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136/312

#136:並列で候(あるいは、プラスオン/掌握/Show me)


 相変わらず仰向け……上空を向いたまま仰臥の私であるが、唐突に為されたその「声」の出どころを探るべく、上下左右に首と目を動かす。


 そうしている今も、架空の上空を滑空中なわけであり、我々の周囲にもまだ何十、あるいは何百もの他の対局者たちが浮遊しつつ、目指す一点……「ゴール」向けて結構なる速度スピードで進行している。その中から、たった今、「対局」を挑んで来た者を見分ける……素の視力には自信のある私だが、動くものを見極めるのはまた異なる能力を求められることを知っている。


 むう……「エネルギー残量」が既に充分である現在、これ以上の戦いは無用である。いや、無用それを通り越して、害悪とすら言える。先ほどから考えているが、姫様の「究極錬金DEP」の残りはわずかに「四発」。予選はまだ二戦目……これ以上の浪費ははっきり避けるべきだ。


 寝そべった姿勢の私の両手辺りにはそれぞれ「操縦桿」のようなレバーが1本ずつあり、「右がアクセル/左がブレーキ」となっている。急加速でこの場を離脱する……それが最良策と思えなくもないが。


「ジローネット。この『対局』……そなたが受けるがいい」


 私に跨るような姿勢で、そのいつもの、こちらを凍り付かせてくるような表情にて、姫様はそうおっしゃられてきたわけであり。


 我困惑也ア・ルェ


 先ほどまでは確かに「温存」と、そう聞いていたのだが……私が間違っていたのだろうか。私は姫様を見上げて「え?」というような表情を現出させるものの。


「どうやら『相手』はあそこの奴らのようだ……予定変更し、あやつらを討つ。先ほど『温存』と言ったが……状況は変わった。存分にその才気を発現させよ、ジローネット」


 ……どうやら姫様の内では既に決定事項であるようで、私の意向は完全に考慮されないまま、状況は進んでいくようだ。即時対応。それには慣れている。


「……この程度の速度であれば、『ゴール』まで行き着くことは可能な計算だが……このように『対局』も吹っ掛けられることとなる。ではアクセルを吹かしてぶっちぎれば……? それをするためには余剰に『エネルギー』が必要となるようだ。つまり」


 姫様は感情の乗っていない声でそう告げるや、手元の「操縦桿」を思い切り右方向へと倒す。途端に体にかかる重力に、慣れていない私は顔が引きつってしまうのだが。


「ここ一番っ!! 勝ちを収めて『余剰エネルギー』を奪い取り、そののちは真っすぐにゴール目指して速度全開で行く……すなわち、『勝ち逃げ』ということになるな……」


 姫様の真顔でおっしゃることの七割ほどしか理解が及ばぬ私であったが。


「……!!」


 それが命であるのならば、従うまでよ。私はアクセルは緩めないまま、姫様の示された右前方へ向けて、上下逆さまの視界にて疾駆を続ける。そしてそのまま先ほど高笑いをかましていた者に、並びかけていく。


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