プロローグ
「何故そこの女の刑事じゃなくてお前なんだよ。」
男の視線がこちらに向く。
「女の刑事が良いのか、なら変わってやるよ。」
男と対話していた刑事、黒槍匠がこっち来て「菊白交代だ。」と肩を叩いた。
「はい、分かりました。」
無愛想な返事をして、さっきまで黒槍が座っていた椅子に座る。
目の前の男の名は藤ヶ谷猛。
会社員の男を路地裏で殺そうとしたが通行人に見つかり逃亡、相手を3カ所に深い傷を負わせた傷害罪、殺人未遂で現在取り調べ中という訳。
「それで、どうして刺したんですか。目撃者がいるわけですし逃げても無駄ですよ。」
ボサボサの髪をいじるばかりで無言を貫き通そうとするが、こっちから見たら無駄な足掻きだ。
「早くしてください。こんな無駄な時間過ごして刑務所に入ってる時間延ばしたいんですか?」
と少し焦らせようとするも効果は無い。
「教えて下さい、あの日あなたは何をしていたのですか。」
「...」
こんなやり取りが30分ほど繰り返される。
そして、とうとう集中力を失った黒槍が
「てめえが女の刑事がいいって言ったんだろ、ならとっとと話せ、自白しろ屑」
そう言い猛の胸ぐらを捻りあげた。
「うぐ...う」と呻くも部屋には3人以外おらず、監視室の方も無人である。
捻りあげ、立たせ、壁にぶつけるも誰も止めない。
菊白も威圧で言葉が出ない。
要するに、黒槍のやりたい放題だ。
「一言“俺が殺意を持って殺そうとした”言えばいいだけだ、簡単だろ?」
それでも黙る猛。
捻りあげる手の力がさらに強くなり、窒息しかけているのが傍から見てもわかる程苦しそうに足掻いてる。
「うゔ...ぁあ...」
流石に状態を悟ったのか、時間だからか黒槍は手を離した。
猛の体が崩れ落ちていく。
その時菊白は聞いた。
「終わると思うなよ。」
───その1週間後、拘置所で首を吊っている藤ヶ谷猛が見つかった。
「“終わると思うな。”拘置所の壁に書かれていたそうだ。俺はこのままこの件が終わるとは思わないが、どう思う。」
廊下を歩きながら黒槍が聞いてきた。
「私も同じです。ですが、被告人が亡くなってしまったので可能性は低いと思います。」
黒槍が被告人を追い詰めたから亡くなったのではないか、と考えた。
しかし誰もいなかったこともあり菊白は心の中に閉まっておいた。
「もしもの事を踏まえ、1から被害者を洗い直すぞ。協力してくれるよな。」
「上には内緒ですよね?」
「勿論だ。」
「なら協力します。まずは身内から探りますか...」
誰もいない廊下に2人の声が響くのであった。