表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/49

失われた聖剣【4】















 早速、特務局のレグルスの元に目録が届けられた。エレアノーラとエヴァンも巻き込み、目録をめくる。


「というか、この目録を調べても意味ないんじゃないの? これ、陛下が即位したときに作られたやつでしょ。聖剣カリバーンはクローディア王女が最後の所有者で、それ以降は行方不明なんだから」


 エヴァンの冷静なツッコミが入った。確かに、クローディア王女は先の大戦……つまり、今から百年ほど前の魔法戦争時の人物だ。それ以降行方不明な剣なのだから、最新の目録に載っているわけがない。

「……なら、手っ取り早く確かめましょうか。エヴァン」

「はいはい。何ですか」

 レグルスに呼ばれ、エヴァンは適当に返事をした。エレアノーラは立ち上がった二人を見上げた。

「とりあえず、これを持って」

 エヴァンがレグルスから例の剣を受け取る。代わりにレグルスは会議室に行く前にエレアノーラとの仕合で使っていた剣を手に取った。

「斬ってみて」

「日頃の恨みを込めて?」

「……こめてもいいから」

 エヴァンが思い切り剣をふりおろした。だが、どちらの剣もびくともしない。エヴァンが顔をしかめた。

「これで何がわかるの?」

「まあ見てなさいって」

 レグルスとエヴァンが剣を交換する。エヴァンが持つ普通の剣に、レグルスは例の剣を軽く当てた。からんと、切られた刀身が落ちる乾いた音がした。


「……魔力の性質の違い?」

「とても魔導師らしい答えだけど、違うわね」


 エヴァンのどこかとぼけたつぶやきに、レグルスは苦笑してそう言った。

「この剣は王家の血に反応するのよ。しかも、王族だから必ず抜くことができて、扱えるわけではない。それが、ログレスの聖剣と呼ばれるものだわ。だから、少なくともこれは聖剣であると言うことね」

「何その判別方法」

 簡単ではあるが、王族ではないエヴァンとエレアノーラには釈然としない判別の仕方だ。

「でも、聖剣であることはわかっても、これがカリバーンかはわからないでしょう? だって、カリバーンはクローディア王女と共に姿をくらましているんだから」

 エレアノーラが口をはさむ。百年ほど前の、魔法戦争時代を生きた王女、クローディア。現在の国王ジェイラスから数えて四代前の国王の娘にあたる。やたらと伝説だか逸話だかが多い人で、戦争で活躍したのは確かだが、最終的に彼女がどうなったのかはわからない。

 そのため、失われた聖剣カリバーンは、『クローディアの剣』とも呼ばれている。


「……そこなのよねぇ。どこから出てきたのかしら、これ」


 レグルスが手で剣をもてあそびながら言った。彼の手が念写文字が描かれた刀身をなでる。

「『汝、異邦の者よ。英雄の地を汚す者よ。速やかにね』……どういう意味かしら」

「そのまま考えるなら、外国人出て行け、ってことだよね」

「……」

「いや、エリーが出て行けって言われているわけじゃないからね?」

 直訳したエヴァンの言葉を聞いて、エレアノーラは思わず沈黙。エヴァンがあわててフォローを入れた。エレアノーラは微笑み、「わかってるわ」と答えた。


「外国人排斥運動かしら。それでも、宰相を殺す意味が分からないし」


 レグルスが首をかしげる。今どき、外国人排斥運動などナンセンスだ。この国の約半分の人間が、他国の血を引いているのだから。エレアノーラだけが珍しいわけではない。


「わからないことが多すぎるね。大体、調査に関しては魔法研究所の職分じゃないか」


 エヴァンが伸びをして言った。エレアノーラが苦笑する。

「そのあたりの線引きも微妙だけどね。聖剣は王族しか使えないんだから、レグルス様が調べたほうが効率がいいわ」

「あまり得意じゃないんだけどね。私は開発系の研究者だし」

 そうは言っても、解析は魔導師の基礎だ。レグルスもできないわけではなく、やったとしたらむしろ良い結果を出してくれるだろう。レグルスだから。


「というかアレだね。ルーシャンを呼ぼう。よく考えたら彼、古代魔法が専門でしょ」


 エヴァンが言った。レグルスが「いいわね」とうなずく。

「この剣が聖剣なら、古代の魔法がかかっているはずだわ」

 というわけで、ルーシャンを招喚した。しかし、聖剣と思われる剣を見たルーシャンは「わからん」と言った。

「確かに古代魔法がかかっていると思いますが、詳しいことはわかりませんね。そもそも、基礎になってる魔法が強力すぎるんですよ。局長やエリーみたいな馬鹿魔力じゃない限り、こんなもん解析できません」

「……」

 直接的に馬鹿魔力、と言われたレグルスとエレアノーラは目を見合わせた。確かに、二人の魔力は特務局の中でもずば抜けているし、古代魔法は強力だ。魔法を解析するには、それなりの魔力がいる。基本的に、自分を越える魔力を持つ魔法は解析できないとされるのだ。それに、パッと見ただけでこの剣には強力なプロテクトがかかっていることがわかる。


「……まあ、聖剣なんて言うけど、ようは魔法剣と一緒だものね」


 レグルスが言った。魔法剣とは、魔力のこもった剣のことだ。魔剣、とも呼ばれるが、印象が悪いので魔法剣と呼ばれることが多い。

 聖剣は、強力な魔法が込められた伝説にもなりうる剣と言うだけで、魔法剣と同じだ。

「なら、鍛冶職人に持って行った方がいいのかしら」

 そう言いつつレグルスは首をかしげた。エヴァンが「やっぱり局長が解析すればいいんじゃないの」と言っている。魔力的に考えてもそれが好ましい。

「魔法道具と魔法剣は違うわ」

 レグルスは苦笑気味に言う。結局、解決策が見つからない。


「それじゃあ、視点を変えればいいんじゃないの。その剣、一体どこから出てきたのかしら」


 エレアノーラが口をはさむ。情報、と言えばエヴァンであるが。

「うーん。僕でもわからないんだよね。強力なプロテクトがかかってるし、局長の言うとおり聖剣だとは思うんだけど」

「じゃあ、ログレス王国に存在すると言われる聖剣っていくつあるの?」

 これにはレグルスが答えた。


「有史以来で数えるなら、全部で七つかしら。現存するのは四つ?」


 現在国宝として保管されている聖剣の名を、レグルスはつらつらと述べた。やはり、魔導師的には古代魔法のかかった強力な剣は気になる。

 聖剣カリバーンは失われた剣の一つとしてレグルスは名をあげた。

「その四つはちゃんと保管されてるんでしょう。なら、失われた三つのうちのどれかがその剣なんでしょ」

 エレアノーラがこともなげにそう言うと、男性陣から感心した声が上がった。

「わあ。エリー、論理的だね」

「言われてみればそうね」

「伊達に天才魔導師と呼ばれてるわけじゃないな」

「え、そんなこと言われたことないよ」

 エヴァン、レグルス、ルーシャンの順の発言であるが、ルーシャンの発言にエレアノーラは首をかしげた。だが、そこはスルーされる。

「カリバーン以外の二つの剣は、かなり昔に一つは湖に、もう一つは火口に投げ込まれたらしいから、この剣はカリバーンって事かしら」

「……たぶんね」

 エレアノーラは深く追求せずにうなずいた。湖は英雄譚でよく聞くが、火口に放り込まれたってどういうことだろう。


「それじゃあ、はい、エリー」

「ん?」


 聖剣カリバーン(仮)を差し出され、エレアノーラは思わず手を差し出してそれを受け取った。受け取ってから「ん!?」と驚きの声を上げる。


「え、なに!?」

「それ持って、魔法学術院に行ってきなさい」

「なんで!? というか、どうして私が持たされるの!?」

「あなたなら危なくてもすぐここに帰ってこられるでしょ」

 レグルスにあっさりと言われ、エレアノーラは沈黙した。ここでも転移魔法か……。

「それに、一応あなたも傍流王族だし」

「……や、そりゃそうだけど、何代前だと思ってるのよ。それこそクローディア王女より前の話だよ」

 エレアノーラの当然の指摘はやはりスルーされる。カルヴァート公爵家が王族の血を引くのは、数代前、公爵家に女児しか生まれず、王子を婿養子として迎えたことがあるからだ。そのため、カルヴァート公爵家は傍流王族と言っても男系の傍流王族なのである。

「エリー、局長。話しそれてるから」

 エヴァンが軌道修正を試みる。レグルスとエレアノーラの会話はたまに話がそれる。


「ああ、そうか。とりあえず、この剣は私が預かると言うことで納得したと言うことにして、あ、後で委任状書いてね」

「わかったわ」

「それで、なんで魔法学術院?」


 魔法学術院はエレアノーラやエヴァン、ルーシャンの母校だ。レグルスもこの学術院で研究していたこともあるのだと言う。だが、彼は基本家庭教師組だ。


「あれだろ。エリーは専門がちょっと違うから世話にならなかったかもしれないが、学術院にはロッドフォード教授がいる」


 ルーシャンが言った。エレアノーラもその名前は聞いたことがあった。

「ロッドフォード教授ってあれでしょ。先王陛下の姉の夫だという」

「そっちかぁ」

 エヴァンが笑った。レグルスも「私の義理の伯父と言うことね」と言って微笑んだ。エレアノーラは少しむっとしたが、それは表に出さずに言う。


「有名な魔法史研究者でしょ。それくらいは知ってるわよ」


 じゃあなんで先王の姉の夫、と言うのが先に出てくるのだと言われても困るのだが。

「そう言うこと。だから、ちょっと話を聞いて来てちょうだい。聖剣カリバーンについてと、クローディア王女について」

「……」

 にっこりと笑ってレグルスに言われ、エレアノーラは再び沈黙した。彼女がこの剣を持っている以上、彼女が行くことは確実だ。

「……レグルス様も一緒に行くの?」

「ご期待に沿えなくて申し訳ないけど、エヴァンかルーシャンを連れて行きなさい。私は学術院の卒業生じゃないもの」

 つまり、学術院出身の二人のうちどちらかを連れて行けと言うことだ。エレアノーラは同僚二人と見つめ合い、しばらく沈黙した。














ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


まさか聖剣論争で1話使ってしまうとは……。

さらっとエヴァンの黒い発言(笑)というか、部屋のエアコンが不穏な音を立てているのが気になる……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ