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神は我が光【9】

最終章最終話。










 驚きの声をあげたエレアノーラに、国王が不思議そうにする。

「レグルスにはそう聞いていたが、聞いていないのか?」

「聞いてません!」

 エレアノーラは即座に否定する。彼女に最近あった結婚話は、先ごろ国外追放された元オグレイディ侯爵が相手のものだけだ。

「いや、正直言わせてもらうと、お前たち、婚約者とか恋人とか通り越してすでに夫婦みたいだけどな……」

「……」

 エレアノーラはレグルスを見上げた。彼は片手で目元を覆っているので、表情がわからなかった。しかし、もう片方の手はエレアノーラを抱き寄せている。なにこれ、どういう状況。

「……引継ぎもいるが、お前たち、一度よく話し合え」

 国王はそう言うと、ひらひらと手を振って研究室を出て行った。エレアノーラとレグルスだけが残される。戸惑ったエレアノーラはとりあえず口を開く。

「ひ、引継ぎ……」

「いえ、まあ、それも重要なのだけど……黙っていて悪かったわ。土台がなかったから、土台を固めてからと思ったのだけど」

「それ、外堀埋めてるだけじゃん……」

 エレアノーラがツッコミを入れたところで一度休憩。資料や謎の部品が散乱しているソファを簡単に片づけ、向き合って座った。


「外堀埋めてるも何も、『大好き』って言ってくれたじゃない」


 レグルスに指摘され、エレアノーラは魔法が戻った時に大好き、と言って抱き着いたのを思い出した。思わず赤面する。

「いや、だって……うれしくて」

 レグルスとしては言質をとった、と言うことなのだろうか。いやいや、でもやっぱりおかしい。

「エリー、オネエは嫌かしら」

「レグルス様ならいいけど……いやっ、でもそう言うことじゃないでしょ!」

 エレアノーラは一度、レグルスへの思いに蓋をした。蓋をしたから、もう一度開けられたときの思いのあふれ方が大きい。

 エレアノーラは勢いのまま言った。


「レグルス様、同性愛者じゃないの!?」

「その質問二回目!」


 二回した覚えはないのだが、何故かそうツッコミが入った。だが、そこまで気にしている余裕はない。

「別にオネエだからと言って、男が好きなわけではないわ。どちらかと言うと、女の子の方が好きね」

「……」

 確かに、レグルスはオネエであると公言していたが、同性愛者だと聞いたことはなかったかもしれない。

 向かい側のソファに座っていたレグルスは、立ち上がってエレアノーラの側に膝をついた。彼女の手を捕らえる。


「あなたがオグレイディ侯爵と結婚させられると聞いた時、ショックだったわ。あなたが私の側からいなくなると言うことが想像できなかった。あなたは、いつでも私の隣にいるものだと錯覚していたわ。当たり前だけど、そうではないのよね」


 オネエ言葉で紡がれる言葉は結構熱烈だった。エレアノーラは、自分で自分の顔が赤くなっているのがわかる気がした。

「もう、あなたが隣にいないことなんて考えられないの。だまし討ちのようで申し訳なくも思うけど、あなたは私を大好きだと言ってくれたわ。うぬぼれてもいいのかしら」

「えっと、私……」

 どうしよう。相手がオネエ言葉なのに、こんなに動揺するとは。心臓が苦しい。


「もっとストレートに言った方がいい? エレアノーラ・ナイトレイ。どうか、私と結婚してほしい」


 思わぬ正統派な告白をされ、とられた手の指にキスされた。エレアノーラはその場で硬直する。どう反応すればいいのだろう。ただうなずけばいいのだろうか。

 紫がかったグレーの瞳がまっすぐにエレアノーラを見つめている。彼女はギュッと目をつむり、そしてソファから滑り降りると、いつかと同じようにレグルスに抱き着いた。ついでに、彼の頬にキスをした。

「……これで、答えになる?」

 レグルスの耳元でささやくと、力強く抱きしめ返された。

「ええ。ありがとう」

 相手の守備範囲には入っていないものだと思って勝手にあきらめた恋心。その人の気持ちが自分に向けられていると知って、うれしくないはずがないだろう。否定の言葉をつむげるはずがないだろう。

 うれしさをかみしめているエレアノーラにレグルスが口づける。唇をなめられ、はむようにキスされる。

 さすがに遅い、とエヴァンが研究所に突撃訪問をかけてきたとき、エレアノーラは腰が砕けて立ち上がれなくなっていた。


「ねえ局長。僕、一度あなたを殴っても許される気がするんだよね!」


 そう言って、エヴァンは王弟殿下を本当に殴った。
















 春になり、配置換えが行われた。レグルスが正式に宰相となり、代わりにエレアノーラが特務局長となる。空いた副局長にはエヴァンが任じられた。

 一応、引継ぎなどはつつがなく終わり、始動した新生特務局も問題なく仕事が回っている。むしろ、よく逃亡するレグルスではなく、基本的にまじめで姿をくらまさないエレアノーラが最高決定者になり、全体的な処理が早く終わるようになった。

 さらに、王弟レグルスとカルヴァート公爵令嬢エレアノーラの結婚式が催されることになっていた。時期は初夏であるが、二人とも宰相と特務局長と忙しい身であり、ほぼ代理人に丸投げ状態だ。


 ちなみに、二人が結婚すると言う情報が宮殿を駆け巡った時、人々の感想としては「やっとか!」が一番多かったらしい。みんな、レグルスとエレアノーラがくっつくと考えていたのか? 別に恋人同士とかでもなかった気がするのだが、解せぬ。

 一応、エレアノーラの両親であるカルヴァート公爵夫妻にも連絡は入れたのだが、思ったよりあっさりと許可してくれた。別に絶縁しているわけではないので、エレアノーラの身分はいまだにカルヴァート公爵家に依存している。なので、侯爵の許しがなければ結婚できないのだ。まあ、相手が王弟であると言うことが効いたのだろうと思っている。


 そして、結婚後、レグルスには公爵位が与えられる予定だった。断絶して王領に組み込まれているマリオット公爵領が与えられると聞いた。事実かは、わからないけど。

 そして、バタバタしながら結婚式当日を迎えたエレアノーラは純白のドレスに身を包んでいた。着飾った彼女の隣でうなずいているのはミラナ王妃である。

「うん。よく似合ってるわ。本当に妹になるのね。うれしい」

 そう言うミラナは、本当にうれしそうだった。エレアノーラはぺこっと頭を下げる。

「ミラナ様、よろしくお願いします」

「あら、お姉様と呼んでちょうだい。一度、お姉様って呼ばれてみたかったのよね~」

「……」


 エレアノーラは思った。彼女と国王は、確かに夫婦だと。言っていることが同じだ。


「エレアノーラ様!」

 控室に現れた次なる闖入者は、何とレドヴィナ人だった。

「ラトカ様」

 金茶色の髪をなびかせて嬉しそうにやってきたのは、レドヴィナで知り合った少女だった。両手いっぱいの花束を抱えている様子はどこかかわいらしい。ラトカが差し出した花束を受け取る。

「エレアノーラ様、おめでとうございます」

 ラトカがほわっと笑って言った。続いておきれいですね、いつもですけど、と言われて、エレアノーラははにかんだ。

「あら、可愛いわね」

 ミラナのその言葉は誰に向けられたものなのだろうか。

「ミラナ様……お姉様。レドヴィナ女王の妹さんで、ラトカ・ヴァツィーク様です。ラトカ様。こちら、ログレス王妃のミラナ様」

 エレアノーラが簡単に互いを紹介する。他国の王妃を前にしても落ち着いているラトカは、さすがに女王の妹で、大公の妹だ。大公と言えば。

「もしかして、ご両親もいらっしゃってる?」

 前フィアラ大公夫妻のことだ。ラトカが「はい」とうなずく。招待状は女王とラトカに送ったと思ったのだが、ラトカの両親は女王名代だろうか。

「ガーランド石群せきぐんには行くの?」

「はい。その予定です」

「そうなの。よかったわね」

 ラトカはログレスの遺跡群であるガーランド石群に行きたがっていた。まあ、両親が来ているのなら行くのだろうと思ったが、本当に行くらしい。

 そろそろ式が始まると言うことで、ラトカとミラナが退出していく。だが、その前にミラナが振り返って尋ねた。


「エリー。あなたは今幸せ?」


 エレアノーラは少し考えて、小さくうなずいた。ミラナは微笑んで「ならよかったわ」とうなずいた。
















 エレアノーラは局長室にある自分の机の上をひっくり返していた。

「エリー、何してんの?」

「いや、資料がなくて」

 副局長のエヴァンに尋ねられ、エレアノーラはそう答えた。彼は無情に彼女の机に追加の書類を置き、言った。

「整理しないからだよ。エリー、宰相に似てきたよね」

「いや、一緒にしないでよ」

「仕方ないんじゃない。夫婦は似てくるっていうもんね」

「人の話聞いてる?」

 エレアノーラはそう言いながら机の下に潜り込む。足元にも使用頻度の低い資料が詰まった箱が置かれているのだ。


「きょくちょーう!」


 カレンの間延びした声が聞こえ、エレアノーラは「はぁい!」と返事をしながら立ち上がろうとした。がん、と机に頭をぶつける。

「い、いったっ」

 頭をさすりながら机の下からはい出る。エヴァンが「すごい音がしたね」と笑っている。

「局長~。サインください、サイン! この決裁、今日まで~」

「いや、今日まで~、じゃないから!」

 そう言いながらエレアノーラは机の上の書類をの菓子、カレンが持ってきた決裁にサインした。それをつきかえす。

「これと、そこの箱、財務省に持って行って!」

「了解です!」

「あ、カレン、ちょっと待って。僕も持って行ってほしいものがあるんだよね」

 エヴァンがさらに資料を追加する。カレンが半泣きである。だが、エレアノーラも半泣きだ。なぜなら打ち付けた頭が痛いから。


「エレアノーラ様!」


 特務局の執務室の扉ががんがんたたかれる。局長室まで結構距離があるのに、はっきりと聞こえた。


「ルーシャン! ドア開けて!」


 局長室から出ながら、エレアノーラは一番入口の近くにいたルーシャンに向かって叫んだ。

 入ってきたのは内務省の官吏だった。若いその官吏はエレアノーラを見て尋ねる。

「宰相閣下を知りませんか!?」

「……」

 エレアノーラは沈黙し、それから叫んだ。


「なんでみんな、私に聞くの!?」


 それはエレアノーラが王弟であり宰相であるレグルスの嫁だからである。













ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


どうしても最後にオチを入れないと気が済まない人です。すみません。

最終話、とか言いつつ、番外編も更新します。コメディ調+私ができる最大限の甘さでお送りいたします。


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