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神々の紋章  作者: きりた
第二章 旅立ち騒動記
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第26話 討伐開始

「他の魔物が一切出てきませんね。ワイバーンの住処に近づいていってるというのにこの静けさは不気味ですね」

「ああ、ワイバーンによって魔物たちが狩られたのかもしれないが不思議だ」


シルフォードさんが言うようにそれもあるかもしれないが、山頂に大きな気配がある。街からの索敵の時から少し捉えてはいたが、近づくともっとわかるな。シルフォードさんは気づいているだろうか。恐らくあれは・・・・。


リュウは山頂にある大きな気配を気にしながらも登っていく。索敵スキルを広範囲に拡げ、神眼の力を併用すれば山頂の気配の正体も分かるが、リュウはそれをしなかった。それはなぜか。リュウは山頂の気配の正体を薄々と勘づいているからだ。リュウはワクワクするものは自分が見るまで取っておくという子供のような性格もあり、だからしなかったのである。


「もうそろそろ情報通りの場所ですね」

「ああ、戦闘態勢は崩さぬようにな」

「わかってますよ」


『キシャァァァァァ!』


岩陰からワイバーンが一体飛び出してきた。距離は50m程、これだけ離れていても鳴き声は耳をつんざく。羽を大きく広げ、リュウ達を威嚇している。羽を広げた状態で全長4m。体高は3mぐらいだろうか。胸には赤く胎動する水晶のような物が光っている。ワイバーンの生命維持に必要な核であり、弱点でもある。剥き出しとなったこの核を貫く事によってワイバーンの命を絶つことが出来る。


「リュウ。君の実力を見せてくれ」

「シルフォードさん。少し離れててください」

「ほう」


シルフォードが素直にリュウから離れた。その顔は楽しみにしていたものを待っていたという笑みがこぼれていた。リュウは神龍牙槍を構え、ブーツへと魔力を送り、深く息を吸った。リュウの目は静かにワイバーンを捉えていた。


「すぅ。…さあさあ。やっとお出まし・・・か!!」


掛け声とともにリュウは踏み込んだ(・・・・・)。爆音とともにリュウの姿が消えた。


「速い!」


そうシルフォードが呟いた時には、既に神龍牙槍はワイバーンの胸に大きな穴が開いていた。ワイバーンはリュウの体へと倒れこみ、光の粒子となって消えた。リュウが元いた場所には直径2m程の大きなクレーターが出来ていた。『踏込み』これは王魔鰐がもつ技であり、作成した際に自然に付与された力である。魔力を込めることによって再現できる。欠点としては直線にしか進めないことだが、リュウの化け物的俊敏力の高さでまさしく一瞬でワイバーンの懐へと入り込んだ。このスピードでは直線にしか進めないとは言うものの相手は間合いに入られたことも気づかぬままこと切れるだろう。


(速い。私が感じ取ることさえ出来なかった。リュウが強いということは分かってはいたが、これまで過ごしてきた中で分かった強さ、イメージを大きく覆した!)


「ふう…。まだ一体だ。シルフォードさん、次行きましょう!」


リュウは振り向き、シルフォードへと笑った。


(あいつは戦闘に入ると恐ろしく性格が変わるな。ワイバーンを見た瞬間のあの目は私も身が凍るほどだった。あの年であの目をするとは末恐ろしい奴だ)


「恐らくあいつは見張り役でしょうね。あと数分したら囲まれますよ」

「ああ、だからあれ程の大声を上げたんだ。一人で大丈夫か?」


シルフォードはリュウに手伝いが要らないことは分かっているため、冗談交じりに聞いた。


「手助けはいりませんよ。シルフォードさんにはワイバーンの攻撃もいきませんよ。俺がいますから。ただ一つ言っておきたいことが」

「なんだね」

「俺の攻撃の余波には注意してください」

「あの攻撃を見ればわかる。離れておけばいいのだろう?」

「ありがとうございます。俺はなんせ手加減が出来ないんです」


(リュウの師匠はそれほどまで強かったのだろうか。しかしそれほど強いのならリュウにも手加減の仕方くらいは教えるはずだが…)


たぶんシルフォードさんは俺の師匠のことを考えてるんだろうな。普通強いなら手加減の仕方ぐらい教えるだろうな。しかしあの森は手加減なんかしてたら命を落とすようなとこだったし。神竜さん達も俺も外の世界とのステータスの差の事を考えてなかったから、うっかり忘れてたんだ。これから身に着けていけばいいさ。


「来た……1、2…5か」


前方に2体、後方に3体。ワイバーンに取り囲まれる形となった。リュウは取り囲まれていることなど臆することなくニヤリと笑った。


「いいねぇ。仲間の声が一瞬で消えたのを察して、複数体で囲む形で来たか。楽しませてくれよ」


リュウはアイテムルームから弓矢を瞬時に取り出し、前方めがけて2本一気に矢を放った。龍鱗で作られた矢は吸い込まれるように2体の核へ誘われた。なんの抵抗もなく貫通し、2体を光の粒子へと変えた。


「2、3」


(リュウは弓も扱えるのか。私たち種族は弓が得意だが、それとは全くもって別次元だ。恐らく、弓術スキルは限界まで上げられているだろう。しかしリュウは限界より先に進んでいるような感覚だ。全く、私をどれほど驚かせれば気が済むのだろうか)


シルフォードはそんな事を考えながら、口元は笑みを浮かべていた。リュウは2体が粒子へと変わったのを確認すると弓矢をしまい、愛槍へと持ちかえた。後方の3体は2体がやられたのを見て、警戒しながらもリュウへと最大の威嚇の咆哮を上げていた。そのうちの1体の咆哮が周りを震わせていた。


『威圧スキル』持ちか。あいつが今来た5体の中で一番強いらしいな。だけど威圧はステータスにあまりにも差があれば全く効果を示さない。俺には効かない。


(あの威圧にリュウは全く動じぬのか。あのワイバーンと私のステータスにも差はあるだろうが威圧による圧迫感は少々感じている。私とリュウとのステータスの差はどれほどあるのだろうか…)


リュウは後方へと足を向け、駆けだした。その速度は先ほどの『踏込み』と比べると遥かに遅いが、常人では捉えることのできない速度だ。ワイバーンの目を眩ますには十分な速度であった。


「形態変化”剣”」


槍は白く光り、剣へと変化していった。その様子を見たシルフォードは端麗な容姿には似合わない口をあんぐりと開けた状態で驚いていた。


(あ、あの槍は…形状が変化するのか!?そ、そんな武器この生涯百数十余年見たことがないぞ!神器に等しき性能ではないのか?!)


シルフォードが驚いている傍ら、ワイバーンへと駆けているリュウは内心笑い転げそうになっていた。


シ、シルフォードさんも、あ、あんな顔するんだ。あはは!そりゃ驚くか。いかんいかん。戦闘に集中せねば。ヤファイさんが言ってたぞ。『どれだけ弱い相手でも集中もせずに油断をしていたら、その失態により自らを喰われるぞ』って。


ヤファイの言葉を思い出し、集中をしたリュウは全身に魔力を巡らせ、『身体強化』を発動させた。リュウの現在の強化系スキル全般の上昇率は1%~500%となっており、それを自在に操ることが出来る。今回は50%ほど上昇させた。

上昇率の高さを見れば今回の50%はそれほど高くないと感じるだろう。しかしリュウの動きは目に見えて、速さ、キレともに変わっていた。その急な動きに困惑し、ワイバーンは動きを数瞬止めてしまった。その隙をリュウが見逃すわけもなく、後ろへ回り込み、脳天から剣を振り下ろした。股まで綺麗に振り下ろされ、ワイバーンは斬られたことも気づかないまま光の粒子へ姿を変えた。


「すぅ…4」


しかし、斬られたワイバーンの近くにいたワイバーンも今リュウが一息ついたのを見逃さず、リュウへと鋭利な爪のある腕を振り下ろす。リュウは剣をそっと地面に置き、その腕を掴んだ。ワイバーンは片手が封じられたことは臆せず、もう一方の腕も振り下ろす。それもまたリュウに掴まれた。


「力勝負といこうじゃないのぉ」


野生の勘だろう。力では勝てないと瞬時に悟ったワイバーンは大きく口を開けた。


「俺は喰ってもまずいぜ…っと」


リュウは腕を掴んだままワイバーンの膝を足場にし顎へと膝蹴りを入れた。その強烈な膝蹴りにより首は折れ崩れ落ちた。リュウは地面に置いておいた剣を拾い、倒れたワイバーンへと静かに突き刺した。


「5体目」


少し離れた位置にいたワイバーンは固有スキルである『炎のブレス』の準備を完了させていた。リュウがそのワイバーンに方向を向けた時、口を大きく開き炎を吐いた。広範囲にわたって炎が広がったが、リュウは高く跳びそれから逃れていた。そのままワイバーンの後ろ側に着地した。ワイバーンはすぐさまブレスを止め、翼を大きく広げ飛び立った。


「飛んだって逃がさねえよ」


リュウも高く跳んだ(・・・)。文字通りただ高く跳んだのだ。ワイバーンと同じ高度に一瞬で辿り着き、空中で剣を一閃させた。ワイバーンの体は肩から崩れ落ち、光の粒子に変わった。


「こんなに高く跳んだのは初めてだな。綺麗に着地できるか?」


高度は地面から40m程だろうか。リュウはそんな心配をしながらもうまく膝のばねや体全体を使い、着地の際の負荷を逃して綺麗に着地した。


「あぶねぇ…よし6だな。シルフォードさんまだまだこれからですよ!あれ?シルフォードさん!」


リュウに大声で呼ばれ、やっと我に返ったシルフォードであった。どうやらリュウに聞きたいことがやまほどあるらしい。

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