隣街サセドニ
首都への道を進むとはいっても、ヴァリーキに着くまでにはいくつかの街を経由しなければならない。なにせアルトの住んでいた村は辺境に位置するため、大分遠い。
日は傾きかけており、空は黄昏に染まりつつあった。
「そろそろ見えてくるはずなんだが…おっ、あれだな。」
アルトはついに旅の初日の目的地、サセドニに到着した。
「おぉっ、うちの村とは違って門番がいるのか。」
「すまんが、身分証を提示していただきたい。」
「了解です。えぇっと、…これですね。」
「・・・確認した。ようこそサセドニへ。」
「ありがとうございます。」
サセドニの名産はなんといってもリンゴ。アーロンもここから仕入れておるようじゃな。
ーーーー村長の注意書きより
アルトは、村唯一の宿、林檎亭へと訪れた。
「すいません。」
「はいはーい。」
奥から一人の少女が出てきた。
「お泊まりですか?お食事ですか?それともお土産ですか?」
「今日の夕食と、明日の朝食付きで泊まりたいんですが。」
「一名様でよろしいですか?」
「はい。一人です。」
「一泊400G、一食60Gで、520Gになります。」
少女は看板娘のようだ。ちなみに、アルトは現在、旅の資金として15000G持っている。
「はい、あと、夕食はいつからになりますか?」
「丁度お預かりします。えっと、今からでもご提供できますよ?」
「じゃあ、お願いします。」
「承知しましたー。お父さーん、お母さーん、夕食ー。あっ、ご案内しますね。あと、私、エリンっていいます。」
「ありがとうございます。エリンさん。俺はアルトといいます。」
「敬語なんてやめてください。多分私の方が年下ですし。」
「そうか?じゃあそうしようかな。」
歓談しながらエリンの後ろをついていき、食堂と思しき部屋につくと、一人の女性が出迎えた。
「ご利用ありがとうございます。」
「えっと、エリンの…」
「母でございます。うちのエリンが失礼を働いておりませんか?」
「とんでもない。」
「そうだよお母さん。」
「そうですか?それは良かった。エリンは調子に乗らないの。あぁ、お客さん、お席ご案内しますね。」
「こっちです、アルトさん。」
アルトは促されるまま席につき、食事を食べた。食後にデザートとして出されたアップルパイをアルトはいたく気に入った。その後、アルトは部屋へと戻り、一日の疲れを癒すため、早めに眠った。
翌日。
朝食を済ませたアルトは、次の街へと出発することにした。
「ご利用ありがとうございました。」
「また来てくださいね、アルトさん。」
「ここのアップルパイは絶品だったからな。また、必ず泊まりに来るよ。」
アルトはエリンと再会の約束をし、宿を後にした。
「いい宿だったなぁ。最初の宿からこれとは、幸先がいいな。そうだ。リンゴを何個か買っていこうかな。名産って地図にも書いてあったし。」
アルトは街の八百屋へと向かった。
「すいません。リンゴをいただきたいんですが。」
アーロンの店のように盗むような狼藉は働かないようだ。
「あぁ、それなんだけどねぇ。あるにはあるんだけど。」
「どうかしたんですか?」
「いやね、うちはいつもリンゴの樹園から収穫してるんだけど、最近なっているリンゴを盗んでいく輩がいてねぇ。手を焼いてるんだよ。」
「なんだって。リンゴを盗むだなんて!許せませんね。」
・・・どの口が言うのだろう。
「だろう?どうしたものかねぇ。」
「任せてください、俺が必ずその泥棒を捕まえてみせます!」
「いいのかい。助かるよ。もし見つけてくれたら、そうだね、20個タダでリンゴをあげるし、これからあんたには半額で売ったげるよ。」
「絶っっ対に!見つけてみせますっ!案内してください!」
アルトはリンゴのため…もとい、リンゴ泥棒を捕まえるためにリンゴの樹園への案内を頼んだ。