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第十一章 混乱

マンションに攻め入ったパイオニア号クルー達は、異様なものを目にする。

デューカとの一騎打ちに傷ついたガイ、無数の「エンゼル」たちに襲われ悲鳴を上げるカメオとクリス。

一方、マリオンはショウに迎えられ、デューカの書斎へと足を踏み入れる。

第11章 混乱


 でゅーか、まりおんガキテイル。ムカエテヤリナサイ。でゅーか。

 ………。


 突如、静寂が訪れる。

 銃撃の応酬が止んだのは、ついに相手との距離が縮まったからだ。

 デューカは、ゆっくりと銃を持つ手を降ろし、壁から離れた。

 途端に銃声が鳴り響く。

 ズガンズガンズガン………。

 しかし、デューカは倒れなかった。放たれた銃弾は、デューカの体を綺麗に逸れて、全て天井をぶち抜いた。

 パラパラ、と細かく砕かれた木っ端が落ちてくる。

 「出てきなさい。ここでは銃は無意味だ」

 毅然とした調子でデューカが言った。

 未だ姿を現さない相手を少し待ち、やがて苦笑しながらデューカは銃を落とした。

 台所の床に落ちた銃は、くるくると軌道を描き、ココアのカップを持つショウの足元にまで滑ってくる。

 ゆっくりと、銃を構えたまま、ガイがシャワールームに続く脱衣場の角から現れた。口にはジャックナイフをくわえている。

 「マリオン」

 と、呼びかけてから、デューカは一瞬、頭痛を抑えるように眉をひそめた。

 銃を拾い上げ、まじまじとそれを見ていたショウが、愛らしい笑顔でデューカの側に歩み寄る。

 「…ショウ・シャン」

 少しの沈黙の後、デューカは低いがはっきりとした声で言いなおした。

 ショウの黒い瞳が凍り付き、唇が半分開かれた。

 「エレベーターまで行って、あの子を迎えてやりなさい。そして書斎に通してあげて。いい子だ」

 「お兄ちゃん」

 震える声でショウは呼びかけたが、ガイと対峙するデューカは背中を向けたまま、彼女を見ようともしなかった。

 「おにい、ちゃん――」

 「行きなさい」

 再度、デューカは言った。柔らかく穏やかな声だが、有無を言わさぬ厳しさが込められている。まるで命令のような。

 ショウはうなだれた。

 そして、ゆっくりと台所を横切り、銃を腰ベルトにさして、ジャックナイフを構えるガイの横を通って玄関に向かった。

 

 ショウ・シャンのにわか手術は、半ば失敗していた。

 マリオンの記憶は確かに移植されたのだが、ショウ・シャン自身の記憶が消去しきれずに残されていた。

 デューカがそれを見抜いていたのかどうかは分からないが――ショウは、唇をかみしめて考え続けている。

 はだしの足で玄関を出て、ぺたぺたとエレベーターに向かう。後ろ手にして、握りしめた銃を隠しながら。

 優しいお兄ちゃんの温もり(マリオン、おいでマリオン…)の記憶がある。

 ある幼い夏に出会った、不思議な王子様(お人形、直してあげる。大丈夫・・)への思いも燃え上がっている。

 デューカ。お兄ちゃん。デューカ。お兄ちゃん――。

 ショウが欲しいものはただ一つ。

 エレベーターの表示は、2F、3F、とゆっくりと移ろっていた。

 

 振り下ろされたナイフは銀色の光の軌跡を描き、貴公子の首筋に切りつけた。

 デューカは、紙一枚の差でそれをかわす。

 ガイの筋肉質な体はデューカの痩身をかすめ、テーブルに突っ込んだ。

 派手な音を立て、カップやポットを床に跳ね飛んだ。カシャン、と瀬戸物が割れて飛び散る。

 ゆっくりと、デューカは後ろに下がると、壁に飾り物のようにかけられていた細身のサーベルを取った。気品あふれる金の持ち手に、細かな細工が施された骨董である。古い宝石がちりばめらえた鞘を取ると、声を上げて切りかかってくるガイを受けるべく、デューカは優雅に構えた。

 ガチン、と、およそ優雅さとはかけ離れた音を立てて刃物同士がぶつかり合う。

 ガイの目の前に、端正なデューカの顔が迫っていた。汗一つかいていない、美しい顔だ。

 「君は12歳の時に妹を失った」

 綺麗な物語を朗読するように、デューカが言った。すべてを見通すような黒い瞳で。

 「だがマリオンは君のものではない。僕の――」

 うええい、と声をあげて、ガイは相手のサーベルをはねのけた。

 間合いを取り、身体を低くしながらガイは目を光らせた。流れ落ちる汗の間から敵を睨んでいる。

 「俺と貴様の何が違うかわかるか」

 低い声でガイは言った。

 「俺は妹を、自分のものだと思ったことはない」

 シュッ、と鋭い音を立ててデューカが切っ先をガイに向ける。微笑みが口元に刻まれていた。

 「僕たちの考えを理解できるほど、人類は賢くはない」

 「貴様も人類だろう」

 「僕たちはエンゼリア人だ。そしてマリオンは僕の妻だ。僕らは」

 唐突にデューカの姿が目の前から消える。目を見開いて動きを止めるガイは、一瞬後、背後に気配を感じて素早く振り向いた。

 サーベルを突き出す、美しくも冷酷な貴公子の姿が見えた。

 「僕らは、アダムとイブなんだ」

 ぐわあっ、と声を上げてガイは胸をおさえ、二、三歩退いた。そしてがくんと膝をつくと、ぎらつく瞳で相手を見上げながら、ゆっくりと床に体を横たえた。

 赤い血が、ゆるゆると広がり始めている。

 「デューカ、マリオンを連れてきたわ」

 ショウの声が玄関の方から聞こえ、デューカは素早くサーベルを鞘に納めた。

 倒れているガイに一瞥をくれてから、滑るような動きで歩き始める。


 非常階段では、わらわらと歩調をそろえて降りてくる、裸体のマリオンの大群を見て、カメオが蒼白になって動けずにいた。

 構えた銃を放つことなどできるはずがない。

 「カメオ」

 クリスが強く背中をどつくが、カメオは動かなかった。ごくん、と唾を飲み込む音がする。

 そうしているうちに裸体の娘たちは二人を囲むようにし、やがてクリスの体に白い手がいくつも触れた。

 いやあっと叫びながら、クリスはもがいた。何人もの手は針金のような強さでクリスの体にからみつき、動きを封じた。

 「カメオ助けてカメオっ」

 クリスの声に反応し、銃口を娘たちに向けるが、がくがくと震えて発砲できない。カメオは涙目でかぶりを振った。クリスが絶叫し、そして、一番間近な白い腕に、力を込めて噛みついた。

 「アァッ」

 細く悲しそうな声を立てて、娘の一人がのけぞり、傷ついた腕をかばいながら手すりから落ちた。

 「マリオンッ」

 カメオは叫んだが、次の瞬間には息を飲み、自分の思い込みが間違っていたことを知った。

 この娘たちはマリオンではない。なぜなら。

 「マリオンは浮いたりしないわよっ」

 ふわふわと宙を浮き、優雅に飛翔する裸を指さしてクリスが怒鳴った。

 「しっかりしてカメオ、こいつらはマリオンじゃないわっ」

 (ごめん!)

 目を閉じながら、カメオは発砲した。何人かの体に銃は当たったらしい。

 「危ないじゃないのっ」

 クリスが悲鳴をあげた。しかし、からまっていた白い手がほどけたので、体は自由になる。

 「イタイ、イタイワ」

 「イタイワ、かめお、イタイ…」

 細い声で、一本調子に訴え続ける娘たちを狙い、クリスは回し蹴りを放つ。ああっ、と、胸が引き裂かれそうな悲痛な声をあげて美しい裸体は手すりを乗り越え、そして宙にふわりと舞った。

 「なんだ、なんだこれ…なんだよ」

 カメオは、ぶるぶると震えながら、飛行する大量のマリオンたちを見上げている。

 クリスは恋人の腕をつかむと、怒鳴りつけた。

 「何してんのよ、どこでもいいから建物の中に入るのっ」

 「はっ」

 我に返ったらしいカメオは、するすると伸びてくる無数の美しい腕からすんでのところで逃れた。そして、クリスの手をつかむと走り始める。

 3Fのドアが一番近い。

 二人は白い体たちに追われながら、3Fの非常ドアを開けて中に飛び込み、力づくでドアを閉めた。

 何人かの指をはさんだらしく、いやな音がしたが、カメオは目を閉じて耐えた。

 イタイ、イタイワ。アケテ、アケテチョウダイ。

 「誰があけるもんかっ」

 素早く腕を伸ばして、クリスがドアの錠をかけた。

 二人は息を切らしながら、長く伸びる3Fの廊下を見た。

 いくつも部屋が並んでいる。住人はいないはずだ。

 どくんどくん。どくんどくん。どくん…。

 激しい鼓動をこらえながら、カメオは唾を飲み下した。そして、じっと自分を見上げているクリスのつぶらな瞳を見つめた。

 「どこかの部屋に逃げ込もう」

 カメオの提案に、クリスはハア、と素っ頓狂な声を立てた。カメオは一生懸命に言った。

 「君はこの作戦に入っていない。だからどこかの部屋に隠れていて。俺はエレベーターで4Fに向かう」

 「何言ってんのよ」

 クリスは叫んだが、カメオの力は意外に強く、捉えられた腕は離れなかった。ぐいぐいと引きずられてゆき、301号室の玄関前まで連れられて行った。

 一応、施錠されているかどうか確認して、やはりドアが開かないことを知ると、カメオは銃でセンサー部を打ち抜いた。

 かたん、とあっけなく扉は開く。

 薄暗い部屋の中にクリスを引きずり入れると、カメオは溜息をついた。

 「ここにいるんだ」

 言いおいて、クリスの手を放して背を向ける。

 しかし、部屋の中の異様な様子に気づいて、カメオはその場で卒倒しそうになった。

 「バカぁ、何やってんの」

 クリスもまた、恐怖で凍り付きそうな声で叫んでいる。ぐらっと倒れかけたカメオを支えると、歯をかちかち鳴らしながら部屋の中を見回した。

 ひしめいている。

 円筒型のガラスが、無数に。そしてその中にはみっちりと詰め込まれた液体と、裸体の少女たちがうつろな瞳でまっすぐに立っている。

 「な…」

 なんだこれなんだこれなんだこれなんだこれ――。

 パニックになったカメオは、クリスの手をするりと抜けて床に尻もちをついた。

 ぷるる…ん。

 また、奇妙な目まいが二人を襲う。そして、円筒型の入れ物に詰められた少女たちの姿は、一斉にマリオン・ホワイトのそれに変化する。

 ぎょろっ。

 そんな音がしそうな勢いで、一斉にマリオンたちの目が動いた。

 うつろに開いていただけのガラスのような瞳が、動いた。

 「あ、あ、あ」

 バン――バン、バン。

 手のひらをガラスに当てて、マリオンたちが自分を閉じ込めている容器を内側から叩き始めた。

 「逃げるのよっ」

 クリスがカメオの襟をつかんで、引きずって玄関に走る。

 二人の背後から、ガチャンガチャンとガラスが破壊される音が響いてきた。


 茶で統一された落ち着いた書斎。

 銃を構えたマリオンは、白いリネンをまとった素足のショウ・シャンに導かれてその部屋にたどり着いた。

 「ショウ…」

 背後から声をかけるが、ショウは振り向かない。

 そして書斎は無人だった。本棚がぱっくりと左右に分かれ、小さな暗い入口が姿を見せている。

 マリオンはゆっくりと部屋の中を見回した。

 たくさんの書物。

 使い込まれた書き物机と、居心地のよさそうな椅子。

 書棚にはクラシカルなステレオがある。

 ふいに、人影がぼんやりと現われた。

 身構えるマリオンの前で、それは次第にくっきりと姿を見せ始め、やがてレイ・ホワイトの姿となった。

 「おとうさま」

 震える声でマリオンが言うと、レイはにこやかに微笑んだ。滑るような動きで書棚のステレオに触れる。

 モーツァルトの繊細な音楽が流れ始めた。

 アクアマリンの目を凍り付かせるマリオンに、レイは頷いてみせ、鷹揚な調子で言う。

 「そうだ。わたしは実体をもつことも可能なのだ」

 そしてレイは優雅な動きで片手を開くと、小さな暗い入口に向け、二人を招いた。

 「行きたまえ。デューカが待っている。この、エンゼリアの――王座で」

 次第にテンポを早める優美な音楽の中で、奇妙に単調な声でショウが言った。

 「行こうマリオン。デューカはこの先よ」

 青ざめた無表情のショウを見つめ、マリオンは戸惑ったように眉をひそめた。

 銃を持つ手が揺れる。

 「ショウ、あなた――」

 「大丈夫。行こう」

 それだけ言うと、ショウはくるりと前を向き、自らその暗い入口に足を踏み込ませていった。

 慌ててその後を追うマリオンを見送ると、レイ・ホワイトはニイと笑みを浮かべ、そして、部屋から姿を消した。

☆勝手にPR☆

ショウ:ところで、小説を読んでもらうために広告させてくれるサイトがあるんだってね

マリオン:凄いじゃない。早速利用しなきゃ。どんなふうにアピールしようかしら

ショウ:ええと、かしこまらずに読んでほしいから「デザート感覚でお読みください」ってのはどう

マリオン:んー。胃がもたれそうなデザートだわね

ショウ:じゃあ、「リッチなフルコースを堪能できるような作品」てのは

マリオン:リッチの意味を知らない人になら通用するかもね

ショウ:ええー、むつかしいね

マリオン:ねー

☆宣伝って難しいですねぇ。

お好みに合うようでしたら、簡単な読後感想などいただけたら感謝感激でございます。…と、言いたいところですが、読んでいただいているだけで、もう十分でございます。本当にみなさんありがとうございます☆

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