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社交界【8】

お決まりのパターン(苦笑)













 エヴァンもやってきたのでちょうどいいと、エレアノーラはエヴァンとレグルスに王妃の元へ届けられた脅迫文について話をした。二人とも難しい表情になる。


「まあ、もともとログレスってやや閉鎖的だからね……」

「っていうか、外国人嫌いなんでしょ。おばあ様もいろいろ言われたらしいし」


 エヴァンの言葉に、エレアノーラはツッコミを入れる。エレアノーラの父方の祖父はスヴェトラーナ帝国人だ。祖父との大恋愛の末に結婚したらしいが、島国であるログレスはやや閉鎖的で、外国人に冷たいところがある。

「王族の結婚って外交カードだから、外国との取引の材料になることが多いものね。ミラナだって、スヴェトラーナとログレスの貿易をやりやすくするために嫁いできたんだし」

 とこれはレグルス。三人とも、出した答えは同じだった。



 外国人嫌いの貴族が、王妃を追い出そうとしている。



 王妃を輩出することは、王族につながりを持つもっとも簡単な方法だ。妾になると言う方法もあるが、現在、国王夫妻の夫婦仲は良好だ。子供も二人いる。去年生まれた子は男児だった。

 このままでは、外国の血を引く国王が生まれてしまう……と、外国人嫌いの貴族たちは考えたのかもしれない。

「馬鹿じゃないの。自分たちだってさかのぼれば大陸の血が入ってるのにさ~。大体、王族は身分の釣り合う相手としか結婚できないんだから、諸外国から王女を娶るのは普通じゃない」

「おおう……エリー、荒れてるね。王妃様に共感した?」

「いや、実例が近くにあるから」

「ああ、自分?」

「おばあ様よ」

 エヴァンがさらっとエレアノーラが外国人的なことを言ってくれたが、彼女は四分の一スヴェトラーナ帝国人であり、ほぼログレス人である。


「ま、それはともかく。これ、どうしましょうねぇ。エヴァン、透視できる?」


 レグルスが危機感のない調子で言った。エヴァンは脅迫文を手に取り、じっと見つめる。

「……念写で書かれていることはわかるけど、それ以外はさっぱり」

「じゃあ、魔導師が関わってるってこと?」

 なんだかまた面倒なことに、と思いながらエレアノーラは首をかしげた。

「足がつかないように、魔導師に念写を依頼しただけかも」

 エヴァンの推測になるほど、とうなずく。


 念写とは、魔法の一種である。紙でも壁でも何でもいいが、その対象に自分が思い描いたものをそのまま出現させる魔法が念写魔法になる。これが結構難しいのだ。

「脅迫文は『園遊会で』って言ってるものね……エリー、エヴァン」

 珍しく真剣な声音のレグルスに、エレアノーラとエヴァンは姿勢を正して「はい」と答える。


「確か、園遊会の警備に魔導師を貸してほしいと言う話がきているんだったわね」

「ええ。メイシー所長と相談中です」


 多くの魔導師の所属は王立魔法研究所になる。騎士団にも魔導師はいるだろうが、それは別枠だ。そのため、魔導師を動員するなら研究所の所長の許可がいる。

「エリー、その交渉、エヴァンからそのまま引き継いで」

「わかりました」

 エレアノーラがうなずく。代わりに、エヴァンは王妃への脅迫状関連の仕事を命じられた。

「できれば、園遊会までに犯人を見つけたいけど、まあ、無理だと思うから、できるだけ選択肢を狭めておいて」

「了解です」

 エヴァンも力強くうなずく。エレアノーラは「はい」と手をあげた。


「局長は園遊会には王族側で参加よね?」

「ええ。国賓の方が何人かいらっしゃるから、王弟モードで行くわよ」


 何それ。という野暮なツッコミは入れないでおこう。


「じゃあ、局長は警備の人数には入れないと言うことで」


 つまり、エレアノーラはレグルスが王族として出席しないのなら、警備の人数の中に入れていたのだ。相手が局長だろうが王弟だろうが、使えるものは使う。


「おとり作戦と言うのもいいかもしれないね。魔導師はパッと見、一般人との違いがわからないから」


 ふとエヴァンが提案した。確かに、いかつい騎士とは違い、魔導師は線の細いものが多い。招待客として紛れ込むことも可能だろう。

「なら、女性魔導師を王妃様の侍女としてつければいいわ。カレンとかならできそうじゃない?」

「なるほど。いい案かも。エリーはやらないの?」

「だって、王妃の侍女として参加したら、行動が制限されるじゃない。私は普通の警備側で参加するわよ」

 エレアノーラは自分が侍女の振りをするつもりはない。そもそもできるとは思えない。なら、初めから警備側として参加する。

 レグルスとエヴァンは笑って「そうだね」とうなずいた。何となく、二人の視線が生暖かい気がして居心地が悪い。なんと言うか、張り切る小さな子を見ているような目だった。言っておくが、エレアノーラはそんなに小さな子ではない。
















 なんだかんだで園遊会前日。エヴァンの情報収取能力をもってしても、脅迫文の差出人は特定できなかった。エレアノーラはひそかにうちの両親ではないか、と思っていたのだが、どうやらカルヴァート公爵はそこまで愚かではなかったようだ。

 脅迫文に関してはレグルスから国王に伝えてもらった。二人は兄弟だから会話をするのも自然だし、レグルスを介した方が騒ぎが大きくならない。


 一方のエレアノーラは王妃とのつなぎ役だった。何度か王妃の元を訪れ、話を聞いたが心当たりが多すぎてしぼれない、と言う始末である。これは現行犯で取り押さえるしかないだろうか。

 魔導師の一人を侍女として付けてもいいか、と言う提案には快諾してくれた。正直ほっとした。侍女役には、やはり、防御系魔法を得意とするカレンを配置する。彼女は真っ青だったが、一応子爵令嬢なのでやればできるだろう。エレアノーラだってできた。

 警備計画の最終確認を行っていたエレアノーラは自分の名が呼ばれるのを聞いて目をあげた。


「エリー」


 レグルスだ。何だか手招きしている気がする。そう思って立ち上がって近づくと、がっちり手首をホールドされた。

「え、なに?」

「ちょっとね――エヴァン。ちょっと出かけてくるわね」

「はーい。行ってらっしゃい」

 と、エヴァンは気にした様子もなく手を振っている。なんだか最近、このパターンが多いな!

「ちょ、局長! 計画確認中だったんだけど!」

「ああ、それ。ちょっと修正はいるから待ってね」

 と片目をつぶるレグルスはやはり色っぽい。ではなく。


「どこに連れて行かれるの!?」


 ずんずん宮廷の奥……つまり、王宮の方に向かっている気がするのだが、気のせいだろうか! 境目までは来たことがあるが、王族の居住空間に入るのは初めてである。

「大丈夫よ。私が一緒だから」

「や、そう言う問題じゃないんだけど……」

 小声でツッコミを入れたが、レグルスは止まらない。一応、エレアノーラの歩行速度に合わせてくれているらしく、足を取られることはなかったが、それでもずんずん進んでいく。


「連れてきたわよ」


 ノックもせずにレグルスは部屋の扉を開けた。どうやら、ゲストルームの一つらしいが、部屋の中の光景は予想外のものだった。

「いらっしゃい」

 そういってひらひら手を振るのは王妃だ。何故か国王もいる。彼の存在はレグルスも予想外だったらしく、「どうしたんですか?」と尋ねている。どうやら、仕事を抜け出してきたらしい。

「休憩だ、休憩」

 国王は笑ってそう言った。まあ、レグルスとエレアノーラも仕事を抜けてきているので、強くは言えないが。どうやらレグルスとエヴァンは計っていた気もするけど。

 そして、異様なのは部屋の中に並べられたドレスの数々。ここまでくれば、エレアノーラとて何をしようとしているのかわかる。


「きょ、局長。私をおとりに、むぐっ」

「はい、そこまで。エヴァンと相談して決めたんだけど、あなたにはやっぱり会場内で招待客に扮して警備をしてもらおうと思ったの」


 背後から口をふさがれ、レグルスにそんなことを言われる。とりあえず、そう言う建前なのはわかった。

 だが、レグルスは確実にエレアノーラを王妃の身代わりにするつもりだ。おとりだ、おとり。デコイともいう。背格好が似ているので、似たようなドレスを着て似たような髪型をすれば、もしかしたら見間違うかもしれないが……エレアノーラは無言でレグルスを睨み付ける。彼が危険なところにエレアノーラを放り込むのは、ある意味、彼女を信頼している証拠だ。


「そうしたら、ミラナがドレスを選びたいって言ってくれてね」


 ニコニコとエレアノーラを解放したレグルスは言う。王妃を見ると、彼女はこくこくうなずいているが、おそらく、彼女が着るドレスと似たようなドレスを選ぶためだろう。

「……と言うか、私、採寸された覚えはないんですけど」

 ここにあるドレスはどう考えてもオーダーメイドのものだろう。そう思って尋ねると、王妃は笑って「わたくしのサイズで代用したの」と答えた。

「エレアノーラの方が背は高いけれど、体格は同じくらいでしょう?」

「……そうですね」

 王妃に比べると、エレアノーラの方がやや背が高い。それでも、ドレスはもともとハイヒールを履くことを前提にしているので、スカートは長めに作られている。


「うふふふ。わたくし、末っ子だから妹が欲しかったのよねぇ」


 なんだろう。王妃の笑みが邪悪に見える。エレアノーラは少し後ずさった。その肩をレグルスがつかむ。

「さあ。どれがいいかしら?」

 王妃は楽しげに言った。すかさずレグルスが口をはさむ。

「淡い色が似合うと思うんだけど」

「ああ、ミラナも淡い色が似合うもんな。エレアノーラ嬢も淡い金髪だし、似合うだろうな」

 何故か国王まで参戦してくる。やはり、エレアノーラが何となく王妃に似ているからだろうか!?

「でも、逆に濃い色でもよさそう……」

 王妃がエレアノーラを連れてドレスをあさりながらつぶやく。もしかして、淡い色ばかり着せられて、濃い色が着たくなったのだろうか。


「エレアノーラ、どれがいい?」


 一応聞かれたが、エレアノーラにはよくわからない。


「お、お任せします」


 この後、エレアノーラは二時間近く拘束されることになる。ちなみに、気づいたらレグルスと国王はいなくなっていた、というのは言うまでもないだろう。

















ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


というか、この章長いですね……。


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