兵士と技師
「はぁ?」
耳に当てた無線機から聞こえる久しぶりの友の声。
「頼むよー」
「……今超忙しいんだけど」
どうやら彼は作業中だったらしい。
「でもさ、これじゃあ本当、どこにも行けないんだって」
「知らないよ……」
(うーん。もう!)
「……今日のアイザン、凄く古い奴でさ」
「……」
「だいたい200年ものかなー。しかも、ラーゼルから来たんだけど思うんだよね」
「……!」
「まぁ、もうすぐ回収班が来────」
「分かった。すぐ行く」
「OK!」
兵団に所属するスパーズと、機械技師のマオルヴルフは、少年の頃からの親友である。
それぞれ仕事に就いてからは、ついぞ会う機会は減ったが、たまにスパーズのジェグドウェポン(対アイザン用武器)の修理、強化を、倒したアイザンの部品でギブアンドテイクする。
「明日ヘブンズグレーンに用があって。お前も連れてってやるよ」
「行かない。どうせスパーズはナンパしにくだけだろ」
「うん」
パコッ
「!」
スパーズは、いきなり後ろから頭を叩かれ振り返る。
「久しぶり」
振り返ると、バイクに乗ったマオルヴルフがふよふよ浮いていた。
「マオ!早っ」
マオルヴルフが乗っている飛行型バイクは、さすが天才機械技師が改造しただけあった。
(多分この国で1番速いんじゃないか?)
「凄いな!俺のも改造してよ。」
「だから僕は忙しいんだって。アイザンはどこ?」
スパーズが今日倒したのは、この2ヶ月の中で1番の大物だった。
「これ。凄いだろ」
「おおおー」
これまで無気力な目をしていたマオルヴルフは、人の3倍はあろう大きさのアイザンを見ると、途端に目を輝かせた。
「凄い。これはグリズリー式弁装置かな……。でもこの機構って高速時のバルブとテコの慣性がオーバートラベルに────」
意味が分からないことをブツブツと呟き始めたマオルヴルフは、嬉嬉としてアイザンの骸をいじる。
「おい。おいマオ。……マオルヴルフってば」
「……」
(自分の気に入る機械が目に入るとスグこれだ)
バシッ
「いて。何だよ」
「いや、何だよじゃないって。俺のバイク直して」
「えーなんで」
「いやいや、ギブ・アンド・テイク!それやるからさ」
しぶしぶといった感じでマオルヴルフは立ち上がった。
(あれ?そういえばマオ、修理工具もってきてるか?)
彼は修理しに来たにしては、何も持ってきていない。
「どれ……溶けてんじゃん。うわあ手が溶けた」
エプロンの胸ポケットから取り出した2、3本の作業用ドライバーを使い、溶けて無くなった部品をアイザンから剥ぎ取り補い、素早く修理していく。
ものの5分でエンジンは正常な音を立てるようになった。
作業をするマオルヴルフに、ある人物が重なり、スパーズは少し身震いした。
「さすが!ありがとう」
「うん」
「そういえば、このアイザンってそんなに価値あった?」
「ありまくるよ。ラーゼル製の中でも特にだね。
なんてったって、エキュアルレバーの僅か2本のテコと弁装置で────」
「分かった分かった」
マオルヴルフにわかりやすい説明を求めてはいけない事を忘れていた。
ラーゼル王国は、機械の製造技術が世界一を誇っていたが、リンド帝国が国丸ごと廃墟にしてからは、ラーゼルに次いで技術が高かったリンド帝国が、世界一となった。
今では生産されなくなったラーゼル製の機械は、たまにモンスター化した姿でしか、お目にかかれない。
そのためマオルヴルフは、スパーズがラーゼルのアイザンを仕留めると滅多に上がらないテンションが高くなる。
「あのな、ヘブンズグレーンに用があるのは、本当なんだ」
「ナンパだろ」
「いや、違……わないけど」
スパーズはバツが悪そうに頭をかき、こう言った。
「俺の母さんの情報が、入ったらしくて」
マオルヴルフは目を見開いた。
2人が小さい頃、スパーズの両親は突然きえた。
マオルヴルフは2人のことをた第2の家族のように慕っていたから、消えたと聞いた時は信じられなかった。
「……じゃあ行かなきゃね」
「おう。お前もくるんだよ」
「えぇ……」
「だから俺のバイク、改造してくれ。これじゃお前に追いつけないだろ」
「はぁ……分かった」
「しゃあ!」