酒場にて
「久しぶりだなあ。おっ、あの娘かわいいー」
出店に並ぶ品々。
「……はあ。」
溢れる人、人、人。
2人が歩いているのは、ウィンビルドのNo.13、ヘブンズグレーンの街道。街はぐるっと国を1周する形だ。
ウィンビルドは、他の国にくらべ、縦に大きい国である。
最下層に近づく程、街の円周は長くなり、国の形を三角錐へと形成する。
No.13程の街は、だいたい2日かけなければ1周できない。
活気に溢れる酒場や遊び場や店が多いヘブンズグレーンは、昼間のうちから人で賑わっていた。
「おおーい」
道を歩く2人に、男の声がかかった。
「バリー!」
「おう!スパーズにマオルヴルフ!久しいな」
2人に声をかけたのは、巨大な男だった。
40代後半にもかかわらず、鍛え上げられた大きな体躯に重力を無視したちりちりの黒髪は、10m離れた人混みでも目立っていた。
「ちょっと待て、あそこの酒場に入ろうぜ」
「マオルヴルフ!お前痩せたんじゃないか?」
「…………」
「ちゃんと食ってるか?」
酒場で席を見つけた3人は近況報告から始めようとしたが、懐から薄汚い小箱を取り出し、夢中になっているマオルヴルフには、バリーの声は届かない。
バリーは、2人が小さな頃からの知り合いである。
バリーも腕の立つ機械技師だった。しかし、ある事件をきっかけにバリーは工具箱を捨てた。
それからは、バリーの恵まれた体格を生かし、【王の矛】ランサーへと入団した。
「バリー、肩のその傷はどうしたんだ?」
「ん?ああ。これは5年前にやったやつでさ。アイザンにやられたんだ」
バリーの肩には30cm程もある傷があった。
「やられただけじゃないぜ!もちろん相手を打ち壊してやったんだ。……でもな」
声をひそめてバリーは言った。
「そいつ、蘇りやがってよ。リレイズしたんだ。もっかい叩き壊したら死んだがな」
「?アイザンがリレイズ?」
「ああ。機械のアイザンがな。ありえないだろう。上級の魔術師が扱う蘇生呪文だぞ」
いつの間にかマオルヴルフはじっとバリーの話を聞いていた。
「……バリー、その骸調べてみた?」
「もちろん調べたよ。マオルヴルフ。そいつにはな、蘇生呪文の回路が組み込まれていたんだ」
「どういう事だよ……そんなのがいるのか……?」
スパーズはゲンナリとした表情で言った。
対してマオルヴルフは興味を持ったらしく、キラキラとした顔でバリーに話を促した。
「……で、こっからがミソでよ、どうやら人間の仕業らしいんだ。ありえない回路の構成だし、明らかに手が加わっていた」
「そういう事になるな」
「へぇー!すっごい!!」
マオルヴルフ1人興奮していた。
3人がいるのはとある酒場。
筋肉隆々のバリーに、ランサーの制服を着ているスパーズ。
女の子を振り向かせずにはいられない面々だが、1人場違いなマオルヴルフが、人々をテーブルから遠ざけていた。
女の子が大好きなのにスパーズはどこか抜けていたから、そんな事には気づかなかった。
酒場の1番奥の席で、怪しげな男が3人を見つめていることにも。