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失われた聖剣【13】

またもや猟奇的な表現があります。ご注意を。


そして、第4章も最後です。
















 一方のレグルスである。エレアノーラが対不死者戦を行っているころ、彼は玉座の間に来ていた。そこに立っていた男性に声をかける。


「やはり、あなたでしたか。イングラム宰相」


 ゆっくりと男性が振り返る。五十歳前後の濃い青紫の瞳をしたその男性。殺されたはずのイングラム宰相だった。

 レグルスの魔法の専門は魔法工学だ。しかし、だからと言ってそれ以外の者が全く門外漢であるわけではない。

「よくできた遺体でしたね。だまされました」

「……やはり見破られましたか」

 イングラム宰相がぽつりと言った。むしろ、見破られたとわかったから、彼はここに来たのだろう。

 初めから、イングラム宰相の遺体には違和感があったのだ。なので、魔法研究所の魔導師に混じって調べていたのだが、そこにカリバーンとイングラム宰相の遺体の紛失が重なり、レグルスは緊急を叫んだエレアノーラの元に駆けつけた。

 そこで、彼女は答えをくれた。


『不死者……『不死の戦士』って、生きた人間じゃないのよ。死んだ人間なのよ。そう。あれは死体が動いているのだわ』


 彼女は、不死者が死なないのは正しく『不死』なのではなく、すでに『死んで』いるからなのだ、と言った。

 不死者は自分で考えて行動していた。脳は腐っていないのか? などという疑問はあるものの、エレアノーラの言葉が正しいのだとしたら、イングラム宰相の遺体にも説明が着くと思った。

 イングラム宰相は『死んだ』わけではなかったのだ。初めから『死んで』いたのではないだろうか。

 彼は、不死者と同じだったのだ。そう考えれば、説明がつくと思った。

 つまり、レグルスは『よくできた遺体』と言ったが、その遺体は今ここにいるイングランド宰相の体と同じものなのだ。遺体が無くなったのは、彼が自分でそこから立ち去ったというだけである。


「まあ、私が気づいたわけではありませんけどね。エリー……エレアノーラがだいぶヒントをくれましたし」


 しれっとレグルスは言ってのけた。エレアノーラに教えられた、と言ったが、彼女が直接ヒントをくれたわけではない。彼女の言葉から、レグルスが気づいただけであるが、まあ、同じことだ。


「ナイトレイ副局長か……やはり、早く始末しておくべきでしたね」


 イングラム宰相が言った。レグルスは思わず眉をひそめる。彼女を害するとさらりと言ってのける宰相に不快感を覚えたのだ。しかし、敵方としてはエレアノーラの能力は恐怖であろう。魔法学術院を歴代十位には入る優秀な成績で卒業した才媛である彼女の能力は計り知れない。真っ先に始末しようと言う気持ちはわからないわけではない。

 それに、彼女の転移魔法。エレアノーラによると、生きた人間を転移させるのは危険であるらしい。だが、相手が死んでいるのなら別だという。だから、今回のエレアノーラの強行作戦が採用されたのだ。

 まあ、それはともかく、こちらの話だ。


「あの不死者を棺から出したのは宰相ですよね。どうしてそんなことを?」


 どれだけ調べても、イングラム宰相の動機は不明だった。なら、本人に尋ねてしまおう。そう思ったわけである。

 イングラム宰相はふっと笑った。

「動機など、どうでもよいでしょう。私がこの国を壊してみたくなった。それでいいでしょう」

 さっさとしょっ引いてしまえ、と言わんばかりの態度にレグルスは違和感を覚えた。むしろ、彼は捕まりたがっているような……。

「捕まえて、首でも斬ればよいでしょう」

 その言葉で、納得した。

「宰相。あなた、死にたいんですか」

「……」

 イングラム宰相は答えなかった。レグルスはため息をついた。

「本当に死にたいんですか」

 呆れた口調で言うと、イングラム宰相はいきり立った。


「あなたにわかるか。死にたくても死ねない気持ちが」


 イングラム宰相は腕を組み、王弟であるレグルスを睥睨した。

「もともと、私はイングラム公爵家を継ぐはずではありませんでした。もともと、妾の子でしたからね。実の親に生きたまま解剖されて、いい気分なんてしませんよ」

「……」

 今度はレグルスが沈黙した。なかなかに壮絶な言葉だった。

「妾の子、と言いましたが、私を生んだ女は、クローディア王女の血を引いたんですよ」

「……系譜には、クローディア王女には子供がいないはずですが」

 史実ではそうなっている。だが、実際のところはどうかわからない。魔法戦争が終わった時、クローディア王女は二十八歳であり、一人や二人、子供がいてもおかしくはない年齢だ。

 それに、歴史書には乗っていないからと言って、子供がいないとは限らない。庶子として市井で育っている可能性もあるのだ。


「系譜がいつも正しいわけではありませんよ。実際に、私は確かにクローディア王女の血を引くのですから」


 何故それがわかるのか。レグルスの疑問が顔に出たのだろう。宰相は答えた。

「王家の魔力を持つ者は、紫の瞳をしていますからね」

 紫の瞳は王族の証。王族の血が強く出るほど、瞳の色は紫に近いと言う。レグルスも紫がかった灰色の瞳をしているが、イングラム宰相の瞳はそれよりも紫に近かった。

 確か、クローディア王女は黒髪に紫の瞳をした、典型的なログレス王族の外見をしていたと言う。条件としては、淡い金髪に淡い色の瞳で長身という、スヴェトラーナ王族と似たようなものだ。


 イングラム宰相の言葉が事実であるとすれば、カリバーンを扱えるというログレス王族は紫の瞳をしているはずだ。それ以外の者はカリバーンを使えない。

 だが、それでも、イングラム宰相がクローディア王女の子孫であるとは断言できないだろう。なぜなら、イングラム宰相もエレアノーラと同じで、父親の流れから見ても傍流王族であるからだ。

「何故、私がクローディア王女と共に眠るカリバーンを見つけられたと思います? 母から聞いていたからですよ。魔法戦争期を生きた、心優しい王女の魔法。魔法をかけた場所。魔法を知らなければ、解除はできませんからね」

「……なるほど」

 それは道理かもしれない、と思った。


 玉座の裏の隠し通路と隠し部屋。王族の避難用通路であることは明白だ。キャメロット城は城の形をした軍事要塞でもあり、戦中の基地司令部でもあった。また、魔法の全盛期でもあった魔法戦争期。クローディア王女はこの城のことを正確に把握していたとしてもおかしくない。

 そして、彼女は隠し通路を封鎖したのかもしれない。さらに死ねなかった不死者を封じて。

 イングラム宰相も、クローディア王女も。何を考えて行動に及んだのか。レグルスには理解しがたかった。
















「レグルス様」


 連行されるイングラム宰相を見送っていると、エレアノーラが駆け寄ってきた。どうやら、作戦はうまく行ったらしい。

「局長!」

「あらエヴァン。自力で抜け出してきたの?」

 エレアノーラの後ろから駆け寄ってきたエヴァンを見て、レグルスは目を見開いた。エヴァンは苦笑する。

「エリーに助けてもらったんだよ」

「……エリー、あんた、ここぞとばかりに自分の能力を使ったわね……」

「えへ?」

 悪びれなくエレアノーラは笑った。見たところ大きな怪我はないように見える。

「でも、魔力はすっからかん」

「……」

 本当にここぞとばかりに魔法を使いまくったようだ。そもそも、転移魔法はかなり魔力を消耗するのであるが。


「そう言えば、カリバーンは戻ってきてる?」

「ええ。戻ってきてるわよ。アンサラーは?」

「持ってるわよ。貸してくれてありがと」


 エレアノーラはそう言って腰に佩いた聖剣を軽く振って見せた。アンサラーはもうしばらくエレアノーラが持っていればいいだろう。メイシー長官がエレアノーラから預けられたと言うカリバーンは、すでにレグルスの元に戻ってきていた。


「それにしても、やっぱりイングラム宰相は生きてたのね~」


 のんびりと言ったエレアノーラに、レグルスは苦笑する。

「気づいてたのね」

「最初は騙されたけど。おそらく、認識変化系の魔法を使っていたのね」

 エレアノーラとエヴァンは認識変化系精神感応魔法の影響を受けにくい。そのため、途中で違和感に気付いたとしても不思議ではない。

「それで、グレンフェル侯爵家の方は?」

 レグルスが尋ねると、エレアノーラは神妙な顔つきになった。

「駄目ね。皆殺し。何とか、生きている人間がいないか探してみたんだけど……」

「……そう」

 レグルスも明るいクレアの顔を思い出す。あの子が、家族を含む屋敷の者全員を皆殺しにしたとは、信じがたい話だ。

 イングラム宰相も、クレアのことも、信じがたい話である。

 だが、理由を調べるのはやはり、レグルスたちの仕事ではない。


「……なんかこう、もやっとするわね」

「同感」


 エレアノーラとエヴァンもレグルスに同意した。












ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


申し訳ありませんが、1週間ほど『魔法特殊業務執行局』の投稿はお休みさせていただこうと思います。理由は単純。次の話ができていないからです。私事で申し訳ありません……。

第5章。最後の章になるかと思います。一週間後、またよろしくお願いします。

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