歯車の世界
広大な砂漠
まばらに生える低木
揺れる地平線
この世界の7割を占める不毛の大地
そこに突如として現れる巨大な鉄の塊。
それにへばりつくように街が生成される。
巨大な蒸気機関が1つの国を造り上げる。
街の中心にそびえ立つ、天にも届きそうな煙突から、空をすべておおいつくしてしまうかのように、滂沱たる黒煙が休む間もなく排出される。
初めてその場景を見た者は、何と言うだろう。
その、胸を圧迫するような圧倒的なスケールに何も言えないだろうか。
今、ちっぽけな自分が立っている砂漠をつくりだしたのは、憎むべき原因はこれか、と目を見開くだろうか。
否、初めて見る者なんて存在するはずがないから杞憂だろう。
ましてや、砂漠の地に足をおろす者なんているはずが無い。
この世界に生を受けたものは、国の内側から外の大地に足を踏み出すことは出来ない。
蒸気機関が原動力であることにおいて、大気汚染、土壌汚染は免れないことである。
かつて大昔、天に広がっていた青い空は、晴れることのない灰色の雲が覆い尽くし、大地を覆っていた緑は、汚れた土によって枯れた。
穢れた土は、触れた生命力をスポンジのように吸収し命を奪う
【死の地】を造り上げた。
人々は逃げることの出来ないこの世界で、ただ毎日空気を汚す鉄の塊に身を寄せ合って暮らしている。
そんな世界を、煤に咽びながら、ただ真っ直ぐに駆け抜けた青年がいた。
機械に埋もれ、歯車に心を踊らせ、錆色のこの世界を愛した狂った青年。
機械に侵され、無機質な心を憎み、己を知らない悲劇の青年。
これから語るは彼らの物語。