(あるいは、瞳の中の/レインボーイマン)

「……『同じ日に、一人に告って、一人に告られた経験があるアタイだけど……告り相手にOKもらい、自分も告られ相手にOKを出して、奇妙な二股関係を築き上げたぜとか悦に入ってたら、いつの間にかその二人がつき合ってた件』」


 私の口からは、つらつらとそのようなDEPが紡ぎ出されてくるけど。


「……」


 いや、そんな経験知らんて。ええー……


 表層では度し難きドヤをかましているだろう「アタイ」の顔面なのだろうけど、その内の真なる私は硬直したような真顔であるはずであり。


 いやいやいや? ちょっと待て。これ捏造じゃない? 捏造ゆうか、シンプルに口から出まかせの「嘘」じゃあないの?


 記憶のドブの、どこを浚ってもそのような経験の無い私は、この撃ち放った悪手とも思われるDEPに、敗北を悟ってしまうのだけれど。


 時折忘れそうになるけど、私ら「対局者」の体には対局中、高性能な「嘘発見機」が取り付けられているわけで、嘘を言ったと判断された瞬間、全身がえび反るレベルの電流が放たれ、そこで失格となってしまうという大前提的ルールがある。


 「……みたいなことを考えてしまった件」、などの、それもどうかと思わせるような言葉を続けて、何とか「嘘じゃありませんのよ」的、収束に持ち込もうとか考えた私だけれど、電流に怯えて舌が回らなかった。


「……!!」


 やっべぇぇぇぇぇぇっ、と、私は内心で顔を引きつらせながら、即、放たれてくるであろう強力電流に恐れおののくほかは出来ない。


 しかし、


<先手:88,222pt>


 あれ? 評点が為された? 今のはっきりと「嘘」だったんだけれど。


「……それが、貴様の……『能力』と……いうのか……」


 多分に芝居がかった体で、仰向け同士の顔を突き合わせながら、そう呟き漏らすユジシ。その顔はしかし、承服できてなさそうな、困惑も片頬に浮かばせたような、そんな微妙で複雑な表情を浮かべている。


「……なるほど、貴様もダメの根底を揺さぶる『能力者』であったというわけか……面白い。安寧に腐るよりも、鮮烈なる滅びを、か……」


 ユジシの悦に入っちゃった常人には2%ほどしか理解はかなわぬ言葉が、真顔の私の顔面をなぶるのだけれど。


「……アフリカの僻国より来た褐色メイド……その破天荒能力『妄獣モウジュウ』に、勝るとも劣らぬ能力よ、水窪……『野獣ヤジュウ』だけでは無かったのだな、貴様には、まだ隠された能力がある……っ!!」


 いや、過大評価も甚だしい気はしたけど、どっこい、私の制御及ばぬところの話であり。しかしユジシは勝手に自分のインナースペースにざんぶと身を浸すような言葉を発すると、


「……『漠獣バクジュウ』……名付けよう、貴様のその能力は『漠獣』……」


 相殺DEPも放たないまま、ユジシは何故か満足気にそう言い置くと、にやりとしたエラくキマった笑みを繰り出してくる。怖いよ……のっぺり顔の女が起伏激しすぎる言葉を紡ぎ出してくるよ……


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