#140:散開で候(あるいは、ここは地の獄/流されて/¡Ole!)
「たぁへるあなとみおかせいしこうじょぁぁぁぁぉぉぉぉぉぉぅっ!!」
諸々あったが、本局は<先手:89,111pt VS 後手:112,022pt>にて決着した。
……私のDEPの何がこうまで評価されたのかは分からぬまま。しかし体感としては、喉の奥の小さな毛玉を吐き出せたような気がしていた。いや、毛玉を吐き出したことなどないが。
だがやはり。日本語とはかくも美しき言語なり。口にするそばから、唇がまるで楽しげなる歌を口ずさむかのように踊るのである。さなる言葉を、それを生み出されし地にて紡ぎ出し、そしてそれを評価される……考えてみれば、これほど高揚することなどないのではないだろうか。
この国で私は、姫様、おばば様の為も無論そうではあるが、それに加えて「自分」の為に何かを為さんとしているのだろうか。何かに、操られるように。
「……」
いかんいかん、そのような感慨らしき思考にふけるのは後で良い。今はこの場を乗り切る……ただそれだけである。目の前の妖艶なる女性は、ふと我に返った顔をすると、艶然たる笑みを浮かべてこちらを見やってきて、そして。
「……フフフフ……何とも。男前の方こそ、警戒すべき『獣』かも知れないわねぇ……見える。アナタの背負いし『獣字』は『兇』。……『兇獣』!! ひとまずはそう呼んでおこうかしらねぇ……」
チギラクサ嬢はそのような、またも私にとっては理解が二毛ほどしか至らぬ言葉を、妖艶きわまる唇から吐き出したのだが。
<先手:棄権勧告:20,000pt差ハ、並ノ括約筋デハ耐エラレナイ>
「運営」による意図かどうかは知らぬが、何故かそこだけは、私でもかなり昔を思わせるほどの人工音声で告げてきたわけであり。
「……『獣』は『獣』に惹かれ合う。それだけは真実。それだけが真実……」
その勧告にも耳を貸さずに、何事かをぶつぶつと呟いていたチギラクサ嬢だったが、相当きつめらしき「折檻電流」とやらに貫かれたのか、冒頭の形容しかねる叫び声を上げ、果てた。
音も無く、空中を滑り落ちるようにして落下していくその姿を見下ろしながら、私は「獣」という言葉のみを自らの中で反芻する。
「獣」。とは果たして。
自分の中に眠る「野性」のようなものは幼少の頃より感じていたところはある。特に「棒術」の手ほどきを受けてからは、試合等で極度の緊張状態に陥った時に、しばしば現れるようになっていた。
無意識の「化身」。己の知覚が及ばぬところで発揮される、埒外の「力」。
それが「獣」だと申すのであろうか。
「ジローネット。対局に勝利した後は一気に駆け抜けると申した。『アクセル』を全開せよ」
詮無い思考は、我が腹の上あたりに跨るようにして騎乗されている姫様の人指し指一本拳鳩尾撃ちにより遮断される。
思わず、ふびらいはん、のような呻き声が出てしまうが、何とか必死の思いで右手に握りし「ボタン」を親指で力の限り押し込んでいく。




