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エマージェンシー【2】

本日2話目。












 キャメロット宮殿には特務局の事務室もあるが、王立魔法研究所も存在する。王立魔法研究所は魔法省の下部機関で、こちらは純粋に魔法を研究することに重きを置く。有事ともなれば魔導師が駆り出されることもあるが、基本的に引きこもって魔法の研究をしていることが多い。えてして、魔導師は研究好きなのだ。


 特務局の局長は、この魔法研究所から派遣されてきた魔導師だった。そのため、研究が好きだ。もはや研究オタクと言っていいかもしれないレベルだ。研究に熱中すると引きこもるのである。いつもはエレアノーラが引っ張り出しに行くのだが、彼女が三日ほど不在だったため、今日も引きこもっているらしい。


 だが、引きこもっているどころではなくなっていた。


 実験室と呼ばれる研究所の研究室があるのは、特務局の事務室からさらに離れた、宮殿の別館である。一応、室内の廊下でつながっているが、全く別の建物だ。つくりが丈夫なのである。理由は簡単で、魔導師どもが実験に失敗して爆発事故などをよく起こすからだ。

 ここに、局長の研究室がある。その研究室から黒煙が上がっているのを見て、エレアノーラとエヴァンは同時に叫んだ。



「局長ぉぉぉぉおおっ!」



 研究室の扉が開き、もくもくと黒い煙が一気に廊下に充満する。その中に、人影が現れた。エレアノーラは魔法で黒い煙を払うと、エヴァンと共にその人影に突撃した。

「何やってるんですか! 懲りないんですか!」

「あなたが何かやらかしたら、こっちに苦情来るんですよ!」

 黒いすすで真っ黒になったその人影は、何度か目をしばたたかせた後、ニコリと笑った。

「あら、やだ。私の所に何も言ってこないと思ったら、エリーとエヴァンの方に言っていたのね」

「あんたが何言っても懲りないからでしょ!」

「わかってるじゃない、エリー」

 つん、と頬をつつかれるが煤がつくからやめてほしい。長身のエレアノーラが見上げるほどの長身の男。今は真っ黒だからわかりにくいが、髪は元から黒く、目の色は紫がかったグレー。涼やかな目元で、泣きぼくろが何とも色っぽい中性的なハンサムが、特務局長レグルス・ランズベリーである。ちなみに二十八歳。王弟。


 二十八歳で未婚で王弟でこれだけのハンサムとくればモテそうなものだが、彼にはいくつか欠点がある。



 一つ目。極度の研究オタクであると言うこと。



 二つ目。それに伴い、引きこもりであると言うこと。



 三つ目。これが最大の理由であるのだが、彼は――――。



「そんなに怖い顔して。可愛い顔が台無しよ、二人とも」



 そう。オネエなのである。慣れてくれば大したことはないが、この中性的な整った顔でこれをやられると微妙な気分にはなる。ほら。驚いて駆けつけてきた研究所の魔導師や衛兵が引いてるもん。

「い・い・か・ら! 局長はシャワー浴びて着替えてきてください!」

「部屋ん中は私とエリーで何とかしておきます!」

 とっとと行け、と追い払うと、レグルスは笑いながら「よろしくね~」と歩いて行った。二人は一気に脱力する。

「だ、大丈夫ですか?」

 衛兵が心配そうに声をかけてくるが、これくらい日常茶飯事である。

「大丈夫です。それより、お見苦しいものをお見せしました」

「いえ……驚きましたが」

 エヴァンの謝罪に、衛兵は苦笑いを浮かべて続けた。

「王弟殿下がその、オネエである、と言う噂は本当なのですね……」

「……残念ながら」

 口を閉じていればただの美形なのに、とは、誰が言ったのだろうか。まあ、同意せざるを得ないが、口を閉じていれば、と言うところがエレアノーラにはどこか突き刺さるようなものがある。


 まあ、それはともかく、研究室の中を何とかしなければ。まずは換気。こういう時に、魔法をフル活用すると掃除が楽だ。

 まず、魔法で気流を起こして黒い煙と煤を窓から外へ出した。その際にエレアノーラたちも少しすすけたが、後で払えばいいだろう。

 続いて壊れた実験器具の除去。と言うか、レグルスは一体何の実験をしていたのだろうか。

「火薬っぽいかな」

「火薬? 魔法があるのに?」

「魔法ばかりに頼ってたら、もし魔法が使えなくなったとき対応できないでしょ」

「確かに」

 エヴァンの言葉にうなずきつつ、焦げた本をどかす。完全に灰にはなっていないので、うまく修復魔法をかければ元に戻るだろう。

「お待たせ~。あら、エリー、エヴァン、ありがとう。すっかりきれいね」

 こぎれいになったレグルスが戻ってきた。こうしてこぎれいな格好をしていると、彼は本当にハンサムだ。まあ、修飾語に『残念な』がつくけど。

「どういたしまして。局長。いい大人なんですから、室内でできる実験と外でやる実験の区別くらい付けてください」

 エヴァンが指摘すると、レグルスはころころと笑って「ごめんなさいね」と言った。


「行けるかと思って」

「失敗するやつは、たいていそう言うんです」


 これは、エレアノーラとエヴァンの言葉がかぶった。


「それより」


 エヴァンの言葉で、エレアノーラは彼と一緒にレグルスの腕を拘束する。エヴァンは右腕、エレアノーラは左腕を拘束。


「ここで会ったが百年目です。仕事が溜まっています」

「副局長では対応しきれないこともあるんです。研究もいいですけど、こっちの仕事が終わってからにしてください。私がいないと仕事もできないんですか。ダメ人間ですか、局長は」


 そんなことを言いながらずんずん廊下を進んでいく。レグルスはエレアノーラどころかエヴァンよりも背が高いが、二人の勢いに引きずられている。

 ともすれば不敬罪であるエレアノーラの言葉に、レグルスは「そうねぇ」と何故か同意を示す。

「私、エリーがいないとだめかもしれないわ」

「はいはい。悪かったですね。今のは冗談ですよ」

「……エリーのいけず」

「はいはい」

 局長の戯言は聞き流すに限る。これが、特務局の合言葉である。


 なんというか、これを見てわかると思うが、エレアノーラとエヴァンはレグルスのお守りが主な仕事になる。特に、エレアノーラは全体的に力づくであるが、必ずレグルスを連れ出せる。その点が評価されて副局長になったと思われる。

 何しろ、副局長なら普段は出張などない。基本的に宮殿にいる。彼女の魔法のことを考えると才能をつぶしているような気もするが、レグルスが仕事をしない方が被害が大きい。

 そんなわけで、レグルスを引きずり事務室に入る。局員たちが歓声をあげた。


「局長来た!」

「やっと仕事が終わる……!」


 切実すぎる叫びだった。エレアノーラはエヴァンが扉をあけ放った局長室にレグルスを引きずり込みながら言った。

「局長。もう少しまじめに仕事しましょうよ」

 執務机に付きながら、レグルスは言った。

「私だってやろうと思ってるのよ? でも、研究を始めたら止まらなくて」

「魔導師の宿命ですが、局長のは行きすぎです」

「それ、兄上にも言われたのよ」

 レグルスの兄って、国王陛下じゃないか。そう言えば、レグルスはもともと王立魔法研究所にいたが、研究に没頭し過ぎてこれはダメだと判断され、兄王に特務局に配属させられたと聞いたことがある。まあ、エレアノーラが入局する前の話だから、詳しいことはよくわからないのだが。


「こっち、局長印が必要なものです。大体まとめておきましたから、目ぇ通してください」

「こっちは私では判断しきれなかったものです。それと、後で私の報告書も持ってきます」

「はーい。二人とも、まじめね」


 エヴァンとエレアノーラがそれぞれ抱えた書類をどん、と執務机に置くと、レグルスはそんな事を言った。エヴァンとエレアノーラは同時に言う。


「あなたが仕事しないからですよ!」


 と。レグルスは肩をすくめた。


「わかったわ。ちゃんとやるから許して。ね?」


 中性的顔立ちとはいえ、男であるレグルスが小首をかしげても反応に困るだけだ。エヴァンとエレアノーラはとりあえず彼をスルーした。

「エヴァン。コーヒー飲む?」

「ああ、いるいる」

「局長もいります?」

「いるー」

 エレアノーラはとりあえずエヴァンとレグルスの分のコーヒーを準備した。ちゃっかり自分の分も用意しているのを見て、局員たちからブーイングが上がる。


「ああ! 副局長、俺たちもコーヒーが欲しいです!」

「あんたら自分で入れろ! 私はこれから報告書を書くんだから!」


 そう言いながらも、ポットにコーヒーを大量にドリップしてストックしているエレアノーラである。局員たちはそれぞれマグカップにコーヒーを淹れに来た。

「はい、エヴァン」

「ありがとう、エリー」

 まず、通り抜けるついでにエヴァンにコーヒーを渡す。局長室に入り、レグルスにコーヒーを渡した。彼はさすがにちゃんと仕事をしていた。

「局長、コーヒー置いておきますから」

「はーい。ありがとうねぇ、エリー」

「局長が逃げないでくれるならこれくらいは」

 コーヒーを淹れるくらい、レグルスを引っ張り出す労力に比べたら大したことはない。レグルスは何故かうふふ、と笑う。その笑い方にも慣れてしまった。なれってすごい。

「素直じゃないわねぇ、エリーは」

「割と素直な方だと思いますけど」

 エレアノーラがそう反論すると、局員たちが一斉に首を左右に振った。何故だ……。












ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


基本的にこんな感じのノリでいけたらなぁと思っていますが、時々シリアスが混じるかもしれません。


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