本当の冒険はまだまだ遠い
「あれから約十日。旅立ちの日のことが昨日のことのようだ。」
「私もだいたい十日ね。旅に出て。」
「・・・私だけ仲間外れにしようとしてるの?」
アルト一行は、長い(ノエル以外)旅を終え、ヴァリーキに到着した。
「まずは、冒険者として登録しなきゃな。」
「登録はどこでできるの?」
「私知ってるよ。付いてきて。」
首都ヴァリーキ。アルビア王国の首都だけあって、それまでの街とは比べものにならない広さと賑やかさをもつ。
ーーーー村長の注意書きより
「村長さんはここまでしか来たことがないっぽいな。注意書きがここで終わってる。」
「そうなの?まぁ、ここからは自分の力で進めってことじゃない?」
「だろうな。」
「どうしたの?ほら、あそこが冒険者組合本部だよ。」
「おぉ、思ってた通りの感じだな。」
ノエルが指差した先にある建物からは、低いトーンの笑い声が響いており、昼間だというのに酒の匂いがしている。
「よし。俺たちの冒険はここから始まるんだっ!」
「どうしたのアルト。いきなり大声出して。」
「いや、なんか言った方が良いかなと思って。」
「ほら!とっとと入るっ!」
「はいはい。」
三人が扉を開けて建物の中に入ると、アルトの目と鼻の先をビールジョッキがかすめていった。
「うおぉっ、なんだっ⁈」
「おぉ、悪いな兄ちゃん。手が滑ったんだ。無事か?無事だな?よし、無事だ。」
「これを無事だと言いはるかっ?このハゲッ!」
「おぅ、よしチビ、表出ろ。」
「だれがチビだ!」
アルトと少々髪が乏しい冒険者が一触即発の雰囲気を出していると、ノエルと一人の男性が仲裁に入った。
「ちょっとアルトっ!やめなよ、敵いっこないって。」
「大人気ねぇぞ、ヴァーガ。ハゲで弄られんのは初めてじゃないだろ?」
「ノエル、男にはなぁ、例え敵わなくても…」
「ジーク、俺はなぁ、例えなんと言われようと…」
「「捨て置けねぇ呼ばれ方があるっ!ここで許したら男が廃るんだよっ!」」
仲良いね。君達。
「かっこいい台詞が台無しだよっ⁈」
「(´・ω・`)」
「諦めないでっ!ジークさんっ!」
「ぶっ飛ばしなさいっ!アルトっ」
「煽らないでっ?」
「一発勝負でどうだ?」
「良いぜ。」
「やめるなら今のうちだぞ?」
「怖気ついたのか?」
「まさか。お前も後になって後悔すんなよ?」
「上等だ。吠え面かかせてやる。」
二人は一歩ずつ離れると拳を握りしめた。いつのまにか建物中の注目を集めていて、全員が静かに唾を飲んだ。
「「いざっ!」」
二人は同時に拳を引き、それを前に突き出した。
「「じゃんっけん、ほいっ!」」
アルト:グー ヴァーガ:チョキ
「っしゃあっ!」
「ばっ、ばかなっ?」
馬鹿、とは自分達のことだろうか。
「おおおおおおっ!すげぇっ!あの少年ヴァーガに勝ったぞっ!」
「まぐれじゃないのか?」
確実に、まぐれだ。
「いや、あれはまぐれなんかじゃねぇ。ヴァーガの実力はお前らも知ってるだろ?」
「たしかに。あの三十六人抜きの時の鳥肌はすごかったぜ!」
それも、まぐれである。
「273戦して未だ負けなしの化け物だったんだろ?」
まぐれったら、まぐれである。
「やったわっ!アルト。すごいじゃない!」
「おぅ、楽勝だったぜ。」
「私は普通。私が普通。みんながおかしい。・・・あれ?みんなって?普通って?…」
「アルト。」
「ん?えっと、ヴァーガ、だっけ?」
「あぁ、そうだ。チビって言って悪かったな。」
「いや、こっちもハゲって言って悪かったよ。気にしてだんだろ?」
「やかましぃわ。まぁ良い。それで?何しに来たんだ?依頼か?登録か?」
「そうだそうだ。忘れてた。冒険者として登録するために来たんだよ。そこのマールィと、ノエルと一緒に…座ったりしてどうしたんだ?ノエル。腹でも痛いのか?」
「…Кто мы, для чего мы живем? Кто я? Где я?Что ты? Кто это?……」
「ちょっ、おい。ノエルっ!しっかりしろっ!」
「はっ!」
「疲れてんのか?」
誰のせいだ、誰の。
「あー、とにかく。とっとと済ました方がいいな。ほら、あそこの受け付けで登録してこい。」
「あぁ、ありがとな。ほら、行くぞ、マールィ、ノエル。」
「えぇ。大丈夫?ノエル。」
「大丈夫だよ?多分。」
「登録ですね?」
「はい。」
「説明は必要ですか?」
「よろしくお願いします。」
「冒険者には、強さを分かりやすく示すため、ランクがございます。」
「ランク、ですか。」
「はい。まず、Gランクから始まり、F、E、Dと順を追ってあがっていき、Aランク、これが通常の最高ランクです。」
「通常?」
「国王直々の指名があったり、巨大なドラゴンを単騎で討伐したりとすると、非常に稀に、Sランクの冒険者が誕生します。」
「なるほど。」
「では、次にお仕事の内容を説明させていただきます。冒険者の主な仕事は三つ、ダンジョン攻略、掲示板の依頼、そして未探索エリアの調査です。」
「ダンジョン?」
「ダンジョンとはヴァリーキ北西に位置する奇妙な洞窟のことです。」
「微妙な恫喝?」
なんだ、それは。
「奇妙な洞窟、な。それで、奇妙って、いったいどういうことなんですか。」
「それが、入る時期によって中の様子が変わるんです。」
「は?なんだそりゃ。」
「ある時は草原。ある時は砂漠。ある時は雪山。丁度二ヶ月が変化の周期であること、モンスターが発生すること、何故か宝箱が発生すること、くらいしかまだわかっていないんです。なにせ、ダンジョンが発見されてから、まだ三年しか経っていないもので…」
「なるほど。」
「ですから、何があるかわからないため、Bランク未満のランクの方は立ち入りを禁止させていただいております。」
「そうなんですか?」
「はい。また、未探索エリアの調査の方はAランク以上のみ、となります。つまり、ほとんどの冒険者の仕事は掲示板の依頼の解決、ということになります。」
「そんな…。じゃあ、ランクを上げるにはどうすれば良いんですか?」
「それを説明するにはまず、冒険者カードをお渡ししなければなりません。こちらの板を額に押し当ててください。」
「わかりました。」
「あっ、目は……」
受け付け嬢が何か言い終わる前にアルトが板を額に当たると、突然板がバルスのごとく眩く光りだした。
「「きゃっ!」」
「ぐあぁっ。目がぁっ!目がぁぁぁっ!」
「板を見てみてください。」
「め、目が見えねぇっ!」
アルト
Gランク 0/10
「名前と、これは今のランクかな。その横の数字は…なにこれ?」
「その数字がランクアップに関係しております。右の数字は次のランクに到達するために達成しなければならない依頼の数で、左が現在の達成状況です。」
「へえ、よくできてるわね。」
「すごいね。」
「さて、他にご質問などございますか?」
「いえ、特には。マールィは?」
「私も無いわ。アルトもいいわよね?」
「あぁ、問題ない。」
「でしたら、お二人にもカードをお渡ししますね。」
二人はアルトの悲劇を繰り返さぬようしっかり目を瞑ってカードを作成した。
「それでは、本日はどうなさいますか?」
「今日はゆっくり休んで、明日から頑張ることにします。」
「わかりました。ご利用、ありがとうございました。冒険者の方なら半額で泊まれる宿があるんですが、ご紹介しましょうか?」
「本当ですか?ありがとうございます。」
「"金鶏の朝"という宿なのですが……」
アルトたちは受け付け嬢に紹介された宿に到着すると、夕食を済ませ、明日からの生活に期待を膨らませながらベットに入った。
もっと文字数増やした方がいいかなぁ。