表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/49

神は我が光【8】











 宮殿に戻ってきたエレアノーラは、魔法研究所の修練施設を借りて一連の魔法を使用してみたが、全て問題なく使えた。テンションの上がったエレアノーラは、そばで見守っていたレグルスに駆け寄る。


「大丈夫! 戻った!」

「そのようね。よかったわ」


 興奮するエレアノーラの頭を撫でレグルスはうなずいた。何となく一緒についてきたカレンも「よくわかんないけど、よかった~!」とエレアノーラと同じテンションではしゃいでいる。


「でも、どうしてまた使えるようになったんだろ」


 エレアノーラが答えを求めてレグルスを見上げたが、レグルスははぐらかすように笑うだけだ。なんとなくカレンと目を見合わせ……カレンが「あ!」と声をあげた。

「どうしよう、エヴァンに仕事を頼まれていたのでした!」

「いや、でも、それレグルス様のせいだから」

 エレアノーラがツッコミを入れる。資料を取りに来ていたカレンをレグルスが連行したから、仕事が滞っているのだ。

「急ぎだったら、たぶん、エヴァンのテレパシーが飛んでくるわよ」

 レグルスが冷静にツッコミを入れた。確かにその通りだ。エヴァンは私用で魔法を多用する人間ではないが、本当に急ぎの要件であれば手段を選ばないだろう。

「で、でも、とりあえず戻ります! 局長も副局長もいないから、エヴァン荒れてるんですよ~」

 カレンがバタバタと手を動かして言った。「じゃあこれで!」と頭を下げ、彼女はばたばたと走っていく。

 それを見送ったエレアノーラは、ちらっとレグルスを見上げた。


「……それで、どうしてまた魔法が使えるようになったの?」


 自分のことなのに、自分ではよくわからない。なので聞いてみたのだが、レグルスは笑うだけで何も答えなかった。


 しばらくたってから、このことについてもう一度聞いてみたことがある。エレアノーラの場合、父親に対する恐怖が彼女の強力な魔法力を封じていた。つまり、自己暗示と言うことだ。これがとても厄介なのである。

 だが、簡単な話でもある。エレアノーラの恐怖心を取り除くことができれば、また魔法が使えるようになるのだから。


 そのために、レグルスとカルヴァート公爵の面談であったらしい。


 あの時、レグルスは宣言した。自分は何があってもエレアノーラの味方であると。世界のすべてが敵にまわっても、ただ一人でも自分の味方でいてくれる人がいる。そう思うと、気が楽になるのは確かだ。

 カルヴァート公爵家という閉じた世界で、エレアノーラは確かに誰も味方がいなかった。父親に逆らえば、身の危険を感じた。だが、彼女の世界はそんなせまくない。一歩外に出れば、レグルスやエヴァンやカレンたちがいる。必ず助けてくれる人たちがいる。それを再認識したことで、再び魔法が使えるようになったのだろう。レグルスはそう言った。


「でもまあ、私の勘だから、外れる可能性もあったけど」

「……」


 レグルスはそう付け足し、エレアノーラも沈黙したが、魔法医学を専門とするカレンによると、レグルスの行動は理にかなっているらしい。

「副局長が魔法を使えなくなったのは、確かに恐怖心ゆえだと思います。でも、そこに至るまでに副局長自身が心を閉じちゃったわけですねぇ。それを、局長がまた開いたわけですから、局長の行動は正しいわけです」

 というのがカレンの主張だった。恐怖心云々の前に、エレアノーラが心を閉ざしたのが原因だったと、そう言うことだ。


 まあ、いろいろあったが、年を越える前にエレアノーラが送検したオグレイディ侯爵の件は有罪判決を受けた。爵位・財産剥奪の上国外追放されるらしい。侯爵位は彼の息子が継ぐのだそうだ。

 ついでに、カルヴァート公爵家の財政状況もわかった。エレアノーラの父は領地経営が驚くほど下手だった。もともと、カルヴァート公爵領は肥沃な土地であるのに、それを有効活用できていない。それと、母と妹の散財も家計が厳しくなった原因のようだ。エレアノーラは彼らを見捨てられない自分に呆れつつ、祖父が公爵だった時代に領地を経営していた人間に領地を任せることにした。もちろん、父公爵の許可が必要であるが、権力を使うと言うことを覚えたエレアノーラは国王に一筆書いてもらい、さらに使っていなかった自分の給金を押し付け、返品・苦情は聞かないとした。初めは国に領地を取り上げてもらうことを考えたので、それに比べれば穏やかな解決方法である。


 年が明けるころには、エレアノーラも特務局に復帰して、一時期よりは安定的に仕事が回るようになっていた。が、別の問題も生じてきていた。


「エレアノーラ嬢! レグルスを知らないか!?」


 突然、特務局に乗り込んできたのは国王だ。最近、エレアノーラは国王ジェイラスにレグルスの所在を聞かれることが多い。

「レグルス様ですか? さっき、陛下に会いに行くと言って出て行きましたけど」

「来ていないが!?」

「じゃあ、研究室ですね。っていうか、なんでみんな私に聞くんですか……」

 別にエレアノーラだってレグルスがどこに行ったかなどいちいち把握しているわけではない。最近のエレアノーラは、レグルスの仕事の引継ぎで忙しい。なのに、そんなことを聞かれても困るのだ。

 問い返すと、国王に不思議そうな目で見られた。何なのだろうか……。

「エヴァン、ちょっとお願い。レグルス様引きずり出してくる」

「早く帰ってきてね。それと、エリー。君はそろそろ、局長が確信犯だと気付いた方がいいよ」

「確信犯? どういうこと?」

「……うん。忠告はしたからね」


 そう言ってエヴァンに送り出される。とりあえず、国王と一緒にレグルスの研究所に乗り込んだ。


「レグルス様~。陛下が探してるんですけど!」

「ちょっと待って! いま手が離せないから!」

 勝手に研究室の扉を開けて中に入ると、奥の方からそんな声が聞こえてきた。エレアノーラの背後で国王が「何をしているんだ……」と呆れた声をあげている。エレアノーラも怒る。

「何言ってるのよ! 私だって引継ぎがあるから忙しいんだから! っていうか、レグルス様からの引継ぎなのに、なんで本人がいないのよ!」

 すると、エレアノーラの怒りの声に反応したのかわからないが、レグルスが奥の方から出てきた。

「エリー、私が悪かったから、泣かないで。ね?」

「別に泣いてないわよ!」

 一応言わせていただくが、本当に泣いていない。去年末のことがあってから、みんなエレアノーラに気を使っているのだ。彼女としては、もうそこまで気にすることではないと割り切っているのでそれでいいのだが、レグルスをはじめエヴァンたちも、エレアノーラの感情が高ぶるとあわてるのだ。


「すねた顔も可愛いわよ。で、兄上。何のご用でしょうか」


 エレアノーラの頬を撫で、レグルスは彼女の後ろにいた国王に尋ねた。エレアノーラはさりげなく体をずらし、二人の間から抜ける。すると、国王はちらりとエレアノーラに視線をくれた。

「……レグルス。納める気があるのなら、早めに納まった方がほうがいいと思うぞ」

「余計なお世話です。それで、何の用ですか? 後で伺おうと思っていたんですが」

「先に来い、先に!」

 国王のツッコミは尤もである。エレアノーラは思わず大きくうなずいてしまった。

「こっちも引継ぎだ、馬鹿者! 私と内務大臣だけでは政務が回らん!」

「でも私、特務局の引継ぎもあるんですが」


 ちらっとレグルスがエレアノーラを見る。しかし、彼女は無情にも言った。


「あ、こっちは大丈夫。最終的にちゃんと引継ぎをしてくれれば。もともと、レグルス様ってそんなにいなかったじゃない? むしろ、最高決定が私にできるようになるから、仕事が早く回る可能性がある」

「……エリー……」

「レグルス様、何でちょっと泣きそうなの?」

「エレアノーラ嬢、今のは君が悪いと思うぞ」

「陛下もそんなこと言うんですか……」

 国王にまでツッコまれて、エレアノーラは首をかしげた。レグルスが「エリーってツンデレだったかしら」とか言いだす。

「なんでそんな結論に?」

「だって、こんなに冷たい子だったかしら」

「いやだって、副局長になってやっと一年経つのに、そう思ったら局長になることになってる私の身にもなってみなよ」


 そう。すでに、エレアノーラは次の特務局長に内定している。他に適任者がいないとはいえ、二十二歳の小娘に局長を任せるとは、思い切ったことをする。


 元の局長であるレグルスは、次の宰相だ。これも内定しており、どちらも次の春の異動で辞令がでるはずだった。


 なのにレグルスは、隙あらば研究室にこもろうとする。エレアノーラが怒っても仕方のない話であろう。

「レグルス。日ごろの行いだな」

「兄上まで」

「陛下。とりあえず、この人連れて行っていいので、あとで返してください」

「ああ。協力感謝する、エレアノーラ嬢」

 エレアノーラがレグルスを指し示すと、国王はうなずいて礼を口にした。エレアノーラはおののきつつもうなずく。すると、国王は再び口を開いた。

「そう言えば、私のことは『お兄様』と呼んでくれても構わんぞ」

「はい?」

「いや。私には妹がいないからな。実は『お兄様』と呼ばれるのにあこがれていて」

「……はあ」

 確かに、国王ジェイラスは姉と弟はいるが、妹はいない。妻と同じようなことを言いだす国王に、エレアノーラは戸惑って首をかしげた。そんなエレアノーラを、レグルスがかばうように自分の背後に押しやる。

「兄上。エリーに変なことを言わないでください」

「お前、過保護だよな」

「放っておいてください」

 そう言ってレグルスがエレアノーラを抱きしめる。脈絡のない行動にエレアノーラは首をかしげるが、振り払ったりはしなかった。国王がため息をつく。

「エレアノーラ嬢。こんなやつだが、末永くよろしく頼む」

「え、末永く頼まれるんですか?」

 エレアノーラが本気で驚くと、何故か国王の方が驚いた表情になった。


「結婚するんじゃないのか、お前たち」


 その言葉が理解できなくて、エレアノーラは一瞬ぽかんとした。そして、理解してから、


「はっ!?」


 間抜けな声をあげた。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


最後の外堀は国王陛下が埋めてくださいました、まる。

さりげなく、次で本編最終話。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ