第20話 休日 前編
窓際で鳴く小鳥の声でリュウは目を覚ます。まだ日が昇ってからそれほど時間は経っていない。直ぐに着替えをし、宿を出た。朝が早く、まだ街の人々がやっと動き出す時間だ。何故リュウがこんなにも早起きをしたのかというと、ランクアップの通達が気になってソワソワしているからだ。
ギルドへ向かう。コンビニみたいに24時間営業のギルドは朝からも騒がしい。受付に行く。レシーはいないようだ。
「クレインさんはいるか?」
「ギルドマスターですか。はい。居られますよ」
「どこにいる?」
「いつも通り執務室かと」
「今から会えるか聞いてきてくれるか」
「リュウ様ならすぐにお会いできますよ」
「そうか。なら少し話してくるよ」
「はい。どうぞ」
リュウは執務室の前へ行き、扉を叩く。
「入りたまえ。おお、リュウ君かね。おはよう。今日はどうしたんだい」
「おはようございます。クレインさん。いやランクアップの通達はまだ来ていないかなと思いまして」
「ははは。君は意外にもせっかちなようだ」
「すいません、気になってしまって」
「ランクアップがそんなに楽しみなのかね」
「まあ、はい」
「それについては大丈夫だよ。恐らく明日には来るだろう」
「そうですか。ならいいんです」
「この後はどうするんだい?ランクアップは確定なんだ。依頼でも受けるのかい」
「いえ、今日はこの街を散歩がてら見回るつもりですかね。この街の地形はある程度わかりましたから」
「そうするといい。君はもうここの有名人だからね」
「ははは、あっそうだ。今日はレシーさんいないんですか?」
「レシー君かね。たしか昨日から体調が悪いらしくてね」
「あちゃ~。氷の球の所為かな」
「それもあるだろうな。だがレシー君は働き詰めでね。丁度良い機会だから5日ほど休みをあげたんだ」
「そうなんですか。それなら大丈夫そうですね」
「見舞いに行ったらどうだい?」
「ああ!いいですね。そうします。レシーさんの家はどこにあるんでしょうか」
「レシー君はギルドの寮にいる。寮はギルドを出て直ぐの裏路地に入っていけばあるよ。部屋はたしか・・・、管理人もいるだろうから部屋は聞いてくれ」
「わかりました。では行きますね」
「もう行くのかい?こんなにも朝が早いんだ。寝ているかもしれないよ」
「その時は適当に街を歩いて、後でお邪魔させてもらえばいいんですよ」
「そうだな。レシー君には何もするなよ」
「何もしませんよ。ただお見舞いに行くだけなんですから」
「冗談が通じないのだな。リュウ君には」
「ははっ、すいません」
「まあいい。よろしく頼むよ」
「はい」
リュウが部屋を出る。クレインの顔が何故か少しにやけていた。
え~っと。ギルドを出て、直ぐの裏路地ね。ここの中か。結構狭いな。もし太ってる職員がいたら、通るにも一苦労なんじゃないか?おっ着いた。
『ギルド職員の寮』
そのまんまの名前だな。まあ宿屋って訳でもないし名前を凝らす必要はないか。とりあえず中に入るか。
中に入って直ぐに管理人がいた。見た目普通のおばちゃんって感じだ。リュウが入ってきたのを見て驚いている。リュウの外見もあるだろうが、ここはギルド職員以外は特別な事がない限り入ってくる事が少ないからだ。
「あんたみたいなお兄さんがこんな場所になんか用かい?」
「レシーさんが体調を崩したと聞いてお見舞いに来ました」
「レシーに?あの子もなかなかやるねぇ」
「え?」
「いやいや、何でもないよ。レシーの部屋を聞きたいんだろう?」
「はい」
「二階に上がって左に行ったらその一番奥の部屋だよ」
「ありがとうございます」
「楽しんでおいで。くふふ」
「楽しむ?」
「なんでもない。なんでもない」
「はあ」
リュウは二階に上がり、言っていた通りの部屋の前に着いた。
ここのはずだよな。流石に管理人さんも嘘はつかないだろう。ノックをしてみるか
コンコンッ
「はーい」
どうやら起きているみたいだ。
ガチャッ
「おはようございます。レシーさん」
「ニャッ!?」
バタンッ!カチッ
えぇ~。なんで閉めちゃったのさ。しかも鍵まで。もしかして嫌われたのか。はあ。めっちゃ驚いてたな。初めて獣人らしい反応を見たよ。可愛かった。おっといかんいかん。そんなことより、
「なんで閉めたんですか~。俺はただレシーさんが体調を崩したって聞いたからお見舞いに来ただけですよ。何もこの前みたいにするわけじゃありませんよ~。来ただけで驚かれて、しかも鍵まで閉めるのは結構心にきますよ~」
カチャッ。キ~ッ
「ど、どうぞ」
「開けてくれましたね。じゃあ、お邪魔します」
レシーの部屋は綺麗に整頓されていた。色合いも女性らしい明るい色になっている。
「可愛らしい部屋ですね」
「あ、ありがとうございます」
「大丈夫ですか?少し顔が赤いですよ」
「だ、大丈夫です」
「熱を診てみますね」
「・・ニャッ」
リュウがレシーのおでことおでこを合わせた。みるみる内にレシーの顔がさらに赤くなっていく。
「少しあるんじゃないかな。まだ寝てなきゃだめですよ。看病はしますから」
「だ、大丈夫ですよ!」
「病人は病人らしく寝ててください。体調が悪くなったのも恐らく俺が原因ですし」
「そんなんじゃ、(リュウさんが関係ないわけじゃないけど)」
「いいから、お見舞いに来たんですから。もう朝ごはん食べました?」
「いえ、まだですけど・・」
「なら俺が作りますよ」
「いいですよ。そこまでしてもらわなくて」
「大丈夫です。看病くらいさせてください。聞きましたよ。ここ最近無理してたって」
「あっ、・・はい」
「体調を崩していようがいなかろうが休める時には休んでていいんですから」
「はい...」
「何が食べたいですか?」
「甘い物が食べたいです」
「甘い物か。はい。わかりました。ちょっと買い物行ってきますね」
「何を作るんですか?」
「それはお楽しみですよ。じゃあ、行ってきますね」
「あ、はい」
レシーはポカンとした顔でリュウを見送った。
何を作るかはもう決まっている。体調が悪くても食べれる甘い物、ホットケーキだ。あとアイスクリームの作ろう。早速材料を買いに街に出たわけだが、どこにどの店があるのかわからない。ベンたちと回った時はただ見ていただけだからはっきり覚えていないんだ。適当に歩けばわかるだろう。
「よお!あんちゃん。久しいな!」
「その声は・・ルボーさんじゃないですか!」
「おお。覚えていてくれたのか」
「そりゃ当たり前じゃないですか。俺が初めて会った人ですからね」
「いや~。噂はかねがね聞いてるよ。やはり俺の目は間違っていなかったんだな。リュウがただ者ではないいって」
「そうみたいですね」
「今日はどうしたんだ?」
「買い物をしようと、食材を探してまして」
「それならうちに来い。なんでも揃ってるぞ~。食材から武器まで。何て言ったってそれがルボー商会の売りだからな!」
「なら行きますよ」
「おう!」
ルボーについていくと大きく『ルボー商会・トーファス店』と書かれたかなり広い店まで案内された。店の中から若い女性が出てきた。
「会長。どうかされたんですか?今日は散歩に行くって・・・はっその後ろにいられる方はもしや」
「ああ、こいつがあの白銀の貴公子のリュウだ」
「ははぁ。それは凄い。さすが会長。その様な方を連れてこられるとは」
「そこまで俺は凄くありませんよ」
「いやいや、貴方様がゴブリン達を倒して頂いたが故に我らが安心してこの街で暮らしていけるのですよ」
「それは流石に言いすぎですよ。俺がいなくともクレインさんはいたんですから」
「あんちゃん。自分の功績を認めたらどうだい?もしギルドマスターがいなかったら本当にこの街も無事では済まなかったはずなんだから。あんちゃんが突然この街に来たのも何かの運命だ」
「そうですよ。この街の方々は貴方様に感謝しているんですから」
「はい。わかりました」
「それでいいんだ。あんちゃん」
ははは。なんか嬉しいもんだな。ここまで感謝されるとは。やっぱりフードを取ったのは正解だったのか。もしフードを取らなかったら、悪魔族のレッテルを貼られたままだったからな。感謝なんてされずにこの街を出て行かされるだろう。まあその所為で『白銀の貴公子』なんて呼ばれるようになっちゃったんだけどね。小恥ずかしいよ。
「それで今日は何をお買い上げに?」
「ああ、食材を買いにね」
「おお、そうだったそうだった。何でもいい。見ていってくれ」
店の中を回ってみる事にした。
「上の階も見てきてもいいでしょうか?」
「ええ、どうぞ。ご自由にご覧になってください。この建物は三階建てになっており。一階から順に、食材や道具。二階が家具や服。三階が武器、防具の階となっております」
とりあえず三階から見て回ろうかな。
おお。本当に武器が置いてある。品質としては上々だ。初心者でも扱いやすい物が安く売ってある。おそらく冒険者に成り立ての人が利用するのだろう。ある程度金や実力が付いたら専門の所に行くといったところか。うまく冒険者達を客として利用しているようだ。
そして二階
言っていた通り家具などが置いてある。一般人も手に入りやすい価格だ。品質も色合いも申し分ない。
最後にお目当ての一階。
さっきチラッと見たが珍しい物も売っていた。森では見たことない物の方が多い。
「ルボーさんって会長なんですよね。それなのに何故自ら各街へ出向いているんですか?」
「会長は自ら足を運んでその街に何が必要か自分でやらないと気が済まない人なんです」
「そういうことだ。自分で見て自分でその街に何が必要で何が要らないか見ているんだ。訪れていない間にその街は変化するからね。年齢層であったり。それを自分で見なきゃいけない気がするのだ」
「物凄い商魂ですね。ははは」
「本部は王都にあるんだ。そこから自ら物資を運んでいるんだ」
「王都にあるんですか!?ルボーさんと初めて会った時はそんな事言っていなかったような。『俺はここいらを拠点にしてるただの商人だ』って」
「ありゃ、そうだっけか。でも実際ここ2年ほどは本部には帰ってねえな」
「はい。会長は本部に帰りたがらないんです。本部から通達が来ても」
「それって会長としていいんですか?」
「本当はダメな事なんですけど・・」
「いいじゃないか。本部にだって従業員がいるんだから」
「こう言って帰らないんです」
「はあ。物凄い商魂が裏目に出ちゃってますね」
「はい」
「あんちゃん。もう買う物は決まったのか?」
「急に話を逸らしましたね。まあ一応は。小麦粉と卵と砂糖と牛乳ですね」
「これで何を作るんだ?」
「それは内緒ですよ。じゃあ会計お願いします」
「はい。全部合わせて5300Zrとなっておます」
「はい」
「丁度お預かりしますね。ありがとうございました」
「じゃあ俺はこれで」
「ああ、今後ともルボー商会をご贔屓にな」
「はい」
ルボー達に別れを告げ、レシーのいるギルド寮に戻った。レシーの部屋に鍵は掛かっておらず普通に入ることが出来た。レシーはどうやら寝ているようだ。
うん。寝てるな。なら心配はないか。もう少し寝ていてもらおう。ふふ、可愛い寝顔だ。おっといかん。理性を保つんだ。よしっ。早速作り始めよう。
ボウルと泡だて器を用意してっと。小麦粉と卵と砂糖と牛乳、全部混ぜる。これで簡単なホットケーキの生地が出来た。あっバターがない。あぁ、盲点だった。この世界にはバターとマーガリンといった物が存在しない。菜種油やラードのような動物性の油しかない。異世界らしいことの一つだ。ないなら作ってしまえばいいじゃないということでここで簡単バターの作り方。俺がまだ地球にいた頃乳搾り体験をしに行った時、従業員のお姉さんが言っていた作り方だ。まず用意していただくのが
良く冷えた牛乳 200ml
レモン汁 5ml
塩 3g
実際は生クリームの方が良いらしいが牛乳でも代用出来るとお姉さんが言っていた。レモンと塩は運よくレシーさんの家にあったので使わせて頂く事にした。それらを全て振りやすいコップなどに入れ、蓋をし勢いよく振る。ただひたすら振る。するとレモン汁の効果で牛乳が水分とその他乳成分などに分かれる。この水分のことをホエーと呼ぶらしい。そしてその他の部分がバターとなる部分だ。頃合いになったら水分を捨てる。これで簡単バターの完成だ。
焼くのはもう少し後にして、アイスに取り掛かろう。アイスは牛乳に砂糖を入れ、冷やしながらかき混ぜるだけでいい。とっても簡単だ。小学生の頃、これを毎年の自由研究でやっていたんだ。たまにアレンジを加えてフルーツシャーベットとかやってたな。懐かしい。冷やすのは魔法でやればすぐ出来る。魔法ってやっぱり便利だ。よし、固まってきた。
次にホットケーキを焼き始めようか。熱したフライパンにバターを溶かし、生地を流し込む。焼き目がついたらひっくり返す。
ひっくり返すと部屋の中に、バターの香ばしい香りと甘い匂いが充満した。
「ん、あっ。リュウさん、帰ってきてたんですか。すいません。寝てしまっていて」
「いいんですよ。もう少しで完成するところなのでグッドタイミングですよ」
「とてもいい香りがします。ありがとうございます。私の我儘を聞いてくださって」
「お礼なんていいですよ。当たり前のことですから。はい!完成しました」
「わあ、凄い!綺麗な形。しかも甘い香りが」
「ホットケーキのアイスクリーム添えです」
「食べてもいいですか!」
「ええ、どうぞ」
レシーはキラキラした目でホットケーキを見て、すぐさま食べ始めた。その姿はまるで無邪気な子供だ。一口食べた瞬間レシーの顔は驚きの表情となった。
「とってもおいしいです!この冷たいのがケーキと絡まってなんとも言えないニャ!あっ」
「ふふふ。レシーさんの素が見れて嬉しいです」
「うぅ。なるべく出さないって決めたのにぃ」
「いいじゃないですか。可愛かったですよ?『なんとも言えないニャ』」
「ば、馬鹿にしないでください~!」
「ははは。『なんとも言えないニャ』」
「うう、引っ掻きますよ!」
「どうぞ。やっちゃってください」
「ニャッ!?この変態!」
「ははは、冗談ですよ。冗談」
「うう」
「でもなんでそんなに嫌がるんです?」
「素が出ると人族の方に笑われちゃうんです。こっちに来たばかりはまだ素が出てて、人族の方に笑われて、別に皆さんが私を馬鹿にしているわけではないんですけど、なんか嫌なんです。ふふふ、説明が難しいや」
「そうゆうことですか」
「はい」
「俺はたまに素が見たいんですけどね」
「ええ!嫌ですよ」
「ははは。楽しみにしときます」
「絶対見せないようにしなきゃ!」
「ああ、そういえば、それ。付けててくれてるんですね」
レシーの左薬指に金色に光る指輪があった。
「貰ったんですから付けてますよ」
「でもなんで薬指?」
「うう、それは」
「まあいいですけどね。どこに付けても効果は同じなんですから」
(そういう訳でここに付けたわけじゃないのに)「本当にこれは何からにでも守ってくれるんですか?」
「ええ。俺みたいな変態からでもね。ははは」
(リュウさんなら・・)
「え?」
「ニャ!?ニャんでもないです!」
「また素が出てますよ~」
「あぁ!もう」
「あっ、アイス溶けてますよ」
「ああ!リュウさんが変な事言うから!」
「俺の所為かよ!」
レシーは残っていたホットケーキを急いで食べた。
「ああ、もう。口の周りにアイスが付いてますよ。ほらこれで拭いて」
「あっ、ありがとうございます。ふふ。なんかお母さんみたい」
「お母さんじゃないよ!仮にも男だよ!」
「でもお父さんはこんな事しないでしょ?」
「まあそうですけど」
「ふふふ。やっぱりお母さんだ」
「・・だいぶ顔色も良くなってきましたね」
「あっ、はい!元気になってきました」
「もう大丈夫そうですね。ならお暇させていただきます」
「もう行くんですか?」
「お見舞いに来て、その人が元気になったらいいでしょう?」
「まあそうですけど...。また来てくれますか?」
「ええ。もちろんですよ。今度はレシーさんが何か作ってくださいよ」
「ええ。楽しみにしててください!」
「はい。それじゃあ」
「また今度会いましょう」
リュウはレシーの部屋を出る。それを見ていたレシーの目は少しばかり悲しげだ。
面白かったり、誤字があればコメントください。またはアドバイスをしていただけると作者は大喜びします。




