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142/312

♭142:剣戟かーい(あるいは、延々じゃねえ/永遠って言いたかったんだよ!!)


 この「100kmレース」もいつの間にやら後半戦に突入している。いや、後半戦ゆうか最終局面に……ッ!!


 参加者同士が屠り合うことによってのみ、はじめて生存ゴールするものが生まれるという実質的なるサバイバル。私らも5組ほど墜としてきたものの、対局の間隔はどんどこ短くなってきている。この集約の果てに何があるというのか……(カネなのだ)


 点在する生き残りの参加者たちは、皆々速度を上げてるようだ。視界の前方に遠ざかっていっているのが夕焼け空をバックに黒い影となり確認できるけど。


 ……ぼけっとしている場合でもない。どんけつに落とし込まれたら、周りに対局できる相手がいなくなる。イコール、エネルギー補給手段も断たれるということになり、ゴール到達前にあえなく散ることとなる。戦わずして。それだけは避けたいよねー、何しに来たって話になるし。


 そんな思考はおそらく場の対局者のほぼ全員が頭にいやでも浮かんでいるのだろう。ひと組が速度を上げれば、それに追随する組がひとつ、またひとつ……つられるようにしてどんどん全員の速度が上がっていく。エネルギーの消費率は高速ほど燃費が悪くなるようで、どこまで上げるか、どこで勝負を仕掛けるかが、厄介なまでに脳内を埋め尽くそうとしてくるけど。


 本質って何だったっけ?


 ……DEPを、撃ち合うことだよね?


 あやうく、忘れるところだった。仰向けで上を向くように前を向きながら、私は右手のアクセルボタンをいやというほど押し込んでいく。


「主任っ!! 手あたり次第にっ!!」


 体感速度は、身ひとつで飛翔した経験ないからよく分かんないけど、100kmはありそうな超速だ。向かい風もそれ相応に「体感」させられてきているわけで、口を開くと、そこに空気の塊が飛び込んでくる。ように感じる。なにこの無駄なリアリティ。


 取り急ぎ私は簡潔に主任にそう意を伝えると、一律、間抜けな後ろ姿を晒している対局者の群れの最後に取り付こうと速度をぶん上げる。主任もそれを汲んで、巧みなハンドルさばきでコースの最短距離を縫っていく。


 「対局可能範囲」であるところの「15m」に到達した、そのことがバイザーを通して視界に<ROCK ON>の文字として現れた。


 いよぉぉぉし、やったる!! と鼻息も荒く、対局の意を告げようとした、その瞬間だった。


「あ~はっはっは、ああ~はっはっは」


 横から飛び込むバカ高笑い。なんつーか、これもうテンプレ化した何かだろ。そんな直感が、脳髄差し込むレベルで来たけれど、それが分かったからといって避ける術は無いんだ……というか、避けてる場合でもない。


 相手が誰であろーと、この死臭鮮やかなマイDEPを喰らわせる他は無いのだよゲッゲッゲ……と、ヒトから何かへと変わろうとした顔貌を呈する私の前に、すらと現れたのは、


「……久しぶりだな……水窪ミズクボ 若草ワカクサぁ……っ!!」


 膝立ちとなった男性の腰に絡みつく女性の両の脚……仰向けにのけぞりながら肘立てている……これは……「つり橋」……ッ!?


 難易度高そうー以外の感想が出て来なかった私ではあるが、逆さ同士で向き合ったその女の顔はやっぱり皆目覚えに無い。


 「久しぶり」ゆうてたから、面識は……あるのよね。あるのかな……何かこう……没キャラの投入率ハンパないというか……いやまあ、そこはいいか……トニカク、コイツ、墜トス……


 戦闘モードにがちゃんこと切り替わった私は、大きく息を吸い込んで対局に備え始める。


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