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神は我が光【2】

クリスマス・イブの今日はエヴァン視点。

先に言っておきますと、私は特に偏見はないです。たぶん。おそらく。













 最初にフリーズから解凍されたのはエヴァンだった。


「オネエ宰相?」

「否定できないけど、さすがに怒るわよ?」


 レグルスはそう言いながらも笑っている。続いて、エレアノーラも理解が追い付いてきた。

「まあいいんじゃないの? 王族が宰相を担うことは多いし、レグルス様なら王位を狙うってこともないでしょ」

「当然ね」

「でも、局長ならクーデターを成功させそう」

「それ、言えてる」

「ちょっと、そこ二人」

 エヴァンとエレアノーラに、レグルスがツッコミを入れた。だが、エヴァンの言うとおり、レグルスの戦略兵器としか思えない魔法威力であれば、王位の簒奪など簡単だ。まあ、その代わりに王都が半分吹っ飛ぶ可能性も高い。


「っていうか、レグルス様が宰相になったら、ここの局長どうなるの? エヴァン?」


 エレアノーラが尋ねるので、エヴァンは「僕やらないからね」と訴えた。

「それなのよねぇ。一応、検討中なんだけど、場合によってはエリーになるかもしれないわねぇ」

「えっ!? なんでそこに飛ぶの!?」

 エレアノーラが眼を見開いて叫んだ。レグルスが書類をひょいと持ち上げながら言った。

「身分的にそうなるのよねぇ」

「身分て。私、ただの公爵令嬢なんだけど。しかもほぼ絶縁状態だし」

「いや、それ、エリーが実家に帰ってないだけでしょ」

「そうなんだけど、そうじゃなくて。エヴァンだって伯爵家の次男じゃん!」

 エレアノーラがエヴァンに向かって言うが、「公爵家と伯爵家じゃ全然違うよ」と答える。だが、二人とも爵位を持っているのは父親であり、この二人ではない。


 なので、この問題は先送りだ。どちらにしろ、次の辞令が出るのは来年の春だ。まだ五か月近くある。

「エリー、エヴァン。急ぎはこれだけ?」

「あー、待って。これ、頼まれてた魔法法改正案」

「局長。こっち、四月から九月までの魔法犯罪の一覧と統計。エリーにはもう見てもらったよ」

 エレアノーラとエヴァンが無情にもレグルスの抱える書類にさらに書類を乗せていく。山積みになった紙を見て、レグルスがげっそりした顔になった。

「……あなたたち、鬼?」

 エヴァンとしても非常に残念であるが、今現在、とても忙しいのである。
















 翌日、エヴァンが出勤してくると、応接用のソファの上で、レグルスとエレアノーラが抱き合うように眠っていた。


「……」


 エヴァンは思わず半眼になる。テーブルには書類が拡げられているので、おそらく残業中に眠ってしまったのだろう。それはわかる。だが、レグルスは宮殿に住んでいるし、エレアノーラも宮殿の敷地内にある官舎に暮らしている。近いんだから、帰れよ……。


「ほい、二人とも。起きて」


 エヴァンは遠慮なく二人の頭をたたいて起こす。抱き合う、と言うよりは、エレアノーラがレグルスの上に乗っかっていると言った方が正しいだろうか。

「あー。エヴァン……」

 先に目を覚ましたのはエレアノーラだった。長い金髪がほつれている。眠たげに眼をこすりつつ、エレアノーラは手をついて身を起こした。ちょうどレグルスの胸のあたりに手をついている。


「もう朝? うわぁ……うわっ」


 出勤してきたエヴァンを見て、エレアノーラが髪をかきあげながら顔をゆがめた。しかし、すぐに悲鳴が上がってエヴァンはそちらを見た。目を覚ましたレグルスが、上に乗っかっていたエレアノーラを引き寄せ、自分の上半身を起こしたところだった。最初からきわどい状況だったが、今もエレアノーラがレグルスの膝に乗っている状況だ。カレンには『エヴァンとエレアノーラで結婚してしまえ!』と言われたが、エヴァンは『レグルスとエレアノーラで結婚してしまえ!』と思う。身分的にも、こちらの方が釣り合うし。

「……あら。エヴァン。おはよう」

「はい、おはよう。っていうか、二人とも部屋に帰ればよかったのに」

 エヴァンが指摘すると、レグルスはエレアノーラを立たせながら「すぐに帰れると思ったから、逆に遅くまで残って寝込んじゃったのよね」と言い訳した。

「うわー。髪の毛ぼさぼさ~。ねむーい」

 エレアノーラが間延びした口調で言った。彼女は「部屋で着替えてくる」と言って官舎に一時帰宅した。


「で、局長って確信犯?」


 エヴァンは今日の仕事の準備を始めながら言った。レグルスは自分でコーヒーを淹れながら「なんで?」とニコリと笑う。

「だって、寝込んじゃっても上に乗っかることはないでしょ」

「んんっ。まあ、そうね。あの子、人見知りっぽいところがあるけど、妙にガードが緩いのよねぇ」

 エヴァンはちらっとレグルスを見て、少し迷い、結局口を開いた。


「……でも、その、局長ってあれなんじゃないの?」

「ああ。同性愛者?」

「……」


 エヴァンはついっと視線を逸らした。いや、偏見があるわけではないが、世間的には偏見の目で見られるのは確かだ。たとえそうだとしても、レグルスの本質は変わらないと、エヴァンは思っているけど。

「確かに私はオネエだけど、別に、同性が好きなわけじゃないわよ」

「え?」

「うん?」

 エヴァンは驚いてレグルスを見つめ返した。レグルスはニコリと笑う。

「そもそも、私がオネエ口調になったのだって、王位を継ぎたくないから、オネエになったら誰も王になれ、とか言わないかなーって思ったのが最初だし」

「いや、それは聞いたことあるよ」

 確かに、こんな口調の国王は嫌だ。王弟ならいいわけでもないと思うけど。慣れればそんなものだと思うのだが、初めて聞いたときはびっくりした。

「……つまり、恋愛対象は女性なんだ?」

「まあそうね。私、なんちゃってオネエだし」

 なんちゃってオネエって何。エヴァンはもうわけがわからない。

「……そうなんだ」

 何とかそう答えた。何となくレグルスのベクトルはエレアノーラの方に向かっている気がした。
















 エレアノーラが官舎から戻ってくるのを確認してから、レグルスは決裁済みの書類を持って国王の元に向かっていった。寄り道したら、襲撃に行こう、とエヴァンはぼんやりと思った。

 エレアノーラが戻ってきたときにはすでに出勤時間が過ぎていたので、局員たちが出勤してきていた。特務局員たちは魔導師であり、自分の時間を最大限自分の趣味に費やすような人たちだ。そのため、全体的に出勤時間は遅い。いつもエヴァンが最初に出勤していて、その次にエレアノーラ、と言う感じだ。最近は、ルーシャンも早いけど。


 そんなわけでレグルスとエレアノーラが抱き合って眠っている姿は、エヴァンしか見ていなかったことになる。ほっとしていいやら、何故自分が! と思うやらで微妙な気持ちになる。

 局長であるレグルスが国王に使われているので、副局長のエレアノーラが代理を務めることになる。彼女が局長室にこもっているとき(共同の執務室ではスペースが狭いのだ)、客人が来た。

 と言っても、エレアノーラの父親であるカルヴァート公爵だ。あまり似ていない親子だが、離れて見ると、何となく似ている気はする。正直言って、エレアノーラとミラナ王妃の方がまだ似ているような気がするけど。

 カルヴァート公爵は居丈高な態度で局員にエレアノーラを連れてくるように命じた。エレアノーラはごねるかと思ったのだが、おとなしく局長室から出てきた。


「何の用かしら、お父様」


 嫌味っぽくエレアノーラが言った。嫌味っぽいが、少し腰が引けている様子が珍しい。遠慮することはあっても、ここまでエレアノーラが苦手そうにするのはあまり眼にすることがない。

「用など決まっている。屋敷に戻って来いと言うのに、お前が戻ってこないからだろう」

 公爵がエレアノーラの腕をつかんだ。引っ張られそうになり、エレアノーラがぐっと自分の腕を引く。逆に引っ張られた公爵がたたらを踏んだ。

「何、それ。聞いてないわ」

「手紙を出した」

 公爵が間髪入れずに答え、エレアノーラは少し考えるように沈黙した。おそらく、開封せずにそのままになっているか、捨てたかしてしまったのだろう。エレアノーラならありうる。

「いいから、来い。大体、公爵家の娘がこんな就労など……」

 確かに、貴族の、特にエレアノーラのような地位の高い公爵家の娘が寒色とはいえ、職を得ているのは珍しい。だが、カルヴァート公爵の言い分にはエヴァンも言いたいことがあった。


「お言葉ですが公爵。彼女には能力があります。それを試したいと思うのは当然でしょう」


 そう。エレアノーラの才能は本物だ。その力を発揮したいと思うのは当然であり、押さえつける方が恐ろしい。いつ爆発するかわからないからだ。彼女は常識人のように振る舞っているが、常識の範疇に収まる人でないことはわかっている。

 だが、エヴァンの言葉はカルヴァート公爵には届かなかったようで、彼は不快そうに眉をひそめた後、娘を引っ張った。

「昔から聞き分けがないな、お前は。私が来いと言っているのだ」

「……っ。私に命じるのなら、もう少し父親としての威厳を持ってからにしてほしいわ」


 言った! 言い切った! この娘は、父親に向かって威厳がないと言い切った。


 これはエレアノーラも悪いが、公爵は娘に向かって手をあげた。頬をはたかれたエレアノーラは、そのまま顔を上げなかった。

「公爵!」

 エヴァンが思わず非難の声を上げるが、カルヴァート公爵は彼を人睨みすると、行くぞ、とエレアノーラを引っ張っていく。引きずられるようにエレアノーラは出て行き、パタン、と扉が閉まった。


 特務局の執務室に沈黙が流れる。


「ど、どどどど、どうしましょう!?」

 カレンが動揺したように言った。まあ、彼女はエレアノーラに懐いていたからな……。カレンの方が年上だけど。

 この場の誰も、カルヴァート公爵に向かって反抗できなかった。特務局には貴族の出身者も多いが、やはり、上から数えたほうが早いカルヴァート公爵に立ち向かえるような身分は持ち合わせていない。唯一、局長のレグルスだけがカルヴァート公爵の意見を否定できただろうが、彼はあいにくと居合わせていない。

『局長! エリーが連れて行かれたんだけど!』

 エヴァンが精神感応テレパシーでレグルスに向かってそんな言葉を送る。彼から『え?』と戸惑った様子が伝わってきたが、まるっと無視だ。

「とりあえず、落ち着いて。さすがの公爵も、自分の娘を殺したりはしないだろうし。たぶん、状況的に」

 一番考えとしてしっくりくるのは、政略結婚だろうか。エレアノーラの公爵令嬢、という身分は、他国から見ても魅力的であると思う。

 とりあえず、特務局の中が落ち着いた頃、エヴァンからの妙な伝言を受け取ったレグルスがやってきた。

「何? この特務局のど真ん中でエリーが誘拐でもされた?」

「ちょっと近い!」

 エヴァンはレグルスの直感に感心しつつ、簡単にあらましを説明した。















ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この辺、さくさくっと行かないとこの後が長い気がします……。


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