♮114:鏡像ですけど(あるいは、マウリッツ先生ごめんなさい)
諸々、頭によぎることはあったが、改めて気を入れ直す。眼前を行きかう人の波は、途切れることも知らずに、ずっと眺めていたら酔ってしまいそうだ。いやあかん。
何となく流されるようにして、体の良い再生怪人が如くの二人、八田&羽野との対局と相成ったわけであるけど。ふと見上げた視界に入った電光掲示板の表示は<1444/1600>と、次のステージへの扉がほぼほぼ閉まりかけていることを告げてきている。
動くにはもうこの瞬間しかない。僕は鼻から吸って鼻から出す深呼吸を二連続でかますと、左手を掲げたまま、右手をお尻の方へと移動させていく。何でも電流を流すのも本予選ではセルフだそうで、嵌めたグローブを尻穴付近にセットすることで「対局可能」となるそうで。
なぜわざわざ自分から苦痛に身を晒す真似をせにゃならんのたい、みたいに僕も言語野が定まらなくなってしまうほどに困惑してしまうのだけれど。
まあ決まり事だからしょうがない。運営に何を申しても無駄な事は先刻ご承知でもある。それにそもそもこんな初っ端から電撃を食らっているようではこの後が推して知るべくなわけだから、ひとまずそのことは考えないようにしておこう。
「ミサキよう……せっかくだから、あの例の『淫獣』のやつを見せてくれねえかなあ……」
傍らの翼が、さしたる興味も無さそうにそう言ってくるが。お前本当に傍観者だな!! まあこの肉親も引くほどの爛れた生活を送っている輩が放つDEPが「評価者」に刺さるかどうかは文字通りの博打要素が非常に高そうなので、無難に僕が初戦先発は買って出た。
まあ正直「淫獣」以外のやつをやってくれと言われても、皆目出来ないんだ↑が→。
さて。先手番を運よくもらえたことだし、さくりとカマしますかね。実は何年振りということもあって、DEPを撃ち出すということ、そのことに内心泡立つような緊張を抱えているのだけれど。
いや、突っ切れ。吹っ切らないと、貫けない。「平常心」を保ちつつの、瀑布的落差のDEPを撃ち放つ。それこそが正義。
大きく息を吸い込むと、僕は腹からの、普段はあまり通らないね、と評される渾身の声を絞り叫ぶのであった……
「……『エッシャーの『写像球体を持つ手』っていう傑作ありますよね……あの中の右の方に、球体のゆがみによってこちらに倒れてくるかのように傾いた机があるんですけれど……ふふ、何故かそれを眺めていたら、興奮してぐしょ濡れになったっていう、そんな案件』」
……割と平凡に過ぎるDEPだったかも知れない。まあ久方ぶりだからしょうがないよね……僕は対峙していた対局者ふたりが揃ってガタガタ震え始めたのを見て、あれっ? となるのだけれど。もしかして僕、また何かやっちゃいました?




