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失われた聖剣【7】














 仮に、聖剣カリバーンは不死の戦士を封じていたのだとして。どこでそれが行われたのか、と言う話になる。


「はーい。推測」


 エレアノーラが再び手をあげた。彼女はめげないようだ。

「ロッドフォード教授が、キャメロット城は封じの役割を果たしてるって言っていたわ。なら、この城の中心部にあるんじゃないかしら」

 こちらは先ほどとは違ってちゃんと根拠もあるので、男性陣にも納得できたようだ。

「なるほど。この城の中心って……」

 エヴァンが言いかけて、そして口をつぐんだ。

「玉座の間、ねえ。隠し扉くらいはありそうだけど」

 さらっと後を引き継いだのはレグルスだ。さすがに王族で、王位継承権もある彼は違う。いや、エレアノーラもたぶん、王位継承権は二ケタ代だけど。

「玉座の間をしらみつぶしに……楽しそうですねぇ」

 にやあ、とサディアスが笑った。だが、誰もそれには触れない。

「そもそも、調べる許可ってでるの?」

 玉座の間と言うのだから、その所在は国王ジェイラスに依存するのだろう。いくら王弟であるレグルスとはいえ、そう簡単に干渉できるところではない。

「……そう、ねえ。まあ、兄上に話はしてみるわよ。一応、他にも場所を考えておいて」

 レグルスの消極的な提案に、エレアノーラたちはうなずいた。
















 そのエレアノーラであるが、話し合いを終えた後、王妃ミラナに呼び出されて彼女の元に向かっていた。王妃の執務室を訪れると、ミラナは満面の笑みで迎えてくれた。

「お久しぶりね、エリー!」

「お久しぶりです、ミラナ様。帰還の挨拶が遅れましたこと、心よりお詫びいたします」

「本当ね。ジェイラスの所には行ったんでしょう? でもまあ、硬いことはいいの。入って頂戴」

 ミラナが微笑んで手招きした。エレアノーラは「失礼します」と入室する。

「レドヴィナはどうだった? 新女王は私のまたいとこだと言う話だったけど」

 そう言えばそうなのだ。血縁がややこしいので、そろそろ家系図が欲しい。レドヴィナ新女王ユリエはエレアノーラのみいとこであり、ミラナのまたいとこでもある。つまり、エレアノーラとミラナもみいとこなのだ。


 ……うん。ややこしい上に、遠い。


「何と言うか、かっこいい系の女性でした」

 そう。この言葉が無難だろう。ユリエはきれいとしか言いようのない外見で、その姿はどこか中性的にも見えた。性格はさばさばしているようで、どちらかと言うと男前のようだった。

「そうなの。仲良くなれた?」

「新女王の妹とは仲良くなりましたが」

 ラトカのことだ。彼女は今、何をしているだろうか。

「それは何よりだわ。ところで、その髪飾り、可愛いわね」

 ミラナがエレアノーラの髪飾りを見て言った。レドヴィナでレグルスにもらったものだ。何となく、いつもつけている。似合ってるわ、とミラナに言われ、エレアノーラは心もち頬を染めた。

「あら。もしかして、誰かからの贈り物だった? その人はエリーのことをよくわかっているのね」

 さらに追い打ちをかけられ、エレアノーラはぐっと押し黙って顔を伏せた。しばらくして熱が引いた後、彼女の方から切り出した。


「それで、ミラナ様。何かご用でしょうか」


 呼び出されたのだ。何か用があるのだろうと思って尋ねたのだが、ミラナは「いえ、特にないわよ」と微笑んでのけた。

「仕事中申し訳ない気もしたけど、あなたの顔を見ておきたかったのよねー。ジェイラスもレグルスも、何かたくらんでるみたいだし、それなのに私には教えてくれないし」

 じっとミラナがエレアノーラの方を見る。十中八九、それは宰相殺害事件に起因する聖剣騒動のことだろうが、ミラナの方まで話が言っていないのか。ならば、エレアノーラがしゃべることはできない。

「申し訳ありません。陛下が話されていないのでしたら、わたくしからお話しすることはできません」

「……そうよね」

 ミラナがはあ、とため息をついた。さすがに副局長を任されるほどのエレアノーラが、うっかり口を滑らせると言う期待はしていなかったようだ。


「ミラナ様。こちらを」


 エレアノーラはそんなミラナに向かって掌を差し出した。その手には、金色の細い鎖に通された赤い石があった。まあ、要するにネックレスだ。

「これは?」

 ミラナが不思議そうに赤い石を受け取って眺める。一見ただの石に見えるが、これは魔石だ。レドヴィナで安く仕入れたものを、レグルスが加工したものである。つまり、魔法道具なのである。通常や夫婦や恋人同士、親が子に持たせたりするタイプのものだが、ミラナに会いに行くと言ったら、レグルスから渡せと言われたのだ。なので、渡す。文句を言われてもエレアノーラのせいではない。渡せと言ったレグルスと、彼に指示したジェイラスのせいである。


「簡単に言うと、魔法道具です。まあ、ミラナ様の身を護るためのものだと思っていただければ」


 ただ護るだけではなく、発信機の役割もあるのだが、詳しいことは言わない。聞かれても説明できないからだ。

「へえ……」

「レグルス様からですので、詳しい話はレグルス様に」

「えっ? ああ、わかったわ」

 一瞬驚いた表情になったミラナは、すぐに微笑んでうなずいた。これで、エレアノーラの今回の任務はほぼ終わりである。あとはミラナの相手をして帰るだけだ。

 しかし、これがなかなか厄介だった。

「ねえ。もしかしてその髪飾り、レグルスからだった?」

「……」

 要するに、そう言う話になったのである。
















 根掘り葉掘りミラナに聞かれてぐったりした様子で特務局に戻ってkチアエレアノーラに、今度はレグルスから声がかかった。

「エリー。玉座の間の調査の件、許可取れたわよ」

 ニコリと笑うレグルスを、思わず睨み付けてしまう。いや、彼が悪いわけではないんだけれども。当然であるが、レグルスは戸惑った表情になる。

「エリー、どうかしたの? 私、何かしたかしら」

「……何でもないわ」

 完全にエレアノーラのやつあたりであるので、レグルスは悪くない。

「というか、よく調査の許可取れたわね」

 エレアノーラは自分の机に積まれている書類をより分けながら言った。レグルスがエレアノーラの席の背後の壁に寄りかかり、腕を組む。

「兄上も同行するけどね。兄上と私、あなた、メイシー所長、ティレット内務長官が同行するわ」

「護衛はつくの?」

「あなたとメイシー所長が護衛替わりね」

 レグルスに言われ、エレアノーラは肩をすくめた。彼女は確かに魔導師で、騎士の国の人間らしく剣も使えるが、別にそこまで強いわけではない。護衛替わりと言われても困る。


「……了解」

「明日行くわよ。そうそう。それと、玉座の間に行くから、正装でお願いね」

「……うそん」


 エレアノーラはげんなりした。隣の島のエヴァンが笑っている。

「ああ。重いからね、副局長の正装って」

「笑いごとじゃないわ……」

 全体として、特務局所属の魔導師の正装は衣装が整っていて見た目も良い。しかし、副局長となったエレアノーラの正装は、布がかさばるために動きにくいし重いのだ。

「着てたってるだけならともかく、調査なのに」

「まあ、おいそれと入れる場所じゃないから、仕方がないよね」

 エヴァンがあきらめろ、と言わんばかりに言う。クレアが首をかしげた。

「副局長の正装ってそんなに重いんですか?」

「重いってより、動きにくいって感じだけどね。動きが制限されて」

「局長の正装はもっとかさばるのよ。我慢なさい」

 楽しげに会話をするクレアとエヴァンの言葉を聞きながら、レグルスが苦笑してエレアノーラの頭を撫でた。子ども扱いされている気がする。


「でも、レグルス様は正装じゃないんでしょ」

「まあね」


 あっけらかんとして言ったレグルスを、立ち上がったエレアノーラが蹴った。軽くだから、痛くはないが。

「とにかく、そんなわけだからよろしくね」

「わかったわ」

 エレアノーラがうなずく。それから、局長室に戻ろうと壁から背を離したレグルスの手に書類を押し付ける。

「……わかる気がするけど、何、これ」

 尋ねたレグルスに、エレアノーラは真顔で言った。

「たまっている書類。あ、嫌がらせじゃないから」

 単純に、本当に仕事がたまっているだけなのである。レグルスはふう、と息を吐いた。

「あなたも、いい性格になってきたわねぇ」

 これくらいしなければ、特務局の副局長は務まらない、と思うエレアノーラだった。
















 そんなわけで翌日。かさばることで有名な特務局副局長の正装に身を包んだエレアノーラは、さらに手にロッドを持って玉座の間に来ていた。メイシー所長とティレット内務長官も儀式用の正装であるが、レグルスとジェイラスはやはり王族だからだろう。正装ではなく、多少いつもよりいい身なり、と言った感じだった。

「好きなだけ調査してくれ。にしてもエレアノーラ嬢。動きにくそうだな」

「……脱いでいいですか」

「マントくらいならいいんじゃないか?」

 さすがに哀れに思ったのか、ジェイラスがエレアノーラに言った。マントを外しても下には軍服に近い正装なので、多少動きやすくなるだけだ。こういうかしこまった格好は肩がこる。

 ロッドは武器になるのでこのまま持っていることにする。


 レグルスやメイシー所長が壁や床を探しているのを、ジェイラスとティレット長官が並んで眺めている。エレアノーラは玉座の間の中心で天井を見上げた。

「天井も八芒星なのですね」

 天井にも魔法幾何学に基づいた装飾が施されている。この城を設計した人はすごいと思う。改めて見れば、この城はすべて魔法学に基づいているのだ。

 エレアノーラはその場で腕を組んだ。

「あ」

 玉座の裏側に回っていたレグルスが声をあげた。四人がそちらを見る。

「エリー。ちょっとこっち」

 エレアノーラはレグルスに呼ばれて玉座の後ろに回り込んだ。何となくみんな後ろからついてくる。

「ここ、怪しいと思わない?」

「隠し扉かなぁ」

 エレアノーラもレグルスの手元を覗き込み、言った。明らかに不自然な切れ目があるし、たたいてみると音が違う。ついでに、わずかながら魔力が漏れている。

「カリバーンと同じで、王家の魔力に反応するのでは?」

「私はただの王弟だからねぇ。兄上」

「私か」

 突然呼ばれたジェイラスが驚いた表情になる。当然ながら、国王たる彼も魔導師であり騎士だ。レグルスに示された辺りを、ジェイラスが触れる。がこっと音がした。

「あたり」

 レグルスが微笑んだ時、エレアノーラの胸元が熱くなった。熱くなった原因のネックレスを引っ張り出す。それは、双子石のネックレスで、片方を王妃ミラナに渡したものだった。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


またいとこまでならともかく、みいとこなんて普通は会わないですね。


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