最強のスライム
アルトたちは杖と盾を手に入れるため、武器屋へやってきた。
「ここがこの街で一番大きい武器屋だよ。盾も売ってたと思う。」
「うわぁ、いろいろあるわねぇ。」
「じゃあ俺、盾見てくるわ。」
「じゃあ私達杖のとこ行ってくる!行こ、マールィ、エレナ。」
「そうね。」
「いや、妾は何もいらぬぞ?」
「何もいらなくても、とりあえず見てたら欲しくなるかもしれないでしょ?」
「そうかのぉ。」
「うーん、これにしようかな。魔法の威力が一割増しになるらしいし…値段は……20000Gかぁ、これにしようかなぁ。」
「あっ、ノエルは決めたの?」
「うん。マールィは?」
「これにするわ!」
「何か特殊な効果があるの?」
「伸びろって念じれば伸びるわ!」
「いりません。元の場所に返してきなさい。」
「えー、どこかで使うわよ。」
「どこで使うんじゃ?」
「えと、遠くの敵を殴って倒す、とか?」
「魔法でいいでしょ。」
「MPが尽きるかもしれないじゃない。」
「それなら槍で良いのではないか?」
「でも、槍はかさばるじゃない。」
「そもそも、MPが尽きちゃうような敵を伸びた棒で殴っても焼き石に水じゃない?」
「焼き石も滝に放り込めば冷えるわ!」
「滝のように殴りつけなきゃいけないってことだよね?」
「うぅ、ダメ?ノエル…」
「うっ……はぁ、いくらなの?」
「1500G。」
「安っ⁉︎全然売れてないってことだよね、それ。」
「1センチ分くらい値下げの紙が貼ってあったわ。」
「どんだけ値下げしたんだよ…」
「アルト。どうしたの?盾は?」
「何か持ってみて邪魔だったしいいわ。予備の剣二、三本買うだけにする。」
「そうなの?じゃあ、マールィ。パパッと買っちゃおっか。エレナは?」
「妾は構わん。」
「伸びる杖は?」
「買っていいから…」
「やったー!本当にすごいのよ?これ。」
「はいはい。」
「伸ばしたところを蛇みたいにうねうね動かせるんだから。ほら。」
うねうね、うねうね
「おお、妾の腕のようじゃのう。」
「え!何その機能。すごい。」
「でも、ちょっとMP使うのよね。」
「本末転倒だよね⁈」
「ありがとうございましたー。またのお越しをお待ちしておりますー。」
「早速依頼を受けに行きましょう!」
「もう夕方だぞ?明日な。」
「え?あっ、ほんとだ。今日はいろいろあったね。」
「じゃあエレナの歓迎パーティーしましょうよ。」
「それはいいな。今日はちょっと高めの飯でも食いに行くか。」
「パーティーとな?楽しそうじゃのう。」
「私、カレーが食べたいわ!」
「カレー?いいじゃん。どこかいいお店あったかな。」
「リンゴたっぷりの!」
「ちがうよ⁈カレーにリンゴたっぷり入れちゃったらただのゲテモノだよ?」
「え?でも入れるって聞いたことあるわ。」
「ちょっとだけ、隠し味で入れるんだよ?」
「いや、案外いけるぞ?」
「経験者っ⁉︎勇者だね…アルト。」
「母さんに昔作ってくれって頼んだんだよ。シャキシャキしてて美味しいぞ?」
「リンゴ生で直接出来上がったカレーにいれたの⁈」
「蜂蜜もかけたぞ?」
「甘いっ!甘いよ!カレーが甘い!」
「甘辛ってあるだろ?」
「そういう意味じゃないっ‼︎リンゴと蜂蜜はとろーり溶けてないとダメなのっ!順番大事!」
「料理って難しいのね。」
「なんにせよ、リンゴ入りカレーはまた今度な。エレナ、お前は何食べたい?」
「妾か?妾もそのカレーとやらを食べてみたいの。」
「じゃあとりあえず店探すか。」
アルトたちは街を歩きまわり、カレー専門店を見つけると、そこでささやかなパーティーを開いた。
翌日。
アルトたちは依頼を受けるため組合本部へ訪れた。
「エレナもいるし、Eランク推奨の依頼くらいなら大丈夫なんじゃない?」
「うーん。でも、エレナがどれくらい強いのかまだわからないし…」
「妾は最強のスライムじゃぞ?」
「最強のドラゴン、とかだとわかりやすいんだがなぁ。」
「これなんてどう?ヴァリーキ北東の山のレッドスコーピオンの討伐。Eランク推奨依頼、一匹1200G。三匹討伐で依頼一回分。討伐証明箇所は毒針。毒針は売ることもできて一個150G。」
「よし、じゃあそれを受けるか。」
「妾の力を見せてやろうではないか。」
レッドスコーピオンは巨大な赤い蠍である。巨大といっても全長60センチほどであり、毒は弱い。ただ、防御力が高く、弱いとはいえ毒が厄介なため、注意が必要である。
ーーーーモンスター図鑑より
「スライムの真の強さ、思い知るがいい!」
エレナはレッドスコーピオンと向かい合うとそう叫んだ。
「なぁ、ほんとに大丈夫なのか?」
「多分……」
「心配ね。」
レッドスコーピオンは自慢の毒針を構え、凄まじい勢いでエレナを深々と突き刺した。
「おいっ、エレナっ!大丈夫かっ!」
しかし、一番に異変に気付いたのはレッドスコーピオンであった。
抜けない。毒針が、ビクともしない。
「クククッ。妾にそんな攻撃が通用するとでも思ったのか?その毒針、貰ったぞ?」
エレナは右腕を鋭利な刃へと変え、尾を根元から切り落とした。
「っっっ!!」
レッドスコーピオンはあまりの激痛に大きく跳びのき、キチキチと威嚇音を立てながら後退りし始めた。
「あの時はあまりに予想外だったからの。不覚にも殴られてしまったが、妾に物理的に攻撃することは不可能じゃ。液体化できるからの。」
「でも、普通のスライムには効くよ?なんで…」
「ふむ。度々言っておったのに、聞いておらんかったのか?ノエル。」
「へ?何を?」
「言ったであろう。妾は最強のスライムじゃ。」
エレナは右腕を伸ばすと逃げようとするレッドスコーピオンの脚を掴み、軽々と持ち上げた。
「動くでないぞ?むやみやたらに苦しめる趣味は妾にはないのでな。」
エレナの瞳を見たレッドスコーピオンは、蛇に睨まれた蛙のように身動き一つ取れなかった。
そして、一閃。
エレナの左腕が頭部を貫いた。硬い外殻をもろともせず、一瞬で。
「冗談だろ……」
「これが、スライムの真の力…」
「普通に戦っていれば瞬殺だったわね。蠍も、私達も。」
「わかったならこれからスライムの認識を変えることじゃな。」
エレナの圧倒的な強さによってレッドスコーピオンは次々と駆逐されていき、昼前には数十もの死骸が辺りに転がっていた。
「私達、出番ほとんど無かったわね。」
「まぁな。俺たちが一匹リンチしてる間にあいつは十匹は倒してたしな。」
「でも、リンチ作戦は安全だし、もう少しレベルが上がるまではこの作戦でいくしかないよ。」
アルトたちのリンチ作戦とは、まずノエルが獲物の脚や腕などを凍らせ、身動きが取れなくなったところをアルトとマールィが攻撃するといったものである。たしかに安全で確実だが、弱い者いじめのようで心が痛い。
アルト達は依頼の報告のため受付嬢の元へとやってきた。
「依頼の報告に来ました。はい、これ。レッドスコーピオンの毒針です。売るのも同時にお願いできますか?」
「はい。……はい?えと、いくつあるんですか?」
「俺たちは七匹だっけ?」
「そうだね。」
「妾は五十を超えた頃から数えておらんのぉ。」
「へ?えと、高名な冒険者様だったりしますか?」
「いや、妾はスライムじゃ。」
「……は?」
数分後。
「確認できました。全部で84匹でした。毒針の売却金額と合わせまして、11万3400Gです。ご確認ください。」
「はい。大丈夫です。」
「それから、依頼の28回の達成により、ランクをGランクからFランクへ昇格させていただきます。おめでとうございます。」
「おおっ!ランクが上がったぞ。」
「余った達成分も繰り越されてるのね。あと十回かぁ。」
「エレナがいれば明日にでも上がれそうだね。」
「む?そうなのか?簡単なんじゃな。」
「とんでもないっ!登録してからたった二日でランクアップするなんて前代未聞ですっ!しかも半日で28回も依頼を達成するだなんて…。」
「明日にはもう一回ランクアップしそうだしな。」
「エレナに頼りっぱなしじゃだめね。明日からはエレナには少し自重してもらいましょう。」
「そうだね。エレナ、ごめんね?」
「妾はどちらでも良いぞ?ただ、今回のは相手が弱すぎて面白くなかったがの。」
「その弱っちい奴を倒すだけだから面白くないぞ?」
「ふむ、ならば妾はアルト達を見ておくことにしよう。」
「今日は午後からはお休みにしましょうか。」
「そうだな。じゃあ、これからは自由行動で。」
「ノエルっ、エレナっ。服屋さんに行かない?」
「服屋?しかし、妾は自分で服を作れるしのぉ。」
「それじゃあ楽しくないでしょ?一緒に行こうよ。エレナ。」
「ふむ。そうじゃの。アルトはどうするんじゃ?」
「俺は宿で寝とく。夕飯の時に起こしてくれ。あぁ、そうだ。帰りにリンゴを買ってきてくれ。そろそろなくなりそうなんだ。」
「それは大変ね。任せてちょうだい。」
「はいはい、了解。」
「覚えておこう。」
「まぁまずはみんなで昼食ってからだな。」
四人は昼食を食べるため組合本部を後にした。
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アルト
Lv.5⇒6
筋力:71⇒89
体力:75⇒81
耐久:23⇒24
敏捷:86⇒90
魔力:29⇒31
HP:230/230⇒240/240
MP:290/290⇒310/310
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マールィ
Lv.5⇒6
筋力:28⇒30
体力:36⇒38
耐久:15⇒16
敏捷:79⇒80
魔力:97⇒103
HP:150/150⇒160/160
MP:970/970⇒1030/1030
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ノエル
Lv.5⇒6
筋力:34⇒35
体力:31⇒32
耐久:18⇒19
敏捷:69⇒73
魔力:99⇒112
HP:180/180⇒190/190
MP:990/990⇒1120/1120
才能
3.水魔法 Lv.4⇒5
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アルト、マールィ、ノエル
Gランク⇒Fランク 20/30