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3.それでも俺は信じない

「というわけなの…」


「…」


(まじか…)


「何も言わないんだね…、うん、わかるよ、そうなるよね…」


(何も言えねぇ…)


「信じてとは言わないよ。でも、本当のことなの…、私は…異世界転生した勇者…」


(やばい、まじうざい!ww)


思わずワラワラしてしまった。


「美崎さん、安心して…」


「彼方君…」


「世の中いろんな人がいるからね、俺は気にしない!」


俺は親指を立てて笑う。

笑顔の決めポーズ約束は破らない!ロッ◯・リーも言ってた。


「絶対信じてないよねー!それっ!」


「信じてる、信じてる、あ!コーヒーもう一杯いかが?」


「露骨に話を逸らさないでよぉ!」


「大丈夫!大丈夫!絶対大丈夫だよ」


「そんな魔法少女の最強の魔法みたいな言い方で言われても全然大丈夫じゃないよ!?」


(なるほどやはりか…こいつ、オタクだっ!!)


しかも先程の話からしてタチが悪いタイプだ。


所謂厨二病患者、いや、下手をしたら腐っている可能性もある。


「で、その勇者美崎恋華様は何故俺にそんな恥ずかしいカミングアウトをなさったのですか。ぶふっ…」


やばい笑いが止まらない。


「わ、笑わないでよ!ほ、本当に異世界転生した勇者なんだよぉおー!?」


「すまんすまん、ごめん、ごめん、一旦ごめーん」


もうゲラ◯ラポーだ。


「完全に馬鹿にしてるよね…、こほん!まぁいいわ!彼方君が信じようが信じまいがこの際どうだっていい」


美崎さんは冷めたコーヒーを一気に煽り、飲み干し力強くテーブルに置く、半ばヤケクソだ。


「実はね、彼方君に折り入ってお願いがあるの」


「お願い?なんだ?言っとくけど俺には絵心はないぞ?ペア組んで漫画描いて好きな子に告白したいなら他を当たってくれ」


「なんでちょくちょくネタ入れてくるの!?もう!」


「それをネタだとわかるお前も大概だけどな」


「うっ、そ、そんな事はどうでもいいの!

彼方君、私のお願いというのはね、私をしばらく匿って欲しいってことだよ!」


「は?なんだって?」


「私を匿って欲しいって言ったの」


俺はしばらくその言葉を飲み込めずポカンとしていたが、ゆっくり噛み砕き、ようやくそのヤバさを飲み込んだ。


「いやいや、それはまずいだろ、ってかなんでお前を匿わなきゃならんのだ?」


すると美崎さんは一瞬くらい顔をする。


「その理由を話すにはまず私が何故転生したかを説明しなければいけないわ」


(うわ、また始まるぞ…)


俺は腹筋に力を入れる。


「魔王に破れ、死んだ私は死後の世界で神に会ったの…」


(またベタな…)


「神は言ったわ、今の私じゃ魔王には勝てない、けど、かの世界、地球なら手はある、とね」


(地球すげーな!)


「だから私は転生して美崎恋華という女の子として生を受けた。魔王を倒す事のできる聖剣を手に入れるために!!」


(聖剣って、こらまた在り来たりな…、もしかしてエ◯スカリバーとかっすか!?)


「その名も…聖剣エ◯スカリバー!!」


(やべぇwwまじでそうだった!ww

今にも爆発しそうな笑いを腹に押し込めて話を聞き続ける俺。もはや俺の方が勇者かもしれない。)


腹筋から力を抜いていた俺にクリティカルが入る。瀕死寸前だ。


「聖剣を探すために色々手は尽くしてるのだけれど、何せ魔法の力を失い、身も女性になってしまったことで剣技もうまく使えない…、挙句の果てに魔王は自らの分身をこの世界に送り込み、私を探しているの」


「わー、それは大変だー」


棒読み。


「だからお願い、私を匿って一緒に聖剣を探す手助けをして欲しいの!」


「断る!」


「早くないっ?!もっと、こう考える間があるものじゃないの?」


「考える余地があると考える価値すらなかったわ」


「そこまで言わなくても!せめて考えるくらいはしようよ!」


「いや、考えないよ…」


(いくらこんな美人な子のお願いでもここまで狂ってると誰だって危ないと思うだろ…)


バー〇ーカーに勝てるのはフォー〇ナーくらいだ。生憎俺はクトゥルフの怪物のような残虐性もないしSAN値が高い人間を殺すような悪い子じゃない、そもそも触手ないし。


「大体、隠れたければ自分でそれなりの物件を見つけたらいいだろ?大学通りを探せばいくらでもありそうじゃないか」


「いや、その、あの…、そ、そうなんだけどね…」


「うん?」


美崎さんは歯切れ悪くそう答えると、あからさまに視線を明後日の方向に向ける。


なんか雲行きが怪しくなってきた。


「お金が…ない…」


「はぁ?」


「だから…、新しく部屋借りるだけのお金がないのっ!」


半ばヤケ気味に叫ぶ彼女の顔は真っ赤だ。


「金がないって…、いやいや、そもそも美崎さん、読モしてんだろ?ある程度稼いでるだろ?」


「読モのお金は大学の学費に消えちゃうから残らないの!そりゃ、プラスでバイトもしてるから安い部屋借りるだけくらいはあるかもだけど、生活費とか、必要経費とか、娯楽費とか、娯楽費とか、娯楽費とかが足りないの」


俺は途中から机にずっこけ突っ伏していた。

途中まではまともだったのに最後が果てしなく台無しだ。というか最後のが本音なのだろう。


「まぁ、学費を自分で出費しているのは凄いな。親は出してくれなかったのか?」


そこは本当に凄いと思う。


ちなみに俺は奨学金だ。成績はそれほどだから第2種だが、それでも大概の生徒は奨学金だろうし、そうでなくても親が払う家庭が殆どだろう。そう思うと彼女はその点は立派だ。


「親は…えっと…、そ、そう、迷惑かけたくなくて!ふっ、実の親とはいえ、前世の記憶を持つ私は二人に必要以上の苦労をかけたくないと思うわけなのよ」


「ふーん…」


俺はじっと彼女の顔を覗き込む。

整った顔立ち、長い睫毛に大きな目、柔らかそうな唇、普段の俺なら顔を背けて赤面していただろうが、今はその気は完全に失せていた。


その気配に気づいたのか、ばつが悪そうに美咲さんはさらに顔を背ける。


俺はその場から立ち上がり、彼女の正面まで行くともう一度彼女の顔を覗く。


「な、何なのかな…?彼方君…」


目が泳いで口が戦慄いている彼女、その姿を見て俺の答えは決まった。


「はぁ…、わかったよ…」


「ほ、本当に!?」


「困ってるのは本当そうだしな」


「ありが…」


「ただし…、異世界転生勇者の件、お前はダメだ、俺は絶対に信じない!」


「そこも信じてよー!」


かくして、美崎恋華と俺、向川彼方の歪な同居生活が始まったのであった。

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