ワカメだよ
あっという間に、西の町ケンケンについた。
町長さんに案内されてついた広場には、盾を持って構える警備隊の人たちがいた。
「はい、ごめんよ」
ルークは警備隊をかき分けて、その中心に向かって行った。
しょうがないから、私もついて行った。
「いたな」
ルークがうれしそうな声で言った。
警備隊をかき分けた先の広場には、噴水があった。
ちょうど、その前に、大きな虎の魔物がいた。
サーベルタイガーだね。
爪も牙も長くて鋭い。
警備隊は、遠巻きに盾を持って囲んでいるけど、完全にへっぴり腰。
サーベルタイガーは、今のところ召喚酔いなのか、襲ってくることはなく威嚇で喉を鳴らしているだけだ。
さて、うちのご主人様ルークは、何をするのやら。
どれだけの魔術師なのか見てみたい思いもあって、興味津々。
「あ、そういえば、この広場なら」
ルークは何かひらめいたようで、手をポンと打ち合わせた。
そして、どこからか緑の液体が入った小瓶を取り出した。
「いけるかな?それ!」
疑問形のくせに迷いなく、ルークは小瓶をサーベルタイガーのいる広場の方へ投げつけた。
小瓶はサーベルタイガーには全然届かず、広場に落ちて割れた。
緑の液体が石畳に吸い込まれていった。
…
ピシ
ピシピシ
なんか、石畳から音がする。
と思ったら、石畳が下から盛り上がるように割れ出した。
ゴゴゴゴゴという地鳴りもして、立ってられない。
ナッツ、小悪魔ですから、羽出して飛んじゃおう。
飛んだら楽になった。
あちこちで皆さん、膝ついて動けずにいます。
同じく膝をついているのに、ルークはすごくうれしそうな顔をしている。
石畳の下から、巨大なワカメらしきものがたくさん出てきた。
石畳を割って、にょろにょろと天に伸びている。
その高さ、およそ3階建ての屋根くらい。
地鳴りは止んだけど、うにょうにょワカメが動くから、視界が悪い。
見えた!
な、なんと、サーベルタイガーがワカメに絡め取られている!
ワカメに絡まってジタバタもがくサーベルタイガー。
空中に持ち上げられて、どうしようもない。
捕獲成功?
見た目はちょっとあれだけど、あっという間に解決か?
やったね、ルーク!と思い、私は振り向いた。
…
…
…
「ルーク、何やってんの」
「あははは!しまったしまった」
ルークがワカメに絡め取られて、宙づりになっていた。
呆然としてよく見ると、逃げ遅れた警備隊の何人かが、同じ状態になっている。
「悪い。何とかして」
ルークがきれいにウィンクしてきた。
えー…
なんか、やだ。
でもほら、使役されている身ですから。
やりましたとも。
小悪魔ナッツ、巨大ワカメをほどくために奮闘しました。
お肌には良かったと信じたい。