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神は我が光【6】

みなさん、新年あけましておめでとうございます!

今年最初の投稿です!










 レグルスに保護され、一時的に王宮に身を置いているエレアノーラは、ミラナ王妃とお茶をしていた。散々着せ替え人形にされ、髪を結われて髪飾りをつけられたエレアノーラは、夜会や晩餐会に出かけてもおかしくないような姿になっていた。

 エレアノーラは着の身着のまま出てきたので、必要なものは借りている状況だ。いや、官舎に行けばエレアノーラの身の回りのものは残っているので、正確には衣食住を借りていることになる。

 ミラナは、レグルスからエレアノーラの事情を聞いているのだろう。そのあたりのことは聞いてこなかった。最近はやりの衣装や髪型について話したり、どこそこの子息とどこそこの令嬢がいい雰囲気だとか、そういうくだらないことを話していた。


「あの、私、お邪魔してしまって……すみません」


 エレアノーラが謝罪を口にすると、ミラナは首を左右に振った。

「いいのよ。わたくしたちが好きでやっていることだもの」

 それに、とミラナは微笑む。

「前にも言ったけど、妹ができたみたいで楽しいの」

 ミラナが本当に楽しそうに笑うので、エレアノーラもつられて笑みを浮かべた。そこに、エレアノーラをミラナに預けていった張本人であるレグルスが戻ってきた。

「あら、レグルス。お仕事はもういいの?」

「エリーの様子が気になって。ミラナ、見ていてくれてありがとう」

 レグルスがミラナに微笑むと、彼女は首を左右に振った。

「構わないわよ。そのうち家族になるんでしょう?」

「さあ? どうかしら」

 レグルスは苦笑してエレアノーラが座っているソファの背後にまわり、覗き込むようにエレアノーラに話しかけた。


「調子はどうかしら、エリー」

「あ……うん。大丈夫」


 エレアノーラがうなずくと、レグルスは「良かったわ」と微笑んだ。ミラナが優しげに笑った。

「レグルスが来たから、わたくしは失礼するわね」

「あ、ご迷惑をおかけしてすみません。お時間もいただいてしまって……」

「いいから。気にしないで」

 ミラナはエレアノーラにそう言うと立ち上がり、部屋を出て行った。王妃である彼女には公務もある。時間を奪ってしまって申し訳なかった。ちなみに、ここはエレアノーラが借りているゲストルームである。

 ミラナが去ると、レグルスは先ほどまで彼女が座っていたソファに腰かけた。


「エリー。何か困ったことはある?」


 レグルスが微笑みながら尋ねてくるので、エレアノーラは少し考えた。


「現状、結婚問題に一番困ってる」


 そう言うと、レグルスは声をあげて笑った。

「意外と、大丈夫そうね、エリー」

「レグルス様の顔を見たら安心した」

 それは本当だ。彼ならなんとかしてくれる、という思いがあるのだろう。

 実際、エレアノーラの現在一番の問題は、その結婚問題なのだと思う。エレアノーラ本人的には魔法が使えない方が問題なのだが、それはエレアノーラ個人の問題である。

 まあ、魔法使えない問題の方が解決が難しいのだが、割り切ってしまえば、魔法はなくても何とかなる。

 だから、とにかく解決できる問題を先に何とかすべきなのだろうと思う。

「そのことなんだけどね、エリー。協力してくれれば、何とかできるかもしれないわ」

 レグルスの言葉に、エレアノーラは身を乗り出す。


「何をすればいいの?」


 乗り気なエレアノーラに、レグルスは微笑んで手を伸ばし、頭を撫でた。

「オグレイディ侯爵って、きな臭い噂があるでしょ」

「……性癖のこと?」

 エレアノーラが顔をしかめつつ尋ねると、レグルスは「それもだけど」神妙な顔をする。

「人身売買をしているっていう噂」

「あー……」

 聞いたことはある。そもそも、オグレイディ侯爵が巨万の富を得たのは、その領地が肥沃であるからだけではない。闇市場で儲けているからだ。身寄りのない子供を攫ってきて外国に売りさばいていると言う話だ。事実かどうかは知らないが、レグルスが言うからには真実なのだと思う。

「これの真相を突き止めて立件できれば、さすがのカルヴァート公爵もあなたとオグレイディ侯爵の結婚を見合わせるでしょ」

「……うん。たぶん」

 確証はないが、その可能性は高い。さすがのカルヴァート公爵も、犯罪者予備軍に娘をやろうとは思わないだろう。彼は虚栄心が強いから。


 エレアノーラがうなずいたのを見て、レグルスは微笑んだ。ぱん、と手をたたく。

「じゃあ決まり。あなたも、何かしてる方が気がまぎれるでしょ」

「それは……そうだけど」

 普通、一応は嫁入り相手である侯爵の犯罪歴を調べさせたりはしないだろう。この辺、レグルスはちょっとおかしいと思う。だが、エレアノーラがただ助けを待つということができないのは明白だった。そこを考えれば、レグルスはエレアノーラをよく理解しているのだろう。

 そんなわけで、エレアノーラが泊まっている部屋に大量の資料が持ち込まれた。エレアノーラは必要な資料を発掘しながら作業を進めていた。


 金の動きに人口の推移、船の航海記録、さらにオグレイディ侯爵の王都と領地、それぞれの屋敷の見取り図など。本当にいるのか、と思われるような資料もあった。それにしても、レグルスは一体どうやってこれだけの量の資料を集めてきたのか……。


 同時並行で法律についても調べる。エレアノーラは魔法法には詳しいが、刑法についてはそれほど詳しいわけではない。そもそも、法務官でもなければ法律など気にしない。だが、今のエレアノーラは確実にオグレイディ侯爵を裁判所に送るために詳しい法律に関する知識が必要だった。


 エレアノーラ・ナイトレイという女性は、周囲から言われているように優秀な女性だった。結論から言えば、彼女は三日で必要な情報をまとめ上げ、裁判に必要な書類をそろえてレグルスに差し出した。

「……思ったより早いわね……」

「ほかにすることもないし。それより」

 エレアノーラは上目づかいにレグルスを見上げた。長身である彼女は、この姿勢は難しいのだが、エレアノーラを上回る長身であるレグルス相手だからできる。

「うちの父、何も言ってこなかった……?」

 エレアノーラとしてはそこが心配である。エレアノーラが脱走してから既に四日が経っている。父も、エレアノーラがエヴァンに保護されてウェストン伯爵家を経由して王宮に預けられたことまで調べ上げているだろう。

 だが、いくら公爵家とはいえ、王族にはおいそれと手を出せまい。なので、エレアノーラは調査中は王宮の敷地内から出ないようにしていた。プライベートスペースから出てしまえば、エレアノーラは再度捕まる可能性がある。

 というか、家族から逃げなければならないこの状況って一体何なのだろうか。

 エレアノーラの問いに、レグルスは微笑んで彼女の額を指ではじいた。

「大丈夫よ。あなたの父上も、王族を敵に回したりはしないでしょ」

「……まあ、そんな気概はないと思うけど」

 カルヴァート公爵が王族に対立する度胸があれば、今頃反外国人派の指導者として君臨しているだろう。王妃がスヴェトラーナ人であり、エレアノーラは自分の父がそれを快く思っていないことを知っていた。


「なら大丈夫よ。心配ご無用」


 さらっとレグルスが言った。オネエであるレグルスであるが、こうした言動は妙に男らしいと思う。

「とりあえず、ご苦労様。こんなことをさせて悪かったわ」

 自分から言いだしたのに、そんなことを言うレグルスにエレアノーラは微笑んだ。

「別に。何もしてない方がいろいろ考えちゃうし」

 エレアノーラは目を閉じた。恐怖が、エレアノーラの魔法力を閉ざしていく。だから、考えない方がいい。

 優しく頭を撫でられ、エレアノーラは目を開いた。レグルスがエレアノーラの頬を撫で、指でぐにっとつまんだ。


「あまりあなたにそんな顔をさせたくないんだけどねぇ」


 そう言ってレグルスはエレアノーラの頬をぐにぐにと引っ張り、手を離した。エレアノーラは赤くなっているであろう頬をさすった。今、自分はどんな顔をしているのだろうか。

「まあ、確かにここにいれば安全なんだけど、それだけでは問題は解決しないわ」

 レグルスはエレアノーラを見てニコッと笑った。とてつもなく嫌な予感がする。

「一度、あなたのご家族に挨拶に行かないとねぇ」

「……」

 エレアノーラには、この時のレグルスが邪悪に見えたと言う。
















 エレアノーラがそろえた証拠資料により、オグレイディ侯爵はすぐに裁判にかけられることになり、身柄が拘束されたと言う。

 結婚したくないから相手を裁判所送りにしてしまう。新しい婚約破棄方法だ。もちろん、結婚したくないエレアノーラが罪を作り上げたのではないかとも言われたが、たたけば出るわ出るわ。家宅捜査で隠し部屋や誘拐された子供や女性が見つかったらしい。もっとえぐい現場も発見されているらしいが、噂なので、あとでレグルスに調査書を見せてもらおうと思っている。


 だが、現在、エレアノーラとレグルスは熾烈な戦いを繰り広げていた。


「エリー、いいから行くわよ」

「行かないってば!」

 エレアノーラの手を引き部屋から連れ出そうとするレグルスと、抵抗する彼女。どう考えてもレグルスの方が力が強いので簡単に引きずり出されそうなものだが、手加減してくれているのか結構いい勝負である。

 不意にレグルスが手の力を緩めて、エレアノーラはバランスを崩した。

「わっ」

 だが、倒れ込む前にレグルスがぐっとエレアノーラを抱き寄せて支えた。

「!」

 間近でニコッと微笑まれ、エレアノーラはそんな状況ではないのにどきりとした。だが。

「ちょっとごめんね」

「ぎゃーっ」

 そのまま担ぎ上げられ、エレアノーラは悲鳴をあげた。

「舌をかむからしゃべらない方がいいと思うわよ?」

 レグルスに指摘され、エレアノーラは素直に口を閉じた。レグルスは満足げにうなずき、

「じゃあ、行きましょうか」

「……」

 そのままエレアノーラを連行して行った。














ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


年が明けましたねー。今年もまた、よろしくお願いいたします。


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