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女王の国【4】

ブックマーク登録がついに3桁に乗りました。みなさん、ありがとうございます!












 自分で言うだけあって、ナシオもダンスがうまかった。レグルスとも踊りやすかったが、彼とも踊りやすい。ただ、ナシオが相手だと身長差が少し足りない。これはエレアノーラの背丈が高すぎるせいであるが、レグルスとの方が踊りやすかった気がする。

 レグルスもナシオも、洗練された動きを見せている。たとえるなら、レグルスは優美、ナシオは律儀、だろうか。ナシオの動きは基本に忠実すぎる気がした。


「実は、一目ぼれだったのですよ」


 少し照れながらナシオが言った。エレアノーラは「そうなのですか」と小さく返答。そう言えば、『告白する前に振られた』とか言っていたな。やはり、踊りながら喋れるほどナシオはリードがうまい。

「ログレスでは、結局何も言えずにこちらに来ることになってしまって、後悔しました。しかし、レドヴィナの地で会うことができて、とてもうれしかったのですよ」

 そう言ってナシオは微笑んだ。エレアノーラはやはり「はあ」と木のない返答をする。

「ですから、後悔しないようにあなたに思いを伝えようと思ったのですが……」

 ナシオの視線がエリシュカ女王に捕まったレグルスの方に向いた。ナシオは少し悲しげな表情を浮かべる。


「レグルス殿下が相手なら、勝てるわけがありませんね」

「……」


 確かに、顔面偏差値は高いが、レグルスはオネエだぞ。その、女性がそう言う対象になることがあるのか微妙なところではないか?


 まあ、そんなことは外側から見ていればわからない。だから、エレアノーラはあいまいに微笑むにとどめた。

「お付き合いいただき、ありがとうございました。またお話しできるのを楽しみにしています」

 曲が終わり、ナシオがエレアノーラの手を取りそう言った。エレアノーラが「ありがとうございました」と言い切るかどうかといううちに、彼はエレアノーラの指にキスをした。エレアノーラはびくっとした後、頬を赤くした。こういう対応になれていないのだ。

 ダンスフロアから離れるナシオを見送り、エレアノーラは頬を両手で押さえた。一度ギュッと目をつむり、それからレグルスを探そうと身をひるがえした。しかし、その前に声をかけられる。


「お嬢さん、一曲お付き合い願えませんか」


 もう定型句である誘いの言葉が聞こえた。しかも、超絶棒読みだった。だが、エレアノーラが話しかけられているようなので振り返ってみる。



 誰だ?



 今度は知らない人だった。黒髪に翡翠色の瞳の気の強そうな青年だった。理知的な顔立ちで、眼鏡があれば完璧なのに、と何となく思った。かなりの長身で、レグルスと同じくらいの背丈があるのではないだろうか。


 そして、エレアノーラはひと目見て彼の正体を察した。フィアラ大公の息子だ。否定できないレベルで、フィアラ大公に似た外見をしている。これで関係ないと言われても、誰も信じない。


「……」

「……」

 数秒、無言で見つめ合っている間に音楽が始まった。エレアノーラははっとし、手を差し出した。

「よ、喜んで……」

 声が少し震えていたが、青年は気にしなかった。そのままダンスフロアに誘導されて、踊りだす。

「名乗らずに申し訳ありません。フィアラ大公子息オリヴェルと言います。新女王ユリエの兄にあたります」

「あ、私はカルヴァート公爵長女エレアノーラです。今回は、ログレス王国のレグルス様のパートナーとして同行しています。妹君の戴冠、おめでとうございます」

「ありがとうございます」

 以降、会話は途切れる。エレアノーラも、こういう相手に何を話せばいいのかわからない。オリヴェルも饒舌な方ではないようだ。フィアラ大公とユリエに会っているが、あの二人とはタイプが違うようだ。中身は父親に似ているのだろうか。フィアラ大公の夫君を見たことないけど。

 オリヴェルもダンスがうまかったが、まるでオートマタと踊っているかのような正確さだった。人間が相手じゃないみたい。やはり、ここには性格が出るのだろう。


「……あの、どうして私に声をかけてくださったのですか?」


 息が詰まりかけてそんな問いかけをした。オリヴェルは隠そうともせずに言った。

「妹に頼まれました」

「……そうですか」

 会話終了。駄目だ。持たない。本当に、何をしゃべればいいんだろう。これがレグルスやエヴァンだったら、適当な話題を吹っ掛けるのだが。と言うか、あの二人なら自発的にしゃべってくれる。

 沈黙したまま、曲は終わる。お互いに挨拶をして、エレアノーラは不思議な青年オリヴェルと別れた。踊っている最中に見つけておいた、背の高い黒髪の男性の元へ向かう。

「レグルス様」

 おそらく、レドヴィナの貴族だと思うが、壮年の男性と話していたレグルスはすぐに振り返り、エレアノーラを認めて微笑んだ。

「エリー。もう少し踊ってきてもいいよ」

 そう言われたが、エレアノーラは首を左右に振った。

「いいです。ちょっと疲れたので」

 他人がいるので、いつものように砕けた口調ではなく固めの口調で言った。それでも、二人が親しいことは見ている人にもわかるだろう。

 エリシュカ女王の兄だと言うソウシェク大公と別れ、レグルスとエレアノーラは壁際に向かう。ボーイの青年がグラスの乗ったトレーを差しだず。エレアノーラはワインを選んだが、レグルスが取ったのはただの水だ。

「エリー。飲み過ぎ禁物」

「大丈夫よ。他国で飲み過ぎたりしないわ」

 エレアノーラは絡み酒であるが、飲み過ぎなければ大丈夫だ。レグルスのように下戸ではないので、それなりに酒は飲める方だ。一杯くらいは大丈夫だろう。まあ、それ以上飲む気はないが。


「それに、今日のうちに座標を見ておきたいから、酒に酔っている場合じゃないもの」


 エレアノーラが言うと、レグルスは大げさに言った。

「それは重要だね。ぜひ頼む。何なら付き合うし」

「一人で大丈夫です」

 エレアノーラがかしこまった様子で言うと、レグルスは軽く笑い声をあげた。続いて「そうだね」と同意を示す声。

「でも、危なくなったら呼んでよ」

「いきなり魔法をぶっ放したりしないわ」

 他国の宮殿で、そんなことはさすがやらかさない。やらかすつもりはない。

 エレアノーラの魔法はかなり特殊だ。その中でも際立っているのが移動魔法である。この移動魔法は転移魔法ともいい、魔導師の能力を最大限に引き出しているもので、かなりの魔力量と、座標を計算できる明晰な頭がいる。

 エレアノーラは、どちらも兼ね備えていると言うことだ。この能力ゆえにエレアノーラはレグルスの同行人に選ばれたに等しいのだから、ちゃんとできることはやっておこうと思う。


 舞踏会が終了した後、エレアノーラは小型の望遠鏡を持って宮殿のバルコニーに出て星を観測していた。移動魔法を使うには、正確な座標がわからなければならない。その座標を知るためには、やはり、天体観測が一番だ。


 移動魔法による転移の手順としては、まず行先の座標を指定、魔法陣を形成、魔力を流し込む、出動場所の位置を把握、転移になる。ざっくりいうと。

「うーん……もうちょい右かなぁ。この位置からだと、見えないんだよね……」

 星の見え方で、だいたいの位置がわかる。逆に、時間を算出することもできる。天文学とは神秘的だ。レグルスは時間さえあれば怪しげな爆発系魔法実験をしているが、エレアノーラは暇さえあれば星を見ている。

 観測しやすい場所を探して、宮殿内を歩き回る。まあ、客人が歩き回れる場所は限られているので、その範囲内での捜索になるが。エレアノーラもまだ捕まりたくはない。

 ふと、人の話し声が聞こえた気がした。足を止め、方向転換。声がしたと思しき方へと向かう。すると、やはり話し声が聞こえてきた。

「えっと……が、こう……」

「ああ……」

 夜中だからか、小声で話しているようで詳細がよくわからない。エレアノーラはそちらに向かって言った。バルコニーに、壮年の男性と少女の姿がある。

 何となく眺めていると、男性の方がこちらに気が付いた。


「何かご用ですか」


 驚くほど抑揚のない声音だった。なんだか既視感がある。

 少女の方も振り返り、エレアノーラを見ると怯えたように男性の服の袖を握った。十代半ばほどの少女だった。

「ええっと……お邪魔して、ごめんなさい?」

「いや……」

 わずかに顔をしかめて男性が首を左右に振った。男性は、四十代半ばから後半くらいだろうか。エリシュカ女王と同世代に見える。よく見たら、隣の少女とは何となく顔立ちが似ていて、親子だろうとエレアノーラはあたりをつけた。髪と目の色が違うので、一目ではわからなかったのだ。

 ついでに言うなら、男性の方の顔立ちには見覚えがある。新女王ユリエが、確かこんなような顔立ちだった。きれいとしか言いようのない顔立ち。この男性は目じりなどに少々しわが見えるが、確実に血縁がある。と言うことは、彼がフィアラ大公の夫君と言うことになる。と言うか、フィアラ大公家の遺伝子ってすごい。見ただけでわかるレベルで親子が似ている。


「……あの、私、ログレス王国から来ました、エレアノーラ・ナイトレイと言います。カルヴァート公爵の娘です」

「これはご丁寧に。私はエルヴィーン・ヴァツィーク。フィアラ大公の夫に当たります。こちらは娘でラトカ。新女王ユリエの妹です」


 あ、やっぱり。男性、エルヴィーンの紹介を聞いてエレアノーラはそう思った。人見知りのエレアノーラが比較的落ち着いているのは、先にラトカに怯えられたからである。


 せっかくなので少し観察してみる。今日は星の光が明るいので、それなりによく見えた。


 エルヴィーンは茶髪に青の瞳の男性だ。なんと言うか、貫録のあるきれいな顔立ちの男性である。フィアラ大公の夫であるのならば、これくらい貫録がいるのかもしれない。

 ラトカは金茶色の髪に青、と言うよりは青紫に近い瞳をしている気がする。ややたれ目気味で、何となく気が弱そうに見えた。両親が美形だから当たり前だが、彼女も美少女である。

「それで、エレアノーラ様は何をなさっているのですか。こんな時間に」

「あー、いえ。星を観測していて」

 エルヴィーンの問いかけに、エレアノーラは素直に答える。別に趣味だと答えてしまえば、そこまでむやみにツッコまれないだろう。

「あなたもか」

 エルヴィーンが言った。彼らの前にも望遠鏡がある。エレアノーラが持っている持ち運び用のものではなく、もっと立派な望遠鏡だった。

 父親の影に隠れるようにこちらをうかがっていたラトカは、エレアノーラが星の観測をしていたと聞き、パッと顔を輝かせた。



「天文学、いいですよね!」















ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


再び懐かしい人。まあ、私的に、ですが。フィアラ大公の夫エルヴィーンです。こいつらの子供も3人ともでてきました。私としては感無量。

長男オリヴェルは外見母親、中身父親のある意味怖い人。中身と外見がマッチしております。ちなみにエレアノーラと同い年。

末っ子ラトカは姉と同じく元女王候補。趣味は父親と近いけど、性格はひねくれていない母親です。


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