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神は我が光【7】

今回はカルヴァート公爵家に殴り込みに行きます(語弊)











 生まれた時から、自分が両親にあまり愛されていないのだろうと察していた。だが、当時はエレアノーラ一人であったし、まだ小さかったから漠然とそう思っていただけだった。

 だが、三歳になったころ、妹のウィレミナが生まれてその漠然とした思いは事実だったのだと悟った。エレアノーラをあまり可愛がらなかった両親は、母に似たウィレミナを眼に入れても痛くないほどかわいがった。


 顔立ちだけで言えば、エレアノーラが可愛くなかったわけではない。確かに、エレアノーラはどちらかと言うと美人系であるが、両親にとってそう言う問題ではないのだ。

 エレアノーラは隔世遺伝で、父方の祖母に似ていた。祖母のオリガはスヴェトラーナ帝国の貴族だった。祖父が何故祖母を娶ったのか聞いたことはないが、恋愛結婚だったのだという。

 エレアノーラの両親は外国人嫌いだった。祖母は父の実母であるが、ログレスはもともと閉鎖的だ。父は自分の母親が外国人であることで心無いことを言われたことがあるらしく、そのために自分の母親に似た上の娘のことを疎ましく思っていたようだ。


 エレアノーラとウィレミナに対する両親の扱いは、明らかに差があった。ウィレミナをかわいがる一方、エレアノーラのことは無視した。ウィレミナが何をしても怒らないのに、エレアノーラが少しでも失敗すると体罰を加えたり、食事を抜いたりした。

 当時、カルヴァート公爵は父ではなく、祖父だった。祖父母はエレアノーラたち兄弟を平等にかわいがった。だが、両親は祖父母を『平等』だとは思わなかったようだ。

 両親はウィレミナをほとんど叱らなかったが、祖父母は違った。悪いことをすれば叱る。まあ、当たり前なのだが。

 両親はウィレミナを甘やかしたが、エレアノーラには厳しい教育を施した。ウィレミナは褒められるのに、自分はほめられない。怒られる。幼いエレアノーラは褒められようと努力したものだ。


 そのためだと思われるが、エレアノーラは教養がしっかりしていた。祖父母は礼節をわきまえたエレアノーラを気に入っていた。それは事実だと思う。

 一方のウィレミナは、両親には許されているから祖父母にも許されると思い、我がままし放題だった。両親は叱らないが、祖父母はそんなウィレミナを叱った。ウィレミナはそれが面白くなくて両親にそれを言う。両親は祖父母に抗議するが、祖父母は請け合わない。ウィレミナに甘すぎると逆に叱る。そのいら立ちが、とばっちりとしてエレアノーラに向けられる。

 両親とウィレミナは祖父母を嫌った。三人は、祖父母がエレアノーラを贔屓していると思ったのだ。実際には、祖父母はエレアノーラたち兄弟を同じように見ていただけなのだが。


 ウィレミナは、身近にいる両親がエレアノーラをないがしろにするから、自分もそうしていいのだと思っている節があった。エレアノーラになんでも命じて、エレアノーラが渋れば両親が「ウィレミナは妹なのだから守ってあげなさい」と続く。

 そんな息子家族の状況に、祖父母はいつしか気が付いた。エレアノーラを育てる気がないのなら、自分たちが引き取ると言ったこともあるらしい。だが、父はそれを渋った。祖父がエレアノーラを引き取れば、爵位が自分を飛び越えてエレアノーラにうつると思ったのだろう。実際、その可能性は高かった。


 だが、状況は改善されず、エレアノーラは十三歳になり、魔法学術院に入学した。魔法や勉学について教えてくれたのは、祖父だった。祖父は優秀なエレアノーラを気に入っていたようだ。だが、そのためにウィレミナたちをないがしろにしないのが祖父の父とは違うところだ。

 このころ、エレアノーラに婚約者ができた。例のアランである。魔法学術院にいる間、エレアノーラは学生寮で生活していたし、あまり彼と顔を合わせることがなかった。そして、彼女が首席で魔法学術院を卒業したころ、アランとウィレミナができていた。両親はアランをエレアノーラと婚約解消させ、望むウィレミナに与えた。エレアノーラ自身はそのまま特務局に入局して官舎に入った。それ以降、ほとんどカルヴァート公爵邸に帰っていない。


 エレアノーラが魔法学術院を卒業する一年前、祖父が亡くなった。爵位は未成年であるエレアノーラではなく、順当に父、つまり、現在のカルヴァート公爵に引き継がれた。


 三年前、現在の国王ジェイラスの戴冠が行われる前に、祖母のオリガも亡くなった。庇護者であった夫が亡くなってから自分が亡くなるまでの二年間。それは祖母にとってはつらい時間だったかもしれない。

 それでも、エレアノーラがカルヴァート公爵の領地に暮らしていた祖母を尋ねていくと、彼女はいつも歓迎してくれた。

『エレアノーラ。あなたには力がある。だから、あなたはいつでも自由なのですよ』

 祖母はエレアノーラに会うとよくそう言っていた。その時はわからなかったが、今ならわかる気がする。祖母は、亡き公爵は、エレアノーラに一人で生きるだけの力を与えてくれた。祖母の言葉は、きっとそう言うこと。

 だが、現実としてカルヴァート公爵家に戻ってきたエレアノーラは、カルヴァート公爵と向かい合っているレグルスの背後にしがみつくように隠れていた。レグルスの後ろからこちらを睨み付けるように見ている自分の父をうかがっていた。


「なんで私はこんな修羅場に……」


 エレアノーラのさらに後ろでそんなことを呟いているのは王宮書庫のあたりをうろついてたところを連行されたカレンだ。レグルスに見つかったのが運のつき。カルヴァート公爵邸まで一緒に連れてこられたのだ。彼女は、現状魔法が使えないエレアノーラの護衛替わりとして連れてこられた。うん。いろんな意味で申し訳ない。


「それで、何のご用ですか、王弟殿下」


 カルヴァート公爵が横柄にそう言ってソファに腰かけた。彼はレグルスにも座るように勧めたが、彼は首を左右に振った。

「私は結構です。それより、あなたに言いたいことがあるんですよ」

「なんですか。さすがに、犯罪者に娘をくれてやるつもりはありませんよ」

「ああ、それについてではありませんよ」

 レグルスはニコリとカルヴァート公爵に向かって笑って見せた。

「確かにあなたはエレアノーラの父親かもしれない。彼女の処遇は、あなたが決めるべきなのかもしれない。ですが、彼女はこんな公爵家に収まるような人間ではありません」

「……何を言いたいのですか」

 カルヴァート公爵が目を細めて言った。その表情は、認めたくないがエレアノーラとよく似ていた。

「あなたがなんと言おうと、私が、国が、彼女を必要としています。たとえあなた方家族がエレアノーラを否定しても、私は必ず彼女の味方でいましょう」

「……」

 エレアノーラはレグルスを見上げた。レグルスが首をひねり、エレアノーラを見て微笑んだ。


「次、彼女の意に沿わないことをしようとするのなら、私を敵に回すと心得てください」


 まっすぐにカルヴァート公爵を見てレグルスは言った。正直に言おう。うれしい。とてもうれしいのだが、わざわざカルヴァート公爵に言いにくるようなものだったのだろうか。

 カルヴァート公爵は鋭い視線をエレアノーラに向けた。彼女は思わずレグルスの背後に隠れる。


「……好きになさればよいでしょう。その娘に、我らはもう何も期待しない」


 カルヴァート公爵の言葉に、エレアノーラは震えてレグルスの背に額を押し付けた。ここで「こっちも何も期待していない」くらい言えればいいのだが、幼いころからの暗示は強固だった。

 代わりのように、レグルスが言った。


「あなた方が何もしなくても、エレアノーラには一人で生きていくだけの力がありますよ。彼女は優しく、強く、そして優秀な女性です。そんな彼女を押さえつけようとするほうが間違いなんですよ」


 では失礼します、とレグルスはエレアノーラの肩を抱いて押した。カルヴァート公爵は引き留めなかった。

 玄関から出ると、所在なさ気だったカレンが憤ったように言った。

「何なんですかー、あれ! 公爵だか知らないですけど、実の娘に対してあの態度!」

「いや、あれでもおとなしい方だけど……」

 相手がレグルスだったからだろう。エレアノーラ相手だと、もっとひどいことを平気で言うような人だ。

「たぶん、彼はエリーが怖いのよ。エリーが自分より優秀だとわかってる。だから、エリーを押さえつけようとするのね」

「……怖い?」

 レグルスに手を引かれて馬車に乗り込みながら、エレアノーラが首を傾げた。続いてカレンも乗り込みながら「あー、なるほど!」と納得の声をあげている。

「公爵は、副局長の才能に気付いて、自分の地位が脅かされるかもしれないと思ったわけですね!」

「そういうこと。まあ、それで抑圧するのはどうかと思うけど」

 レグルスは肩をすくめて御者に合図を出した。馬車が動き出す。


「っていうか、私連れてくる意味ありました?」


 カレンが尋ねた。レグルスは「何かあったら、エリーを連れ出してもらおうと思って」と微笑んで言った。確かに、エレアノーラを一人にするよりはカレンが一緒の方がよいだろう。

「それよりエリー。魔法の方はどう?」

 レグルスに問われ、エレアノーラは首をかしげた。

「どう、とは?」

「まだ使えないかしら」

 優しく微笑みながら言われ、エレアノーラはしばらく使っていなかった魔法を組み立てていく。右手の人差し指の先に魔法陣が展開し、魔法が発動する。指先に小さな竜巻が現れる。小さいが空気をかきまわし、エレアノーラたちの髪の毛をふわりと遊ばせた。

「……使え、た?」

「よかったじゃない」

 エレアノーラはレグルスを見た。何をしたのかわからないが、彼のおかげだとわかる。

 エレアノーラは正面に座るレグルスに抱き着いた。カレンが「うわあ」と声を上げる。


「ありがとう、レグルス様! 大好き!」


 レグルスはエレアノーラの背中をたたき「はいはい」と微笑んだ。












ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


殴り込みと言うにはちょっと弱かったですが、公爵は権力に弱いのです。

そして、自分で外堀を埋めるエレアノーラ(笑)


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