第23話 道すがら
もう何も言いません。地道に書き続けてました。
馬車に揺られながら北へ北へと進んでいく。
「うへぇぷ……」
リュウは吐きそうになりながら、死んだ魚のような目で窓から外を見ていた。
「意外だなぁ。もしかして君は馬車に乗るのは初めてかい?」
「はい…。すいません。…うへぇ」
俺は地球にいた頃から何分乗り物だけはめっぽう弱かった。車もバスも船も。下手すりゃ電車で酔ったことすらある。酔い止めを飲まなかった日は散々だったよ。
この世界にはそんなものはない。今度作っておかないと。
「遠くの方を見ておくといい。だいぶ気が楽になるだろう」
「はい。そうします…」
ここまで揺れるとはなぁ。舗装されてる道じゃないのもあるだろうけど、やっぱり生き物が引いてるからリズムがあまり一定じゃないんだ。腰も痛くなってくるし、シルフォードさんは平然としている。
「そんな状況で申し訳ないが、少し質問してもいいかね?これはギルドに報告するためではなく、私自身が聞きたいことなのだが」
「まあ、答えられる範囲で答えます…うぷ」
「君はどこから来たのか」
「遠いところからですね」
「ふむ、答えられないか。では君は何故そうも強いのだね」
「う~ん、師匠達が強かったからです」
「師匠達?それでは複数人師匠がいるということか」
「その人たちがいなければ、今の俺はない…それほど自分に影響を与えた凄い師匠達です」
「…そうか、会ってみたいものだ」
たぶんあったことあるんだよなぁ。
「では、君にとっての強さとは何かね」
おお、かなり難しい質問がきた。強さか。
なんで俺は強くなろうとしているんだ。それは邪神を倒すためだ。
だけどそれが本心なのか?これまではその為だけに修行をしてた。
だけど師匠以外の人たちと会うことで何か考えが変わったような気がする。
目的は邪神を倒すことだ。
だけど倒した後はどうする?
これまででよく分かった。この力は異常だ。
「……ちなみに、シルフォードさんにとっての強さとは?」
「私にとっての強さは優しさだと思っている。私自身、自ら攻撃して倒すということはあまり無い。誰かを守るために戦っている。その守る対象は誰でもだ。友、家族、愛する者。優しさが無ければ誰も守れない。強くなれけば誰も守れないだろう?」
優しさか。全くもってその通りだ。やはり俺とは経験の量が違う。これまでに色んなことを経験してきたからこそ、この答えに辿り着いたのだろう。
「俺はまだ分からないです。確かに自分自身に力があるのは分かっています。でもまだこの力の使い方が分からない。経験が少ないんです」
「ふむ、それが分かっているなら大丈夫だ」
「え?」
「私自身も若い頃は分からなかった。経験が足りなかったからだ。だが過ごしていく中で自分がどうあるべきか見えてきたのだ。リュウ、君もいずれ分かるようになる。しかし決して強さを履き違えることはないようにな」
リュウは静かに頷いた。
「だいぶ良くなってきたじゃないか」
「あっ、本当だ。シルフォードさんのお陰です。為になる話を聞いて気も紛れました」
「それはよかっ
ガタッ!
急に馬車が止まり、勢いよく揺れた
「どうした!」
シルフォードが馬主に聞き叫んだ。
「今目の前で矢が飛んできました!恐らく盗賊です!道を防いできました!」
「なに?盗賊か。リュウ、外へ出よう。馬主はここで馬たちを見ていてくれ」
「盗賊ですか…わかりました」
外へ出て、二人で前方を確認しに行く。馬の数メートル前の地面に矢が刺さっていた。
危ないじゃないか。もう少しで馬にあたる所だったぞ。索敵してみるか。結構近くにいるな。
「シルフォードさん。2時の方向約200メートル先に不自然に13人集まっています。たぶんそいつらがこの矢を」
「索敵スキルか。だいぶ正確だな。ふむ、そこまで規模の大きい盗賊ではないな。だが…」
「この距離でも発見、攻撃できるほどの実力のある者もいる…」
「ああ、リュウ。油断はしない方がいい」
「わかっていますよ。だけど動きがないですね」
「リュウの実力を見てみたい。クエスト前だが、盗賊討伐も試験の内容として入れよう。報酬は私が出す。リュウよ。盗賊団を1人で対処出来るか?」
「やってみますよ。こういうクエストってのは初めてなんで慣らしておかないと」
「盗賊団を捕獲。抵抗する場合は殺傷しても構わない。アジトの居場所を吐かせるのも重要だ。試験内容は覚えているな?魔法の使用は禁止だ」
「分かりました。では…」
リュウは隠密スキルを全開に発動させ、走り出した。
「ほう、ここまで気配を消すことが出来るのか。この私でも一瞬気を離したら見失ってしまうぞ」
前方。木の上に弓を持ったやつと、その横に双眼鏡のようなものを持ったやつがいる。おそらくあいつらが発見して撃ってきたのだろう。その後方に11人。
身なりも盗賊って感じだ。ん?会話が聞こえる距離まで来たか。よし、もっと気配を消せ。
「おっと。私ですら完全に気配すらも感じれない。リュウの力は計り知れないな。これではリュウがどのような戦闘するのか分からないじゃないか」
シルフォードが笑いながら呟く。
リュウは物陰に隠れ、盗賊の話を聞いている。
「と、頭領!あ、ああの馬車!エ、S級のシ、シル、シルフォードが乗ってい、いました!」
「なに!!!???シ、シルフォードだ、だと!?まっ、まずい!お前ら逃げるぞ!」
「頭領!待ってください」
「ば、馬鹿!待ってる暇などあるか!」
「2人降りてきたのに、シルフォードではないフードを被ったものが、こちらに向かってきたかと思いきや消えました!」
やはり、弓を持ってるやつは少し冷静だな。あいつだけ盗賊とは思えない実力を持っているような気がする。
「シ、シルフォードと一緒にいるってことは相当な手練れかもしれねぇってことじゃねえか!しかもこっちに向かってきただと!!?」
話を聞いてる限り、アイツが頭領らしいな。弓を持ってるやつ以外完全にビクついて逃げ始めてるじゃねえか。統率は崩れたな。よし。
リュウは気配を殺したまま、アイテムルームから縄を取りだし、物陰から出て盗賊の頭領の後ろへと周りすぐさま結びつけた。この全てを行った速さはなんと3秒である。
「な、なに!!!???いつの間に!!」
「と、頭領!!」
弓を持った盗賊がすぐさま矢を撃ってきた。それは確実にリュウを狙った正確な射撃であったが、リュウは目にも止まらぬ速さで力を流し、矢を素手で掴んだ。
「な、この距離から撃った矢を素手で掴むだと!?」
「あんたの弓、すっげえ正確だな」
「ちっ!」
もう一度撃ってきた。しかしそれもリュウは素手で掴んでしまった。
「何度撃っても無駄だ。早くその弓と矢を下に下ろせ。俺は人を傷つけたくはない。早く!」
「くそっ」
男は弓と矢を下ろした。それと同時にリュウは頭領の縄をさらにきつくし、弓と矢を回収した後にもう一人の男にも縄を結んだ。
「もう、あんたらのお仲間はどうやら逃げたらしいな」
「あ、あいつらぁぁぁ」
盗賊の頭領は不細工な顔をさらに不細工にしながら泣き叫んだ。リュウはその2人を木にきつく括りつけて、索敵スキルと隠密スキルを発動させ、走り出した。逃げ出した盗賊達を全員捕まえるためである。
走り出して早3分。リュウは逃げた全ての盗賊を捕まえた。全員縄で縛り付けて、シルフォードの元へ歩き始めた。
「シルフォードさん。全員捕まえましたよ」
「早かったじゃないか。戦闘を見ることが出来なかったのが悔やまれるが、実力を測ることもできた。では尋問を始めるとするか」
「お前らのアジトはどこにある」
「俺らにアジトなんてねえ!」
「アジトがないだと?どう思う、リュウ」
神眼発動。嘘は言ってないようだ。シルフォードさんにはこの能力の事は隠そう。
神眼の更なる能力。それは嘘を見破る能力だ。嘘をついていなければ変化はないが、嘘をついていれば対象者の周りに黒いもやがかかっているように見える。
「嘘は言ってないと思いますよ」
「ほう、それは何故かね」
「盗賊にしては、戦闘力がある。憶測でしかないですけど、傭兵崩れか何かじゃないですかね。盗賊にはなりたてで」
「そう!そうなんだよ!!俺らは全員が傭兵崩れなんだよ!!」
これも嘘じゃない。
「そっちのあんた。あんたの弓は相当な鍛錬によるものだろ?なんで盗賊なんかに?」
「俺達にはこうするしかなかった」
「シルフォードさん。傭兵崩れってのは冒険者になれないんですか?」
「いや、そんなことはないぞ?」
と言った瞬間盗賊たち全員が「あっ」と言った。
「その手があったか!無理に盗賊になる必要なんてなかったんだ!!」
元頭領が叫んだ。なんでその事が頭に浮かばなかったんだよ。
「ところで、何故君たち傭兵崩れなんかに?」
シルフォードが尋ね、頭領が話し始めた。
「それはだな。今から3週間ぐらい前だったか。ここからだいぶ離れた場所なんだけどもよ。火山があるだろ?そこにワイバーンが大量に発生したんだ」
「それって俺たちが今から向かう所じゃないか」
「うむ。そうだ。たしか私が聞いた情報によるとギルドに依頼が出される前に、ある国から傭兵団に依頼が出されたらしい。しかしその傭兵団はほぼ壊滅したと聞いたが…」
「ああ、俺らはその傭兵団の中のひとつのチームだ。惨憺たるものだったさ。数百人もいた傭兵団が、仲間たちがワイバーンに食い殺され、焼き崩され、運よく俺らは逃げれた。いや、逃げるしかなかった。命からがら俺らは国のお偉いさんの所へいった。俺たちには無理だったと伝えるために…」
「しかしそれがどう傭兵崩れになるまでにいったたんだ?傭兵団が崩れようともお前たちは生きていたんだ。他の場所でも傭兵としてやっていけただろう?」
「俺らは戦い疲れ、飯も依頼ですべてなくなったさ。金も当たり前のようになかった!しかし国は俺らに金も何も出さなかった!!」
周りの奴らが泣き崩れはじめた。
「奴らは依頼する時に、言ったさ。ワイバーンを討伐したら多大な報酬を出すと!素材もそこらの素材屋、ギルドよりも高く買い取ると。もし討伐出来なかったとしても、生きて帰った者には手当を出すと!団長がそれを口約束で引き受けたのも悪いかもしんねぇ!だがあまりにも酷すぎる!あいつらはヘラヘラとそんな約束はした覚えはない。していたのなら書類の一つでも出てくるはずだといきしゃーしゃーと抜かしやがった!!その結果がこれさ…一文無し、装備も体も……心も!!ボロボロだ。盗賊になるしかないと思ってしまったのさ」
「そんな経緯だったのか…」
「その依頼を出した国はどこだ」
「え?この国から出されたんじゃ」
「そのはずはない。私は王都にあるギルド本部から来たのだぞ。王の事もその周りの大臣の事もよく知っている。そんな下らん事はせん」
「エラトマ帝国さ」
「エラトマ帝国?」
「うむ、そうか。人族の住む大陸の国の一つだ。数年前の王が変わって、大臣たちも総変わりしたせいで、治安、財政ともに急激に悪化した国だ。王自身も傲慢な暴君だ。だいぶ裏がわかってきたぞ」
「裏?」
「いや、こちらの話だ。君はまだ知らなくていい」
まだか…妙に強調した言い方だな。エラトマ帝国、覚えておこう。
「それで、お前らはこれからどうするんだ」
「あんたたちの言ってたようにギルドに登録して冒険者になるよ。お前らもそうするか?」
「「「「「当たり前っす!!」」」」」
「それならこの道を私たちが来た方向にトーファスという街がある。そこで登録するといい。リュウ、縄を解いてやれ」
「わかりました」
「俺たちは捕まえなくてもいいのか?」
「ああ、話を聞いて裏も分かった。まだ何も悪いこともしていないのだろう?私たちを襲ったことは眼を瞑ろう。最初に狙ったのが私たちで良かったな」
「ありがてぇ!!よし、お前ら!トーファスに向かうぞ!!」
「「「「「おう!!」」」」
元盗賊団は明るく歩き始めた。
「弓使いのあんた!ちょっと待ってくれ」
「どうした?フードの旦那!」
「俺の名前はリュウだ」
「リュウか。俺はアルクってんだ。それでどうして俺だけ引き留めた」
「アルクは俺と同じで16だろ。同年代のよしみでちょっとアドバイスをしようと思ってな」
「リュウは鑑定もできるのか。しかも同じ年かよ。強すぎないか?」
「ま、まあ、それは置いといて。アルク。お前は弓を撃つ瞬間に、肩が動く癖がある。あと狙う場所を見すぎだ。遠距離なら構わないが、中距離より短めの場合、この二つは大きな欠点になる」
「そうだったのか。それは知らなかった」
「ある一定以上の相手と対する時、このままだとすぐに矢を弾かれるぞ。俺みたいにな」
「リュウは弾いてなかったじゃないか。距離は10mもなかったと思うぞ。どれだけ俺の癖が悪いにしてもあの距離であの速さのを掴むなんておかしいだろ」
「そ、そんだけ癖が悪いってことだ!肩が動いてしまうのは徐々に意識して治していけばいい。あと一度狙う場所を決めたら、少し目を逸らしてみるといい」
「わかった。ありがとう。これでもっと強くなれる気がするよ」
「冒険者としての活躍を期待しているよ」
「おう!じゃあ、仲間たちのところへ戻るよ!リュウ。今から俺たちが行った火山へ行くらしいな。気をつけろよ。冒険者になったらお前とチームを組んでみたいよ」
「わかってる。アルクも頑張れよ。その日が来るを楽しみにしてる」
弓使いのアルクが仲間たちの元へ走っていった。
「どうしてあの青年を引き留めたんだ?」
「ああ、シルフォードさん。あいつはちょっとこれからが楽しみかもしれませんよ。あの若さで弓術のレベルが7もあるんですよ。だからアドバイスを」
「ほう、それは楽しみだな」
俺には神竜さんがいたからここまで強くなれた。アルクにも恐らく師匠と言える人もいるだろう。だけど努力をしなければあそこまでレベルは上がらない。強くなりすぎたと思っていたけど俺もまだまだだな。努力は続けよう。強さか…少しわかったかもしれないぞ。
「リュウ、少し足止めを食らったが行くとするか」
「はい!」
リュウ達はまた馬車に揺られながら、火山近くの街へと向かった。
初日以外は何事もなく、リュウは酔いながら順調に進み、少し予定よりも早く四日目の昼に街へと着いた。
エラトマ:ギリシャ語で『悪』
アルク:フランス語で『弓』




