子猫ちゃん
「ありがと」
ワカメから自由になったルークは、すぐにサーベルタイガーのところへ走っていった。
宙吊りのサーベルタイガーは激しく暴れて、ワカメを爪で引き裂いた。
2階建ての屋根くらいの高さから、ドンッと落ちたサーベルタイガーは、地面でジタバタしていた。
だって、ほら、ワカメが体に巻きついてるからね。
ルークは、いつの間にやら、左腕全体を毛布のようなものでグルグル巻きにしていた。
その左腕を差し出しながら、ルークはジタバタするサーベルタイガーに話しかけた。
「誰がお前を呼んだ?」
ドキッ。
ルークって、真剣な顔すると、かっこいい。
サーベルタイガーは、魔物らしい真っ赤な目をギラギラさせて、ルークをにらんでる。
ガブッ
あ、噛みついた。
サーベルタイガーが、ルークのグルグル巻き毛布の腕に、鋭い牙を突き立てた。
痛そうー…
ルークはちっとも慌てなかった。
サーベルタイガーを噛みつかせたまま、何やら呪文を唱えてる。
あわわ、毛布が赤くなってきたよ。
あれ、ルークの血だよね。
魔術師は、血を触媒にして、魔術の効果を強くするって聞いたことある。
多分、わざとやってるんだよね。
でも、うわー…
…
小悪魔ナッツ、流血沙汰とか、ムリです。
そうこうするうち、呪文が終わったみたい。
サーベルタイガーがおとなしくなって、白い靄に覆われた。
ぼむ。
なんだか、かわいい音がした。
靄が晴れて、サーベルタイガーがいたところに、千切れたワカメの小山が見えてきた。
小山になったワカメがモコモコ動いた。
にゃ。
なにこれ!
超ラブリーな子猫ちゃんがいる!
かわいい!
「キャー!こっちおいでー!子猫ちゃーん!」
ナッツ、子猫は大好きです。
虎猫ちゃんに駆け寄って、ほっぺすりすり…
癒されるー
「ナッツ、これ」
「はい?」
子猫を抱き上げて振り向くと、ルークが毛布を取り去っていた。
血染めの毛布。
ゾッ。
やだー!
「ナッツ、何とかして」
「ええ!」
ルークは腕まくりして、血みどろの左腕を差し出してきた。
ナッツ、ピンチ。
血の気が引いた。
この左腕、私が何とかするの?
目で問いかけてみたら、ルークが当たり前、みたいな顔で頷いた。
ムリー!
…
…
やりゃあいいんでしょ!
はい、分かってます。断る権利とか、ないですもんね。はいはい。
使役されてますもんね。
かわいい子猫ちゃん、待っててね。
私は、子猫を地面において、飛び立った。
広場では、警備隊の人たちが、いまだにワカメにからまって宙づりになっていた。
知ったこっちゃない。
「誰か!救急箱とか持ってないの!」
「ちょっと!早くしなさいよ!」
「さっさと持ってこいっつてんの!」
「もたもたすんな!愚図ども!」
その辺の警備員を捕まえて、問いつめた。
イラついてたので、胸ぐらつかんで締め上げた。
ナッツが可愛いからでしょう。
すぐさま、救急箱が運ばれてきたよ。
手当ての方法なんて、知るわけない。
消毒液らしきものを、ガーゼにドバドバかけて、ルークの左腕の傷口に押し付けた。
いたたたた、あの、痛い、ちょっと、痛いって、あたたたた。
ルークがなんか言ってるけど、知ったこっちゃない。
あとは、包帯ぐるぐる巻き。
それ以上のことを、小悪魔に求めんな。