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エマージェンシー【3】












 エレアノーラが提出した報告書を囲みつつ、レグルス、エレアノーラ本人、エヴァンの三人で作戦会議だ。


「アヴァロン島には手がかりなしか」

「地元は観光地だし、もう少し閑散としててもいいくらいなんだけど、人も多かったし」

「なら、それに紛れて逃げちゃったのかしら?」


 エヴァン、エレアノーラ、レグルスの順である。レグルスの意見は的を射ている。


 観光地であると言うことは、人が多い。犯罪者はその人の波に紛れて逃げればいいのだ。魔導師は、普通の人間と容姿は一緒なのだから。

 アヴァロン島は歴史ある島で、ログレスの初代国王――ログレスの君主は騎士王とも呼ばれるが――が生まれた場所でもあるのだ。遺跡が多く、重要な古い遺跡は立ち入り禁止。隠れるのにこんなに都合の良いところはないだろう。一般人は絶対に入って来れないのだから。

 今回、エレアノーラは自分の権力を駆使して遺跡を捜索しまくったが、クマに遭遇しただけに終わった。子供を助けられたので、まあ、よしとするが。


「それにしても、殺人事件が起きたのに普通に観光客がいるんですね」


 エヴァンが言うと、レグルスがため息をついた。


「情報統制がなされているのね。アヴァロン島は観光で成り立っているのだから、観光客がいなくなれば立ち行かなくなるわ」


 観光地としては仕方がないのかもしれないが、情報隠ぺいは重罪である。ついでに言えば、国家魔導師が殺された、と言うことは国民に混乱を招きかねないので、伏せられている、と言うのもある。国家的に情報を隠ぺいしているので、ダメか。

 それでも、殺人事件が起きたことは、ゴシップ紙がもう情報を入手しているだろう。これから徐々に情報が拡散され、観光客が減る可能性がある。地元が隠しても、都会で噂になるのだから意味はないのかもしれない。

 情報が広まれば、確実に政府に対しても批判が来るだろう。情報を公開していないのだから、当然だ。


 まあ、それの対応をするのは特務局ではないので、置いておこう。話を進める。


「とりあえず、犯人はすでにアヴァロン島を脱出していると考えていいだろうね」

「そうよね。なら、今どこにいるか、だけど」

 エヴァンとエレアノーラは顔を見合わせる。この二人の意見は一致していた。

「あら、何々? 二人はどう考えているの?」

 代表してエレアノーラが答える。


「私たちは、この城を目指しているのではないかと考えています」


 この城。つまり、キャメロット宮殿。レグルスがうなずいた。

「私も同意見だわ。免許とブレスレットが無くなっているものね」

 国家魔導師であることの身分証明、魔導師免許とブレスレッド。ブレスレッドの色は一律シルバー。そして、一握りの魔導師しか作れない文様がそのブレスレッドには刻まれている。複製は不可能である。この二つを合わせて身分証明となるのだ。

 この二つがあれば、宮殿にすら入ることができる。本人であることを示すため、サインが必要であるが、とにかく簡単に入れるのだ。

「殺された魔導師の名を、少なくとも宮殿内には周知しておくべきですね」

 エヴァンが言った。みんなが知っていれば、その名で宮殿に入ろうとした人間を怪しむことができる。だが……。


「問題は、国家魔導師である、と言うだけでみんな信用しちゃうことなのよね」

「局長。やっぱり免許に似顔絵か個人の紋章をつけましょうよ。判別用に」

「その技術、とっても難しいのわかってる?」

「わかってますけど」


 犯罪防止には役立つ。エレアノーラの提案は渋られたが、免許とブレスレットを見ただけで信用を得られるのはどうかと思うんだ。

「でも、確かにエリーの言うとおりだよね。本人にしか反応しない魔法陣を組み込むとか」

 余計に難易度が上がっている気がするのはなぜだろうか、エヴァン。

「どっちにしても、技術と予算の問題よね」

「局長、何とかできないんですか。王弟殿下でしょ」

「無理」

 即答だった。まあ、現在の国王陛下は話の分かる人だが、その周囲の人すべてが話が分かるとは限らない。王弟でありながらオネエであるレグルスを嫌う人も多いから。

「とりあえず、警備担当の衛兵たちには通達しておきます。あと、研究所の皆さんにも声をかけておきましょうかね」

 エレアノーラが簡単にまとめる。この通達をするのは彼女の仕事だ。レグルスが「お願いね」と微笑んだ。

「目的がわからないから、対策しようがないよね」

「まあ、それは仕方がないわね」

 エヴァンとエレアノーラは顔を見合わせてため息をついた。レグルスは微笑み、二人を交互に見ながら言った。


「二人とも、相変わらず仲がいいわね」


 まあ、八年来の腐れ縁なので、仕方のない話ではあるだろう。


 突然警報が鳴り響き、絶賛決済中だったエレアノーラは顔をあげた。


「何これ」

「警報だね。何かあったみたい」

 隣の島のエヴァンが答えてきた。いや、それはエレアノーラにもわかる。

「エヴァン。私、ちょっと様子見てくるわ」

「はーい。できるだけ早く帰ってきてよ」

「わかってるわ。局長! 私、ちょっと出てきますね!」

「わかったわー! 気を付けるのよ!」

「はーい」

 半分扉が開かれた局長室からレグルスの声が聞こえてきた。それにエレアノーラも大声で返事をし、彼女は眼鏡のブリッジを押し上げつつ事務室を出た。

 この城内の警報は魔法によるものだ。魔法によって、警報が鳴っている場所が表示される。その場所にエレアノーラは向かった。


「すみませーん。どうしましたか?」


 エレアノーラが駆け寄ると、集まっていた近衛騎士が振り返った。宮殿害を守っているのは衛兵であるが、宮殿内を守っているのは近衛騎士である。


「ああ、特務局の」

「いえ、誤報みたいで」

「……誤報?」


 エレアノーラは首をかしげた。近衛騎士たちはうなずく。

「ああ。俺たちも急いで駆け付けたんだけど、何もなくて」

「うーん……」

 エレアノーラは壁紙の下に描かれている魔法陣を確認するように壁に触れた。エレアノーラには異常は確認できなかった。

「……一応、魔法研究所の方に調べるように頼んでおきます」

「ああ、頼む」

「はい」

 エレアノーラは近衛騎士たちにうなずくと、耳元に触れた。そこにある青い石のはまった銀のイヤリングに触れる。これは魔法道具であり、通信道具なのである。

「メイシー所長ですか? 特務局のナイトレイです。お願いしたいことがあるんですが」

『ああ、はい。ナイトレイ副局長ですね。何でしょう?』

 落ち着いた男性の声だ。王立魔法研究所のメイシー所長である。

「ええ。三階廊下の警報魔法陣なのですが……」

 エレアノーラは魔法陣を調べるように頼むと、所長は快く了承してくれた。いい人である。レグルスも研究所に所属していた時は世話になったらしい。

「じゃあ、すぐに研究員が調べに来ると思います」

「おう、ありがとうな、お嬢ちゃん」


 年かさの近衛騎士に気さくにそう言われ、エレアノーラは苦笑いを浮かべた。しばらく待っていると、黒マントの魔導師がやってきた。怪しいと言うことなかれ。これが正装なのである。


「お待たせしました」

「ここなんですけど」


 エレアノーラがその魔導師に魔法陣を示すと、魔導師は早速調べだした。ほどなくして「異常なし」との判断が下される。

「じゃあ、なんで警報が鳴ったんだ?」

「まあ、誰かが鳴らしたんでしょうね」

 異常事態に鳴らす魔法警報であるから、人が鳴らすこともできる。役人たちは徽章が、外から来客として宮殿に上がった者は宮殿に入るときに渡される魔法石が魔法陣を発動させるカギとなっている。

 もちろん、いたずら目的で鳴らすものは少ないが、いないわけではない。今回もその一種だと判断した。


 事務室に戻ったエレアノーラはエヴァンとレグルスにそう報告した。






 この時はそう思ったのだが、それが何度も続くといたずらではなく作為的なものを感じるのはなぜだろう。





 一度目の誤報から五日。今回で警報が鳴るのは七回目である。すでに各省庁から苦情が上がってきていた。

「しつこいいたずらだなぁ」

 そう言ったのは初回の時に現場にいた年かさの近衛騎士だ。エレアノーラも眼鏡を外し、眉間を揉む。もう一度眼鏡をかけた。

「警報を止めようにも、止めたら止めたで問題ですしね」

「非常時に鳴らすのが警報だからな」

 同意するように近衛騎士がうなずいた。しかし、このままでは本当に警報が鳴った時に、いたずらだと思われかねないだろう。むしろ、それが狙いなのか?

「まあ、局長と一回相談してみますか」

 エレアノーラはそう言うと、事務室の方に戻った。


「ただいまー。局長いますー?」

「いるわよ~」


 レグルスはエヴァンと相談中だったらしく、彼の隣からひらひら手を振っていた。

「仕事中?」

 エレアノーラはレグルスと反対側からエヴァンの手元を覗き込む。どうやら、何かについて悩んでいた様子だ。

「何かあったの?」

「……実は、今日も警報が鳴ったでしょ。そうしたら、うちに苦情がものすごく来たんだよね。と言うわけで、警報対策を考えようと思ったんだけど……本末転倒じゃないかって、局長と話してたんだ」

 なるほど。それはいいタイミングだ。まあ、エレアノーラにとっては、だが。

「私が相談したいこともそれなのよ。原因を究明しないとまずいと思うのよね」

「オオカミ少年ならぬ、オオカミ警報になるわけか……」

 エヴァンが顔をしかめた。オオカミ少年は『オオカミが出たぞ』と叫びまくって街中を混乱させ、最後には本当にオオカミが出たのだが、嘘をつきすぎていたので信用されなかった、と言う話である。

 この状況は、それに似ている。警報が鳴り続け、それが誤報であった、と言うことが続くと、最終的に誰も警報を信用しなくなる。


 それが狙いなのか、もしくは、警報を調べるためにすべての警報を止めることが目的なのか。それは判然としないが、どちらも避けたいところである。


「でも、一度調べるしかないわね……。徽章を調べれば、誰が警報魔法陣を使ったかはわかるけど」


 と、レグルスも首をかしげる。ちなみに、それらの仕事をするのは魔法研究所になる。特務局は魔法関連を総括する事務職、魔法研究所は技術職になるのだ。

「メイシー所長には悪いけど、頼むしかなさそうですね」

 エレアノーラが苦笑気味にそう言った。












ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


ちなみに、エレアノーラとエヴァンが上司レグルスに対してため口なのは、私が2人がレグルスに対してため口で話している、ということに気付いたのがだいぶ遅かったせいであります。そのため、これ以降もため口です。まあ、レグルスも気にするような人ではないでしょう。エレアノーラもエヴァンも公私の区別はついているし、そこを気にするなら、自分のオネエ言葉を直さねばなりませんから(笑)

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