表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/49

神は我が光【1】

そんなわけで、再開します。しょっぱなから結構えぐい話なので、注意!














 エレアノーラに、行儀作法や勉学を教えてくれたのは祖父母だった。当時のカルヴァート公爵と、公爵夫人。両親はエレアノーラを顧みない人だったから、エレアノーラは自然と、構ってくれる祖父母になついたと言うわけである。

 エレアノーラの祖母はスヴェトラーナ帝国人だった。金髪に翡翠の長身の女性で、エレアノーラはそんな祖母によく似ていると言われる。

 だから、だろう。両親がエレアノーラを顧みなかったのは。嫁いできた母も、祖母の実の子であるはずの父も、外国人嫌いだった。


『エレアノーラ。あなたには力がある。だから、あなたはいつでも自由なのですよ』


 祖母は、よくエレアノーラにそう言って聞かせていた。
















「そう言えば、イングラム宰相とクレアとダリアの双子だけど、動機を聞いた?」

「え、聞いてない」

 相変わらず顔を上げずに会話するエヴァンとエレアノーラである。ひと月ほど前に起こった事件。その全容が見えてきたらしい。

 まず、イングラム宰相が隠し部屋の中の不死者を解放したことから始まったらしい。曲がりなりにも王家の血を引くイングラム宰相は、エレアノーラとは違い、聖剣カリバーンを扱えたらしい。彼の主張するところによると、宰相の母親はクローディア王女の血を引いていたという。

 人生のほとんどを戦争の中生き、戦争で亡くなった女性。彼女は最後までログレスを守った。戦争を生き残った不死者が、反乱を起こそうとしたのを止めたのだ。殺すことはできなかったから、封じることで。


 そもそも、イングラム宰相は……いや、まあ、今は元宰相だが、彼は幸福な人生を歩んできたわけではない。生母が生きていたころはまだましだったそうだが、彼女が亡くなると、イングラム元宰相の生活は最悪なものになった。

 イングラム元宰相の父親は、今は禁忌とされる不死の研究に没頭していた。その一環として、自分が妾に産ませた子供を生きたまま『解剖』した。

 詳しいことは省くが、その結果、イングラム元宰相は不完全な『不死の戦士』となった。もともと、『不死の戦士』と呼ばれる不死者が不完全であったことも重なり、彼は不安定な存在となった。このまま何もしなくても、イングラム元宰相の体は、近いうちに『崩壊』していただろう言うことらしい。


 そうなったとき、イングラム元宰相は思ったらしい。そうだ。かつて、自分と同じ目にあい、封印された不死者を解放しよう。


 その思考回路が意味不明であるが、同時に遺体が見つかっていないと言うクローディア王女をちゃんと埋葬してやりたい、と言う気持ちもあったようだ。そっちは理解できる。

 で、母親の言葉に従って隠し部屋を見つけ、無事にカリバーンを引き抜き封印を解いたのだ。

 少し話は変わり、クレアとダリアのことだ。二人は双子であるが、ダリアのことは隠匿されていた。出生届も出されていない。そもそも、出生届は義務化されていないのだが、生きている限りその痕跡は残るはずなのだ。


 だが、その痕跡がない。と言うことは、ダリアの存在はかなり厳重に隠されていたと言うことで、クレアは時々ダリアと入れ替わったりしていたらしい。だから、二人は全く同じといっていい知識があるし、ふるまいもやや似ている。むしろ、二人の見分けがつかないようにふるまっているきらいすらあった。

 クレアが優秀な成績で魔法学術院を卒業したのは確かだ。実際、彼女も優秀なのだ。しかし、二人分の魔法をクレアのもの、として使っていたので、より優秀に見えていた可能性もある。

 まあ、それはともかく。クレアとダリアが家族を惨殺すると言う凶行に及んだわけであるが。


 彼女ら二人は、どうやらグレンフェル侯爵夫人が生んだ子であることに間違いはないらしい。


 だが、どうやらグレンフェル侯爵の子ではないらしい。


 再婚した連れ子である、とかそう言うことではないらしい。言ってもいいのかわからないが、クレアとダリアの双子は、グレンフェル侯爵夫人が乱暴されて生まれた子らしい。そして、その乱暴した相手はどうやら外国人だったようで。

 ここまで来るとどういえばいいのかわからないが、それを知った時、クレアとダリアは復讐心に燃えたそうだ。

 侯爵は自分の子ではないクレアとダリアを、育てることはしたが愛しはしなかったし、ダリアに至ってはその存在を隠匿されていた。侯爵夫人は夫に嫌われたくないと、双子を無視するようになったと言う。


 まあ、それは、ぐれる。


 しかし、エレアノーラも家族との折り合いが悪いので、二人の気持ちが理解できないわけではない。同じことを、しようとは思わないけど。

 そんな時、転移魔法を使う不死者を連れたイングラム宰相(現職時)と遭遇。イングラム宰相は自分の最期の仕事として、不死者とクレアたちを使って不穏分子をあおりだそうと考えたらしい。

 しばらく前から、すでに子供もいるミラナ王妃を廃そうと言う動きがあった。直接政治に関わっていないエレアノーラの耳にも入ってきている。いや、まあ、ミラナ本人から聞いたのであるが。

 クレアとダリアは異国人が嫌いだった。自分たちが異国人に乱暴されて生まれた子だからだろう。エレアノーラが狙われたのは、転移魔法という特異な魔法を持つから、と言う理由もあるが、彼女が異国の血を引いていたからと言う可能性もある。ミラナの場合は殺されると外交問題なので、イングラム宰相が殺すのには待ったをかけたと思われた。


 ミラナを殺そうとしても、エレアノーラが全力で止めにかかる。そして、彼女が戦闘不能に陥れば御の字……。雑だろう。雑すぎるだろう。しかも、これだけでは説明しきれないことがたくさんあるが、エレアノーラはとりあえず深く考えるのはやめた。

「結局、クローディア王女の遺体は丁重に埋葬されたんでしょ」

「って聞いてるけど。カリバーンも一緒に放り込んだって」

「それはレグルス様が入れてきたらしいけど」

「アンサラーは?」

「宝物庫に戻してきた」

 封じの剣、王の剣、選定の剣。様々な呼称のあるカリバーンは今、王族墓地で眠っているクローディア王女の副葬品として棺に入れられている。エレアノーラもエヴァンもそう聞いていた。

「……クレアとダリアも、今は牢屋の中だしね……」

 つまり、特務局に新しく入ってきた局員がいなくなったと言うことだ。クレアはなかなか優秀だったので、意外に抜けた穴は大きかったりする。

「でも、私もあの二人の気持ちがわからないわけではないのよ。ちょっと似てる気がするし」

「エリーと?」

「そう」

 もちろん、エレアノーラはちゃんとカルヴァート公爵夫妻二人の血を引いている。彼女が母から生まれたのは確かで、そして、エレアノーラは父方の祖父に似ているのだから、当然であるが。


 エヴァンはふっと息を吐いて笑い、言った。


「確かに、境遇は少し似ているかもしれないね。でも、君がクレアたちと同じことをするとは思えない。するとしても、僕が止めるからね」

 エヴァンの言葉に、エレアノーラは目をしばたたかせた。それから微笑む。

「ありがと」

 エヴァンにエレアノーラを止められるかは不明であるが、とりあえず礼を言っておく。

「ひゅ~。熱いですねぇ。そのまま付き合っちゃえばいいのに」

 カレンがどうでもよさそうに言った。これは無駄話をやめて手伝ってくれ、と言うことだろう。しかし、エレアノーラたちにも言い分はある。

「あんたが気をそらしてばかりだからでしょ。私の仕事が進まないでしょうが」

「そんなこと言っても無理です!」

 カレンはすでに半泣きだ。研究所から異動してきた彼女は、書類仕事が苦手なのである。

「気づいたことはその場で確かめねば!」

「前から思ってたけど、カレンって局長と同類だよね」

 しみじみと言うエヴァンに、エレアノーラは「同感」とうなずいた。カレンが不満げな声を上げるが、研究好きなところがよく似ていると思うのだ。


「というか、その局長はどうしたんだ?」


 これはカレンよりやや常識をわきまえているルーシャンのセリフだ。彼も研究好きであるが、ちゃんと公私の区別はついている。

「王妃を狙っていた反異国人の過激派が見つかったから、その一掃に駆り出されてる。イングラム宰相が捕まっちゃったからねぇ」

 エレアノーラが局長レグルスがいないせいで最終判断が回ってくる書類に目を通しながら答えた。そう。イングラム元宰相の一掃作戦はうまく行った。うまく行きすぎて、大変なことになっている。何しろ、時を同じくして有能な宰相が捕まったのだ。どこもかしこも手が足りず、仕方がないので王弟レグルスが駆り出されていると言う状況だ。


「反王妃派の貴族が粛清されるだろうから、また人手が減るねぇ」

「魔導師組織には関係ないような気もするけど、一応、私たちも官僚扱いだもんね」


 そうなのだ。驚いたことに。魔法研究所の研究員は微妙なところだが、メイシー所長と副所長はおそらく、官僚扱いされている。エレアノーラたち特務局の人間は完全に官僚と考えられているだろう。

「でも、基本的に僕ら、他の部署に異動することはないじゃん?」

「まあねー。その辺の仕組みについては、私もよくわからないし。ほい、エヴァン」

 エレアノーラが書き上げた予算案をエヴァンの方に差し出す。彼は受け取り、代わりにほかの決裁を渡してきた。

 エヴァンは優秀だが、どうしても副局長であるエレアノーラのサインが必要になる。このピラミッド型構造、何とかならないのだろうか。

 しばらくして、レグルスが戻ってきた。なんだかぐったりして見えるのは気のせいではないだろう。

「お疲れ~。レグルス様」

「お疲れ様。ねえ、エリー。コーヒー淹れてくれない? ミルクが入ったやつ」

「残念ながら、私も忙しいのだ」

 そんな余裕があるのなら、自分の分を淹れている。レグルスは「そうよねぇ」と苦笑を浮かべた。

「局長、なんかあったの?」

 エヴァンが相変わらず視線を上げずに尋ねると、レグルスは「まあね」とエレアノーラの机の側に立ち、未決済の書類に目を通していく。


「私、宰相になるかもしれないわ」


 その瞬間、空気が止まった。
















ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


サブタイトルがちょっとあれですが、『Eleanora』の意味が『神は我が光』らしいです。正確には、ちょっと違うかもしれませんが。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ