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0.プロローグ

あれは俺が大学に入学して間もない頃だった。


「ねぇ、隣空いてる?」


彼女は唐突に話しかけて来た。


流れる髪からふわっと香る香水に視線をそちらに向けると彼女は二コリと微笑んだ。


綺麗だった。


整った顔立ちに、細身なプロポーション、ウェーブのかかったブラウンは髪が靡く。


我ながら役不足で場違いだとすぐに思えた。話しかけるのもおこがましいとも。


「やっぱり先約がいるのかな?」


「いや、空いてる…けど」


「良かった、なら失礼するね」


俺の心も知らず、彼女は御構い無しに隣の席に腰掛けた。


どもる俺、まじで格好悪い。目を合わせられないのもなんだか不審に思えてくる。


「ねぇ、ねぇ」


それでもやっぱり彼女は俺の心も知らずだ。


俺の目を見るように、机を迂回してこちらの顔を除く。


目が大きい、まつげも長い。


「君、名前は?」


「え?、ああ…向川彼方むこうがわかなただけど…」


見つめる黒の瞳にたじろぎながら答える。


「へぇ、彼方君って言うんだ」


いきなり下の名前かよ。なんていつもなら文句を垂れるところだが、生憎今の俺にそんな余裕はない。


「あの、君は?」


照れ隠しに名前を聞き返すと、

「ああ、ごめん、ごめん、自己紹介もなかったね」

と彼女は頬を少し掻いて苦笑いし、そして俺に右手を差し出した。


「私は恋華、美崎恋華みさきれんか、よろしくね、彼方君」


それが俺と美崎恋華との出会いだった。






そして、時は流れ、季節は初夏に差し掛かる。大学入学から早2ヶ月と言ったところだ。


慣れない大学生活も、新しい出会いや、勉学、活動を経て、ようやく自分の生活の一部になって来たと思う。


「彼方君!聞いてよ!」


ただ一つを除いては…


「一応聞いてやる、どうしたんだ、恋華?」


「あの魔王ときたら、異世界ものは食堂系に限るのとか抜かすのよ!?信じられない!」


「いや、知らんがな」


俺はため息をつきながら目の前の女を見る。


容姿端麗、眉目秀麗の彼女はその柔らかそうな頬を膨らませるとそんな可愛い顔に裏腹な台詞を吐いた。


「もう!彼方君!異世界転生ときたら、ドファンタジー!そうきたらもう勇者になるしかないでしょ!もしくはチート主人公が鉄板よ」


「まぁ、別にそこは個人の好き好きじゃないか?俺も結構好きだぞ?異世界グルメもの」


「彼方君、貴方は君は分かってない!異世界グルメものなんて所詮はカルチャーショックでしかないわ!言うなれば日本人がアフリカの国に言って、『な、なんだ、この食べものは!?』って言ってるのと同じよ!」


「それが醍醐味だろう?食の発達してない異世界でこっちの料理を食べた異世界人が、『こんな美味いものがあったなんて…』ってなるのが気持ちいいわけだからさ」


キャラクター達、エビフライとか、ハンバーグとかを本当に美味そうに食べるよね、まじで涎が出そうになる。


「くっ…、彼方君、君も所詮は魔王の下僕だった訳ね、嘆かわしい!」


「なら、出て行くか?勇者さん?出口はこちらでーす」


「すみませんでした!!」


恋華は素晴らしいほどのジャンピング土下座をフローリングにかます。

引き締まった体から繰り出される土下座は見事だった。


「ど、どうか!追い出さないでください!私を捨てないでください!」


「馬鹿、他の奴に聞かれたら誤解されるようなことはやめい!」


お隣さんとか下の人に聞かれたら、100%誤解される。いや、というよりこの現状の時点で弁解も許されないだろう。


まさか、こんな何の変哲も無い一大学生の俺と、超絶美女の美崎恋華が同じ部屋で暮らしてるなんて誰が想像するだろうか?


例え、あんな事情があったとしてもだ。

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