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失われた聖剣【8】

今回はエヴァン視点。













 時は少しさかのぼる。本来こういった調査に向いている接触透視能力サイコメトリーを持つエヴァンは特務局でお留守番……ではなく、クレアとルーシャンを連れて王宮書庫にこもっていた。こちらも調査である。


「犯人は王族ってロッドフォード教授が言っていたけど、どの範囲までなんだろうね」


 エヴァンが休憩がてら言った。ルーシャンとクレアも書籍から顔を上げる。

「エリーは傍流王族で男系だけど、王族には入らないんだろ」

「え、副局長って傍流王族なんですか!?」

 クレアが驚いた声をあげた。エヴァンとルーシャンはそんな彼女を見つめる。エヴァンは苦笑を浮かべた。


「クレア……もう少し、貴族系譜を勉強しておくといいよ」


 と言いながらエヴァンが持っているのは貴族名鑑である。これは現在爵位を持つ人間の氏名や領地、家族構成などが書かれたれっきとした公式本である。個人情報も何もあったものではないし、全てが正しいわけではないと言う微妙な本でもある。だが、貴族を調べるのなら最初にあたるのはこれだ。網羅的に貴族が載っているし、そこから穴を埋めていけばいいのだ。


 一方のクレアが調べているのは古代文字であるファース語をだ。文字には魔力がこもる。聖剣カリバーンに書かれていた文字について調べているのだ。


 さらに、ルーシャンは例のクローディア王女について調べている。不死関連、魔法戦争関連は範囲が広いので魔法研究所に丸投げしている。


「副局長、そう言えばカルヴァート公爵令嬢だって言ってましたもんね」

 クレアが思い出したように言った。エレアノーラは家族と折り合いが悪いらしく、あまり家名を名乗らないのだが、普通に『エレアノーラ・ナイトレイ』と本名で通しているので、おのずと出身はわかるのである。エヴァンが『エヴァン・クライヴ』を名乗り、ウェストン伯爵家の出身だとわかるのと同じだ。

「俺が言うのもアレだけど、変な奴だよなぁ」

 そう言うルーシャンは平民出身である。ちなみに。魔導師の家系なのだそうだ。


「まあ、エリーに限らず、傍流王族は多いんだけど……王族の魔力ってどんなのなんだろうね」


 ロッドフォード教授は『直系の王家の魔力』に聖剣カリバーンは反応するのだと言った。だが、その王家の魔力とやらがわからない。そのために傍流王族をあたっているのだが。

 強制的に話を転換したエヴァンに、ルーシャンは一瞬黙り込んだが、すぐに反応を返す。

「エリーには悪いけどさ。カルヴァート公爵が犯人ってことはねぇの」

「ああ。実は僕もそう思って聞いてみたんだよね」

「聞いたのか。鬼かお前」

 ルーシャンがツッコミを入れたが、家族と折り合いが悪いものの、エレアノーラが特に苦手としているのはどちらかと言うと妹であり、両親ではない。なので、問いかけには割とさらりと答えてくれた。いわく。


『お父様にそんな才覚はないわね。そんな謀略に手を出してるなら、私が気づいてるだろうし』


 散々な言いようである。エヴァンもいろいろひどいが、エレアノーラも相当な偏屈である。


 だがこれは、カルヴァート公爵が自分で蒔いた種なのだろう。人は、自分に向けられた感情と同じものを相手に返すと言う。カルヴァート公爵がエレアノーラを軽んじるから、彼女も父親を軽んじるのだろう。

「ま、確かにさぁ。カルヴァート公爵は高位貴族だけど、宮廷に官職があるわけじゃないし。時期的にそろそろ領地に帰ってる頃でしょ。あれ、まだいるのかな」

 エヴァンは首をかしげた。基本的に、宮廷に官職のない貴族は、社交シーズンが終わると領地に帰ってしまう。


「それこそ、副局長に聞けばいいのでは」


 クレアがツッコミを入れたが、エヴァンは首を左右に振る。

「いや。あの子、年単位で実家に帰ってないから」

「……どんなですか」

 まあ、それはクレアに同意だ。エレアノーラの実家嫌いはすでに病気の域に達している。

 エヴァンはぱたんと名鑑を閉じた。これ以上調べても何も出てこないだろうし、集中力が切れてきた。

「局長たち、調査終わりましたかね」

「どうだろうね。そんなに早くは終わらないと思うけど」

 クレアもぐっと伸びをして言った。エヴァンは苦笑し、遠回しにまだ終わっていないだろうと告げる。ルーシャンがため息をついた。

「ああ……俺も行きたかったけど、身分がなぁ」

 魔法史を研究するルーシャンらしい言葉だった。

「まあ、今回は急だったしね。ちゃんとした手続きを踏めば、ルーシャンだって入れるでしょ」

 国家魔導師と言うだけで身元がはっきりしているのだ。平民貴族は関係ない。今回は昨日の今日での許可だったから局長と副局長だっただけで、本来ならルーシャン自身が言うように、古代魔法に造詣のある人物を送り込むべきだったのだ。


 クレアとルーシャンも作業に飽きてきたらしい。魔導師と言うのは、自分の興味のあることにはのめり込むが、それ以外にはほとんど興味を示さないと言うことで共通している。何度も言うが、そんな魔導師たちに事務作業をさせるのが間違っているのである。だが、まあ、魔導師でないと理解できないことも多いのはわかる。


 とりあえず必要な本だけ借りて、エヴァンたち三人は書庫を出た。特務局の執務室へ向かっていると、思いがけない人物と遭遇した。


「あら。その制服は特務局の方ね」


 そう言ってニコリと笑ったのはミラナ王妃だった。エヴァンがその姿を見たのは初めてではないが、こんなに近くで対面するのは初めてだ。遠い親戚だと聞いていたが、確かにエレアノーラと何となく似ているかもしれない、と思った。長身で、線の細い美女だ。


「ご機嫌麗しく、王妃様」


 代表してエヴァンが声をかける。優しげな顔立ちのエヴァンは、女性に受けがいいのだ。ルーシャンは国家魔導師とはいえ平民出身であって挙動不審であるし、クレアはエレアノーラほどではないものの、変人侯爵令嬢だ。期待はできない。そう言う意味で、初めからエヴァンが相手をするしかないのだが。

「書庫に御用だったの? ええっと、ごめんなさい。なんと言うお名前だったかしら」

 覚えられていないのも想定内だ。レグルスやエレアノーラと違い、エヴァンは知名度があるわけではない。

「エヴァン・クライヴと申します。不肖ながら、レグルス局長の補佐官をさせていただいております。こちらはルーシャン、こちらの少女がクレア。二人とも、特務局員です」

 ついでに背後の二人も簡単に紹介する。名を呼ばれると、ルーシャンは笑みを浮かべて、クレアはがばりと頭を下げた。

「エヴァンに、ルーシャン、クレアね。よろしくね」

「こちらこそ。……王妃様も書庫に御用が?」

 尋ねると、王妃はええ、まあ。とうなずいた。

「ちょっと気になることがあって、調べてみようと思ったの。三人はこれから執務室に帰るのかしら。レグルスやエリーによろしくね」

 王妃にそう言われ、はい、とうなずきかけたところで突然、背後で魔法が使われるのを感じた。何かを振り払うように風魔法が起こる。クレアだ。


「え、何だ?」

「え、誰あれ」


 ルーシャンとクレアの言葉だ。クレアの疑問で、エヴァンはそちらに視線を向けた。クレアの視線の方向には、男が一人立っていた。見たことのない男だ。全身黒ずくめで、怪しい……まあ、特務局の正装も全身黒づくめだが。

 男の茶色の瞳が、王妃を映し出した。エヴァンはとっさに彼女と侍女を丸ごとかばうように後ろに押しやった。障壁魔法をくみ上げる。


「このっ。無視するな!」


 クレアが風魔法を発動させた。まっすぐ黒づくめの男に魔法は向かっていくが、直前で打ち消された。クレアはランダムに次々と様々な魔法を打ちこんだが、どれも直前で打ち消されている。


「っ! もーっ」


 見る限り、クレアはかなりの魔法の腕のようだが、かすりもしなかった。それが悔しいのだろう。奇声をあげていた。

 ちなみに、エヴァンはもちろん、ルーシャンもあまり戦闘向きの魔法をしていない。つまり、クレアしか攻撃魔法を使用できないと言う過酷な状況なのだ。


「……お前が異国の姫か」


 男が、王妃を見て言った。王妃が数歩後ろにさがるのがわかった。

「わ、私……」

 突然視線が合ってびっくりしたのだろうか。王妃が震える声で単語だけを口にした。彼女の手が胸元のネックレスを握った。

 その瞬間。魔法陣が発生し、金色の光が飛び出してきた。クレアが「あっ」と驚きの声をあげた。

「エリー!?」

 ルーシャンとエヴァンが同時に叫んだ。当たり前かもしれないが、魔法陣から出てきたのはエレアノーラだった。

 特務局の黒い正装をしている彼女は、手に持った金色のロッドをがんっ! と床にたたきつけた。エヴァンたちと男の間に現れた彼女はちらっと周囲に視線を走らせて言った。


「で、どういう状況?」














ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


どの作品でも言っている気がしますが、これもそろそろストック切れ……。

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