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ラスティ・メモリーズ  作者: サニー
2/10

依頼


ここは第5機ウィンビルド王国。

世界に7つある蒸気機関で形成される国の1つ。


この国は横割りで街がわけられていて、1番下から12345……と、最上階の53まである。

これは身分が高い人ほど高い所に住める、カースト制である。



マオルヴルフの機械工房があるのはNo.15。腕は確かだが、かなりの変人だったため、訪れる客を選んだ。

つまり、少し非合法な依頼も舞い込んでくる。

また彼も気まぐれに仕事を選んだ。


アウトローな賞金首の飛行型バイクや、貴族の古い時計。闇取引される機械製の人間のパーツ……


この国、他のほとんどの国もそうだが、人間改造を法律で禁止している。

つまり、人間のサイボーグ化。


10年ほど前。

かつて世紀の天才機械技師と呼ばれたある男が、

人であることを超えたサイボーグ人間をつくった。

それは失敗し、暴走したサイボーグが街を1つ破壊した事件があった。


慌てて国々は禁止の令を出したが、人の欲望心はあっという間に芽生え、今でも密かに人間改造技術を持つ【神の御手】と呼ばれる技師がいるらしい。




2日前の新聞を手に、書かれているウィンビルドの悲劇である「サイボーグ暴走事件」の記事を読み終えた彼は、やっと目の前に立つ女に目を向けた。


「何」

「依頼をしたいのですが」


マオルヴルフは作業用のゴーグルの下からじっと彼女の顔を見た。

深夜3時に訪れたこの客は、明らかにこの場に場違いな出で立ちだった。


(なんだ、この女)


マオルヴルフのごちゃごちゃした狭い工房に立つこの女は、見るからに上層部の者に違いなかった。

マオルヴルフは、ゴーグルを外しながら彼女を観察する。

薄いピンクのドレス(本人はきっと、目立たないように地味なものを選んだんだろう)に、我の強そうな、可愛らしい顔。


(この嬢さんはわざわざ深夜に来たんだろうけど、別に昼間来た方が自然だろうに……)


こんな工房に依頼しに来る人々は、何かしらやましいことを持っている奴らばかりだから、深夜に来ることはよくあることだ。


その女の方も、マオルヴルフを胡散臭げに見つめた。

腕は確かだと聞いてやって来たのだが、その店主の風体は酷いものだったからだ。


きっと何日も風呂に入っていないであろう、煤や機械の油で汚れた顔、元の色が分からない汚れた服にエプロン。

細かい作業をするのに邪魔なのか、前髪はおでこの生え際にガタガタに切られていた。


更に彼女が驚いたのは、この男の目だった。

左右で目の色がちがう。

恐らく右眼は正常な色なのだろうが、左眼の色が異常だった。

普通は光が入りハイライトがつくはずが、全くない。瞳孔もない。真っ黒だ。


その瞳からは、なんとも狂人的な雰囲気が感じられた。


(早く済ませよう……)


それにしても、この工房を早く離れたかった。

薄暗くて乱雑としている小さな部屋で、目の前にいる男は噂の変人。

彼女は鞄から、ハンカチに包まれた小さな依頼物を取り出した。


「この小箱を開けて欲しいのです」


彼女がおもむろにハンカチを解くとそこには小さな箱があった。


「!?」


マオルヴルフは咄嗟に小箱を手に取った。


「ちょ、ちょっと!これは大切な者なんです!

もっと丁重に扱って下さい!」


彼女はわめくが、そんなことは耳にも入らないようで、マオルヴルフは食い入るように小箱を触る。


彼は気に入った機械や複雑な回路には、どんな状況でも目が離せなくなる。

どんなに難しい依頼でも、自分が気に入った機械なら、3日間は不眠不休で作業に没頭する。


「この箱を必ず開けて下さい。中に入っているものについては、追求無用です。これは……」


彼女は、自分の主人に念を押された項目を伝えた。


「……本当に大切なものです」

「……」


(聞いてない……)


マオルヴルフはまだ鼻息荒く箱をみつめていた。


(どうしてあの方はこんな人を選んだのかしら)



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