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第九章 戦いの前

家族のある者は三時間以内にコロニー部へ入れ。

ガイの下した命令に、パイオニア号艦内は騒然とする。

一方エンゼリアでは、ショウが再度、マリオンの記憶を移植されようとしていた。

第9章 戦いの前


 「護衛部とコロニー部を切り離す」

 ガイの決断は素早かった。

 誰かが異を唱える隙を与えず、クルー達に指示が下される。

 「コロニー部に家族を持つクルーは、3時間以内に護衛部から出てください。コロニー部に家族を持つクルーは、3時間以内に……」

 女性アナウンスが繰り返した。

 娘が二人に息子が一人いるメアリは、きょとんと立ち止まり、アナウンスに聞き耳を立てる。廊下ではクルー達がざわめいていた。誰もが戸惑いを隠せずにいた。

 共同トイレから泣きはらした顔でクリスが出てくる。

 ふくよかな体を揺さぶりながらメアリはクリスに歩み寄ると、がしっと腕をつかんだ。

 「聞いた、あんた」

 ぼんやりとしているクリスを叱咤するようにメアリは言う。

 「確か弟がいたわよね。急がなきゃだめよ」

 「…エ」

 視点が定まらない、憔悴しきった目でクリスはメアリを眺める。いらいらとメアリは叫んだ。

 「パイオニア号がエンゼリアに引き寄せられてるらしいわ。ブラックホールに吸い込まれるみたいに。船長は、こことコロニー部を切り離すつもりよ。護衛部だけエンゼリアに入るつもりなのよ」

 ゆっくりとクリスの表情が変わる。青ざめた頬に、急に血の気がのぼりはじめた。

 「メアリはどうするの」

 「決まってるわよ。すぐに荷物をまとめてコロニー部へ入るわ」

 伝えたからね、いいわね、と念押しするように言ってから、メアリはせかせかと踵を返した。

 「エンゼリアに入ったら戦闘になるかもね、早くするのよクリス」

 メアリの丸々とした背中が角を曲がってゆくのを、クリスは茫然と見送った。

 (……ダズ)

 二つ年下の弟――コロニー部の書店で働いている――の顔を思い浮かべたが、クリスはぐっとこらえた。

 女性アナウンスは、延々と同じ内容を繰り返している。

 護衛部の通路は、急にバタバタと忙しくなった。荷物をまとめたクルー達が、コロニー部に続く扉に殺到しようとしていた。


 ショウ・シャンは、固いベッドの上に横たわった。

 目の上には丸い照明が白く照っている。

 白いリネン一枚の姿で、ショウは穏やかだった。無言で目を閉じると、優しく優雅な指がそっと頬に触れ、流れるような動きで、固く編んだおさげを撫でる。

 「にわか手術になる。以前のように時間をかけられない。したがって」

 デューカの吐息を耳元に感じて、ショウは少し体をくねらせた。くすぐったい。

 冷たい指が、おさげのゴムを外した。ふわっとウェーブがついた黒髪が顔を包む。

 「……君に予想もしない何かが起こるかもしれない」

 滑るように、ほどいた黒髪をほぐし、形を整え、そっとあごのラインへ指を這わせる。んふぅ、とショウが微笑む。

 「だけど、これで君はマリオンになれる。やっと僕のものに」

 唇に指を触れさせる。ラインに沿って指を動かし唇をなぞる。そのまま、そばかすがバラ色に染まった頬へ。

 ショウは目を開く。

 すぐ上に、デューカ・ホワイトの端正な顔がある。

 二人は黒い瞳を見つめあい、ショウはそっと目を伏せた。

 「まず、君に、投与する」

 片手に薬液が充填された注射器を構え、愛の言葉をささやくようにデューカは言った。

 「少しの間、君は記憶の海を漂う」

 はぁ、とショウが吐息を噴き上げ、デューカは指を耳たぶ、そして首筋に這わせた。

 ぴたりと指を定め、注射器を近づける。迷いのない動きで。

 首筋に針が突き立った瞬間、少女はカッと目を開けたが、すぐにがくんと白目を剥き、首を横に垂れた。

 針を引き抜くと、デューカはしなやかな手で開かれた白目を、そっと閉じてやる。

 緑と黄、赤の細いラインがつながった吸盤のようなものをショウの小さな額につける。

 そして、メイン機材のチャンネルを回した。

 デューカは壁の時計を見る。金の縁取りの瀟洒な時計を。

 扉を開き、実験室に隣接する自室に入る。茶で統一された落ち着いた書斎は、締め切られたカーテンから外光が太い帯状になり差し込んでいた。

 書棚のステレオをONにする。

 音楽がかかる。旧世紀の古い美しい音楽。チャイコフスキーが重々しく流れ始めた。

 デスクの前に来ると、椅子に腰かけ、目を閉じる。

 足を組み、頬杖をつき、くつろいだ姿で、デューカはチャイコフスキーに聞き入った。

 レコードが終わる頃には、マリオンが誕生する。彼だけのマリオンが、また戻ってくる、はずだ――。


 パイオニア号、広間。

 「わたしは残るわよ」

 大きな胸を威圧的に揺らしながら、パイがきっと睨んだ。

 ガイは深く溜息をついた。そして、ぐっと目に力を入れてパイの強情な顔を見つめる。

 「足の悪い姉さんがいるんだろう、君はだめだ」

 「冗談じゃないわ」

 ヒステリックに叫び、アズのPCデスクを力任せに叩いた。

 ガチャン、と音を立てて、精密機材が宙に浮く。

 アズが慌ててデスクを動かし、二人から離した。

 「痴話げんかは生還してからやってくれ」

 ここじゃない場所でな、と付け加えながら、アズは二人から目をそらした。

 サラ、リーリンの二人が青ざめた表情で立ち尽くしている。二人とも、コロニーに家族を持っているのだ。

 「船長、あと30分ですよ~」

 メインモニター室から顔を出すなり、気が抜けそうな、のんきな声でチャックが言った。

 うん、と頷きながらガイは大股でメインモニター室に入ってゆく。すれ違いざま、じろっとアズを見た。視線を受けて、アズは大息を着いたが、仕方なさそうに頷いて目を閉じた。

 チャックが妙にはしゃいだ調子で、隅っこに立ち尽くしている二人の女の子に言っている。

 「早く行きなって。それとも何、俺と付き合う?俺、大歓迎」

 苦笑し、半べそをかきながら広間から出てゆくサラとリーリンを見送りながら、取り残されたパイは腕を組んで仁王立ちになっていた。

 アズはゆっくりとパイに近づくと、肩に手をかけた。

 「まあ、俺の話を聞いてくれや」

 けげんそうにパイが振り向いた。

 その腕を取り、歩きながらアズは話し続ける。

 「ちょっと来てくれないか。話があるんだ――」


 青く輝く惑星が目の前に迫っている。

 チャックの背後に近づくと、ガイはディスプレイ表示を切り替えるよう指示した。

 画面が切り替わり、惑星の周囲に張り巡らされた、目に見えない強烈なバリアーが赤い線画として表示される。

 「ほら、ここです」

 チャックが煙草のヤニで黄色くなった人差し指を指した。

 赤いバリアーの一部が、丸く切り取られたように開いている。その部分のみ、バリアーが働いていないということだ。

 ガイは眉を寄せ、唇をかみしめた。

 「ここに向かって、吸い寄せられているんです。俺たち」

 「ご招待されたってわけだ」

 低く、ガイは言った。

 「チャック、残る連中に、銃の支度をしておけと伝えろ。銃撃戦になるかもしれん」

 「コロニー部と切り離してからでいいっすよね」

 まるで、宴会の幹事を引き受けるような気楽さでチャックが確認した。

 ガイは腕の時計を見る。

 あと、15分を切っていた。


 「話ってなによ」

 既に、コロニー部への駆け込みラッシュが収まり、しいんと静まり返った通路をえんえんと歩かされて、苛立ってきたパイはきつい声で問い詰めた。

 アズは無言で歩き続け、やがてぴたりと止まる。そして、とぼけた表情で振り向き、にいと笑った。

 拍子抜けしているパイに向け、器用な手つきで胸ポケットを探り、几帳面に小さく折りたたんだハットを取り出した。手品師のような素早さでそれを広げる。作業しながらアズは言った。

 「まあ、聞きな。ガイが孤児ってのは知ってるだろう。施設育ちなんだ、あいつ」

 ハァ、とパイが言い返した。

 アズはちらっと相手の反応を確かめながら、さっとハットを逆さにした。おどけた手つきでハットの中を探る。

 「それでさ、家族は大事にするもんだって、強迫観念みたいに思ってるわけよ」

 パイの目がだんだん険しくなってきた。

 「わたしは残るからね、何を言っても無駄――」

 「見ろ!」

 ぱっと取り出した手には、ゴールデンハムスターが乗っている。可愛らしい、よく手入れされたペットだ。

 そのネズミを差し出し、パイの手に乗せると歯をむき出してった。道化のように。

 マァ、と一瞬我を忘れてネズミに見入った隙を見逃さず、アズは背中の扉を開いた。そして、細い足を突き出してたくましいパイをよろけさせ、素早く体を入れ替えて、相手を扉の向こうへ送りこんでいた。

 階段を転げ落ちないように手を握ってやりながら、アズはニタとする。

 「ポチっていうんだ。好物はひまわりの種。俺の家族だ」

 「アズ――」

 ぱっと指を放し、閉まる扉から体をそらしながら、アズは怒鳴った。

 「素直に言うこと聞いとけって。嫌われるぜ」

 パイが何か怒鳴っていたが、聞き取れないまま扉は閉まった。

 (俺は何でも屋か)

 ムカムカとアズは腕時計を確認する。5分前だ。何という強情な、面倒くさい女――。

 それでもアズは手早く壁のボタンを探ると、艦内放送をかけた。延々と繰り返されていた女性アナウンスの代わりに、アズの不愛想な声が響き渡る。

 「五分前だ。家族のいる奴は全員コロニー部に入ったな。五分後に、問答無用で切り離すぞ。いいな、五分後だ」

 

 いいな、五分後だ、それ以降の移動は許さん。

 寝不足の苛立ちをぶつけるような勢いで、イライラと繰り返すアズの声が護衛部じゅうに響いていた。

 その声を聞きながら、マリオンはベッドに腰掛け、ぼんやりと視線をさ迷わせている。

 カメオはマリオンから少し離れ、途方にくれた顔で立ち尽くしていた。

 「カメオ、あなた家族は」

 やっとマリオンが口をきいた。

 カメオは大きく息を吐くと、ぎこちなく笑って見せる。

 「僕には誰もいないよ…」

 ふいに、マリオンのアクアマリンの瞳がとがった。表情を凍り付かせ、カメオの背後を見つめている。

 相手の異変に気付かず、微かにどもりながらカメオは続けた。

 「僕が君を、守るから…」

 ざざ。ざざざ。ざざ。

 ぎし、と音を立ててベッドから立ち上がると、マリオンはそれを睨んだ。

 やっと気が付いたカメオが背後を振り向き、仰天して目をむき出した。

 いつの間にかそこに、レイ・ホワイトの映像(ざざ。ざざざ)が現われていた。微笑みを口元に刻み、ゆっくりと手を広げている。

 「な、これは、な、な」

 腰を抜かしかけたカメオを押しのけ、マリオンは父親の姿と対峙した。

 レイは目を細めて娘の姿を愛でるようにする。

 「デューカは、くだらない玩具に夢中になっている」

 マリオンの体を迎え入れるように両手を広げて、レイは言った。

 「いけない兄だ。正真正銘、本物のマリオンを与え、偽物を取り上げなくてはならない。そうじゃないかね」

 「ショウのことね」

 はっとしてマリオンは身を乗り出した。

 「ショウをどうしたの、あの子を」

 「待っている、マリオン」

 一方的に言うと、レイは唐突に姿を消した。

 冷たい汗が首筋に流れる。マリオンは目を見開いた。

 くるりと体の向きを変えたマリオンに、おずおずとカメオが言う。

 「マリオン、どこへ」

 「メインモニタールームへ」

 「僕も行くよ」

 慌ててカメオが追いかけてくる。

 その時、大きな衝撃が走り、二人は一斉によろけた。

 

 がく、ん………。


 壁に手をつきながらマリオンは表情を険しくする。

 コロニー部、切り離されました。

 女性アナウンスが艦内に響いた。

 

 マッテイル。まりおん、マッテイル………。


 今、コロニー部と切り離されたパイオニア号は、次第に速度を増してエンゼリアに吸い寄せられてゆく。

 メインモニタールームではガイが、近づいてくる青い惑星を、じっと睨んでいた。

 「1時間後に大気圏突入ですぜ」

 チャックが言い、ちらちらと周囲を見てからポケットからガムを取り出して、銀紙をむいて口の中に放り込んだ。

勝手にパロディ3:誰でも知っている

メアリ:わたしには家族がいるのよ、だから急いでコロニー部に行くわ

クリス:たくさん子供がいたのよね、ええと

メアリ:六人よ

クリス:…え?

メアリ:おそ松一松チョロ松カラ松ええと、あとは

クリス:(ぼそり)トド松と十四松でしょ…

メアリ:よく知ってるのねぇ

クリス:そりゃあまあ……

☆おわり☆

「おそ松さん」プリントロールケーキが欲しい。

もうクリスマスですなあ。ほふう(溜息)。

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