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才能の書〜溢れる才能と林檎〜  作者: slime
首都への旅
6/19

リンゴ泥棒

「ここさ。頼んだよ。」

「わかりました。隠れて見張っておきますね。」

 アルトは近くの草むらに隠れると、じっと息を潜めた。


 しばらくすると、足音が聞こえてきた。

「ふふふっ。今日もリンゴを盗んでやるわ。」

 小柄な可愛らしい少女が、私は泥棒です、といったような台詞を言いながらアルトの視界に入ってきた。

「おいっ、お前っ!何をしている!」

「にゃっ⁉︎うぅ、あぁ、えぇっと。そっ、そうだっ!、あれよ、リンゴを収穫しにきたのよ。」

「あぁ、そうなのか。」

「えぇ、そうなのよ。」

「なら良いんだ。・・・・・・って、なるかぁ‼︎なんだよ"そうだっ!"って。舐めてんのか⁈」

「いや、そこをなんとか。」

「いや、なんだよそこをなんとかって。」

「あぁもぉっ!うるさいっ!」

「えぇっ、逆ギレっ⁈」

「お金はないけどリンゴが欲しいのよ!悪いっ⁈」

 全面的に悪いと思うんだが…

「確かに気持ちはわかる。」

 わかってしまうようだ。

「でもな、世の中にはやって良いことと悪いことがあるんだっ!」

 だからどの口が言うのだろう。

「うるさいうるさいっ!私がどれだけリンゴを愛しているかっ!あなたにはわからないでしょうねっ!」

 今にも号泣しながら会見でも開きそうな勢いで少女は叫んだ。

「わかるさ。 俺にもわかるっ!そのリンゴへの愛がっ!」

「ならっ!どうしてっ」

「リンゴを育てるには金がかかる。」

「っ!」

「わかるな?お前のその行動は、後から自分の首を締めるぞ?」

「ごめんなさい…私が悪かったわ。」

「わかればいいんだ。」

 正直わかってほしくなかった。

「ほら、まだ間に合う。どれぐらい盗ったんだ?」

「うっ、えっと、その…」

「ほら、言ってみろ。」

「うぅ、怒らない?」

「大丈夫だ。もう怒ってる。」

「うにゅっ・・・ええっと、………くらい?」

「え?なんだって?」

「100個くらい、かなー?なんて。」

「お前、100、だと。多いな。」

 93個は大丈夫なのだろうか。

「わかった。許してもらえなかったら俺も一緒に謝ってやるから。な?謝りにいこうぜ?」

「………うん。」


 アルトは少女を連れて八百屋へと戻った。

「おばさん。」

「おっ、どうだい。見つかったかい。」

「はい、こいつです。」

「あの、その、ごめんなさい。」

「あんたがうちのリンゴを盗んでたのかい?」

「はい、その、必ずお金は払います。時間はかかると思うんですけど、あの…」

「もう盗らないならいいさ。許したげるよ。私は心が広いからね。」

「いいんですか?おばさん。」

「良いさ、良いさ。済んだことだよ。それより、どうするんだい?あんた。」

「え?私、ですか?」

「リンゴも買えないんだろ?」

「うっ、えっと、その…」

「なぁ、あんた。」

「俺ですか?」

「この子、連れてったげなよ。」

「えぇっ?」

「連れていってくれるの?」

「え、あ、いや、その。」

「どうなんだい?」

「その、はい…連れていきます。」

「そうかい。なら良いんだ。じゃ、約束だよ。ちょっと待ってな。」

 そう言っておばさんは店の奥へと消えていった。

「えー、これから、よろしくね?えっと、貴方の名前は?」

「はぁ、アルトだ。お前は?」

「私はマールィ。よろしく、アルト。」

「あぁ、よろしく。」


 マールィ が なかまになった!


「ほら、約束の物だよ。これからもご贔屓にね。」

 いつのまにか帰ってきていた八百屋の店主は袋に入った20個のリンゴをアルトに差し出した。

「ありがとうございます。」

「それはこっちの台詞さ。で、どうする?買ってくかい?」

「そうですね、20個ぐらいもらおうかな。」

「そうかい。なら、300…おっと、半額だったね。150Gでいいよ。」

「はい。」

「ありがとさん。また来るんだよ。」

「必ず来ます。」

「もう日も暮れるね。うちに泊まってくかい?あまり広い家じゃないけど、食事と、床でいいなら寝床くらいなら用意できるけど。」

「そうですね。じゃあ、おねg…」

「あれ?アルトさんじゃないですか!」

 八百屋の店主の好意に甘え、泊めてもらおうとしたその時、聞き覚えのある声がアルトの言葉を遮った。

「エリンちゃんじゃないか。なんだ、知り合いかい?」

「はいっ!昨日泊まっていただいたんですよっ!」

「そうなのかい?なら、宿に泊まってったらどうだい?うちだとどうしても狭くなるしね。」

「そうですね。じゃあ、今日も泊まっていこうかな。」

「はいはーい。あれ?そちらの方は?」

「あぁ、泥棒だ。」

「えぇっ?」

「ちょっ、なんて紹介すんのよっ!いや、間違ってないけど…」

「冗談だよ。」

「えっと、とりあえず、宿までご案内しますね?」

 アルトとマールィはエリンに連れられ、林檎亭へと向かった。

「二名で昨日と同じで頼む。」

「わかりました。部屋は…」

「別で頼む。」

「了解です。1040Gになります。」

「これでいいか?」

「えっと、はい。丁度お預かりします。」

「いいの?私の分まで。」

「まぁ、旅は道連れって言うしな。」

「ありがとう。」

「おう。」

「夕飯はどうします?」

「すぐもらうよ。」

「じゃあ、ご案内しますね?」

「あぁ、頼む。」

 アルトとマールィは昨日のように食堂へと向かい、食事を食べた。食後のアップルパイは、やはり、マールィも気に入ったらしい。その後、二人はそれぞれの部屋へと向かい、眠りについた。


 翌日。

「本日もご利用いただき、ありがとうございました。」

「アルトさん。また来てくださいねっ!」

「あぁ、必ず来るよ。」

「そうねっ。ここのアップルパイは絶品だもの。」

「今日こそついに行ってしまわれるんですか?」

「そうですね。二日も滞在してしまったので。」

「そうですか。またのご利用、娘と一緒にお待ちしております。」

「お待ちしておりますっ!」

「はい。必ず。それじゃあ、行くか、泥棒。」

「だからっ!泥棒はやめてよっ!」


 こうして、アルトはマールィを仲間に加え、今度こそ次なる街へと旅立った。

ヒロインが登場しました。


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